【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

27 二人の時間

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 ロゼッタが作っていてくれた食事を終えると、一緒に洗い物をすませ、就寝までの時間は各々の趣味に使うことにしていた。

 ディーノはいつものようにリュートを手にし、リノと共同で使っている部屋の窓際に置いてある椅子に腰かけた。

 部屋に入ってきたイレーネはベッド脇の椅子に座り、編み物を始めた。夫婦がいるときでも、寝るまでの時間は二人で過ごすことが多かった。

 それぞれの近くに置いたランプの灯りに浮かび上がった二人の影が、ちらちらと風で揺れる。

 ときどき二人は視線を絡ませ、微笑み合う。

 今夜奏でている曲は、テンポが早くて明るい曲調だった。こんなときのイレーネの編み物も、曲につられて進み具合が早くなる。

 今は冬に向けてセーターを編んでいる。去年は手袋、一昨年はマフラーを編んだ。誰のものを編んでいるのかは編んでいる本人にしかまだわからない。

「今夜はいつまで演奏するの?」

 ディーノの演奏は終わりがない。気分のままに弾くものだから、曲と曲の間が途切れない。途中で聴き知った曲が演奏されたと思ったらディーノのオリジナル曲になっていたりする。だからイレーネが話しかけるときは、曲の終わりを待ったりはしない。演奏の途中であっても遠慮なく声をかける。

 話しかけられたディーノも手を止めることなく、イレーネに答えた。

「あともう少し。もう少し」

 楽しそうに答える。

 イレーネは微笑んでから、小さくあくびをした。編み物の手を止め、背筋を伸ばす。

「疲れた?」

 ディーノが優しく問いかける。

「そろそろ眠くなっちゃった」

「それじゃ、オレもそろそろ」

 テンポが落ち、眠りを誘うようなゆったりした曲調に変わり、そして手を止めた。リュートを窓辺に立てかけ、イレーネの近くに歩み寄る。

「今日は進んだ?」

「ええ。もう少しで出来あがるわ」

「それは楽しみだね。まだ誰にあげるか決まってないの?」

「とっくに決まってるわよ。でも秘密」

「楽しみにしておくよ」

「だから秘密だって」

「はいはい」

 ディーノはイレーネに顔を近づけ、額に軽くキスをした。

「おやすみなさい」

 イレーネは籠に編み物をまとめ、ランプを持って立ちあがった。ディーノが扉を開ける。

「おやすみ」

 イレーネが向かいの部屋に入って扉を閉めるのを、ディーノは熱い眸で見つめていた。
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