【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

38 宴の後

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 明け方まで宴は続いたが、そのうちに家に帰る者、そのまま寝てしまう者と徐々に欠けていき、リュート奏者ことロドヴィーゴはリノとディーノに支えられて、滞在している間の彼の寝台に運び込まれた。今頃大きな鼾をかいていることだろう。

 イレーネは完全に眠ってしまう前にディーノによって部屋に送られていた。

 ロマーリオは地べたで眠りこんだままだ。起こそうとしても起きなかったためそのまま放置した。誰かがかけた毛布にくるまってむにゃむにゃ呟いていた。

 ロゼッタは酒にはめっぽう強く、加減して呑んでいたリノと最後まで起きていて酔っ払う者の面倒を見ていた。途中までディーノも手伝っていたのが、二人にもういいからと半ばむりやり部屋に追いやられた。

 今まで使用していた部屋は滞在者用になったため、リノとディーノの寝台は工房の隅に置かれている。一応は年頃だからイレーネと同室にはできないとロゼッタに言われ、工房に置くこととなったのだ。しかしディーノとしてはほっとしていた。もう彼女と同じ部屋ではどきどきしてしまって眠れる自信はなかった。

 物音で目を覚ましてしばらくまどんでいたディーノは、ロゼッタとリノの話し声が聞こえてきてすでに二人が起きていることに気がつき、眠い目をこすりながら身体を起こした。二人とも少しは眠ったのだろうか。

「おはよう」

 ディーノが姿を現すと、二人は卓について紅茶を飲んでいた。食べ物は並んでいない。さすがに明け方まで飲み食いしていたのだから腹はすかないのだろう。

「おはよう。起こしてしまったかい」

「イレーネはまだ寝てるから、あんたももう少し寝ていてもいいんだよ」

 リノとロゼッタは揃ってディーノに優しい声をかける。

 二人は若干眠そうな顔つきではあったが、酔っ払っている様子はなかった。しこたま呑んだだろうアルコールはもう抜けたのだろうか。

 二人は向かい合わせに座っていた。ディーノは自分のコップを用意して、リノの隣に座った。ティポットから茶を注ぐ。

「オレはあまり呑んでないから、大丈夫。二人こそ大丈夫なの?」

「あれぐらいの量じゃ酔えないよ。水みたいなもんだしねぇ」

 豪快な笑い声をあげてロゼッタが言った。あれぐらいと言うが、彼女はみんなの世話をしながらも、相当な量を呑んでいたはずだった。いちいち杯の数などかぞえていなかったが、ロゼッタが何度もおかわりをしている姿をディーノは目にしている。

「あんなに飲んでもけろっとしてるなんて、うらやましいよ」

 環境のせいなのか、体質のせいなのか。ワインを『水』と豪語できるロゼッタがディーノには羨ましかった。呑み慣れれば少しづつでも増えていくのだろうか。ロゼッタほどでなくてもいいが、せめてみんなと一緒に盛り上がれるくらい呑めるようになりたいと思っていた。ほとんど素面の状態で酔っ払いのテンションについていける特技は、ディーノにはなかった。

「ディーノの場合は、アルコールを分解する能力が低いんだろうね。ご両親も弱かったのかもしれないね。いちがいに遺伝するとは言えないけど」

 リノが云った。

「環境じゃなくて?」

「うーん。小さい頃から飲んでいるから強いとは限らないと思うんだよね。ここにいる子はなぜだか強い子ばかりだけど、前はいたんだよ。両親は強いのにまるっきりだめっていう子も。だから無理はしないほうがいいと思うんだ。大人になったら付き合いで飲まないといけないこともあるかもしれないけど、限界の量は超えないようにうまく断れるようになるのも大人の対応の一つだと思うよ。まあ、無理に勧めるほうが悪いんだと思うけど」

 そう言ってリノは苦笑した。

 隣室で倒れているピエールのことを言っているのだろうか。

 以前、ワルター老の誕生会で調子に乗って飲みすぎて寝込んでしまってから、ディーノに酒を勧める人はいなくなった。どんなに酔っ払っていても、強要する者はいなくなったのだ。

 ディーノは自分のジョッキに注がれなくなったことを寂しく思っていたが、自分のペースでちびちびと飲んで、ワインだとジョッキ一杯が限界であることを悟った。途中で倒れて翌日までみんなに心配をかけるよりは、限界で止めておくほうが楽しい席となる。ディーノにお酒を注がないのは、生活を共にする者たちの優しさでもあったのだ。ようやくディーノはそのことを理解し、寂しいという気持ちは晴れていった。
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