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第一部
34 プロのリュート奏者
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「なんだか賑やかだね」
工房にいたリノが振り返った。
「よくわからないけど、楽しそうにしてるよ。リュートは気に入ってもらえたの?」
「ああ。提示されていた金額より多くもらえたんだ。別の奏者も紹介してもらえたしね」
リノの今回の注文相手はリュート奏者だった。王族の前での演奏経験もある有名な奏者からの特別注文であったことから、リノは緊張しながらも気合と心のこもった仕事をした。半年もの間、他のリュートを造ることは一切なく、集中して造りあげたものだけに、高い評価はたくさんの喜びと自信をリノに与えたことだろう。
リノの背中を見てきたディーノにとっても、その評価は自分のことにように嬉しかった。
「すごい。もう注文が入ったの?」
「注文はまだなんだ。近いうちにその人がここに来ることになってる」
「え! リュート奏者が……? ここに、来るの?」
驚きのあまり、頭が真っ白になった。
「ああ。僕の工房を見てから考えたいってね」
「いつ。いつなの?」
リノに食いつかんばかりの勢いで訊ねる。
「街での演奏会が終わってからだから、一週間ほど後かな」
「演奏聴かせてもらえたりするのかな?」
「それはどうだろうね。相手は一流の奏者だからね。試し弾きくらいはするだろうけど、演奏となるとわからないね」
リノの口調は冷静だった。あまり期待をしていないのかもしれない。
「うわあ。聴きたいな」
プロのリュート奏者に会える。演奏は聴けるかわからないけれど、試し弾きでも構わない。いや、一目見られるだけでもいい。
ディーノは、期待で胸が高鳴った。
扉の向こうからロゼッタがディーノを呼んでいた。リノに肩を叩かれて気づくと、慌てて飛び出した。
工房にいたリノが振り返った。
「よくわからないけど、楽しそうにしてるよ。リュートは気に入ってもらえたの?」
「ああ。提示されていた金額より多くもらえたんだ。別の奏者も紹介してもらえたしね」
リノの今回の注文相手はリュート奏者だった。王族の前での演奏経験もある有名な奏者からの特別注文であったことから、リノは緊張しながらも気合と心のこもった仕事をした。半年もの間、他のリュートを造ることは一切なく、集中して造りあげたものだけに、高い評価はたくさんの喜びと自信をリノに与えたことだろう。
リノの背中を見てきたディーノにとっても、その評価は自分のことにように嬉しかった。
「すごい。もう注文が入ったの?」
「注文はまだなんだ。近いうちにその人がここに来ることになってる」
「え! リュート奏者が……? ここに、来るの?」
驚きのあまり、頭が真っ白になった。
「ああ。僕の工房を見てから考えたいってね」
「いつ。いつなの?」
リノに食いつかんばかりの勢いで訊ねる。
「街での演奏会が終わってからだから、一週間ほど後かな」
「演奏聴かせてもらえたりするのかな?」
「それはどうだろうね。相手は一流の奏者だからね。試し弾きくらいはするだろうけど、演奏となるとわからないね」
リノの口調は冷静だった。あまり期待をしていないのかもしれない。
「うわあ。聴きたいな」
プロのリュート奏者に会える。演奏は聴けるかわからないけれど、試し弾きでも構わない。いや、一目見られるだけでもいい。
ディーノは、期待で胸が高鳴った。
扉の向こうからロゼッタがディーノを呼んでいた。リノに肩を叩かれて気づくと、慌てて飛び出した。
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