26 / 157
第一部
26 三年後
しおりを挟む
「それじゃ、行ってくるからね」
村の入り口でリノとロゼッタは馬車に乗り込んだ。リノが手綱を握り、隣でロゼッタが後方に手を振った。街に向けて走っていく。
「行ってらっしゃい」
ディーノとイレーネは並んで夫婦を見送った。
「二人は出発したのかね」
「うん。注文されていたリュートを届けにね」
ワルター老に声をかけられ、ディーノが答えた。
「おまえさん、また背が伸びたんじゃないか。ひょひょろしとるの」
ワルター老の云い方に、イレーネがくすっと笑った。
「ひょひょろって。酷い云われ方だなあ」
ディーノはそう返しながらも、内心、ワルター老の云い方は嫌じゃなかった。
ワルター老が笑いながら云うので、冗談だとわかっているから。
子供だったが二人がこの村で暮らして、三年の月日が流れた。
ずいぶん背が伸び、もう二・三年もすれば夫婦を追い越してしまいそうだった。ディーノは精悍さを、イレーネは女性らしさを手にいれ、レーヴェ・デチーナと呼ばれていたあの頃の面影は残しつつも、大人に一歩近づいていた。
「しばらく二人かね。今晩飯でも一緒にどうだい。わしは一人だから寂しくてな」
「ありがとうございます。今日はお母さんが作り置きしてくれていったものがあるので、また近いうちに」
次はイレーネが答えた。
「いつでもおいで」
伴侶を亡くして気落ちしていたワルター老は、腰が少し曲がり老けてしまってはいたが元気だった。好々爺然とした笑みを浮かべて二人に手を振る。
リノの家は村人たちの小さな家と畑を通り越した奥にあり、村の入り口から家に戻るまでに出会った村人と一言二言話しながら歩いていく。
ほんの二年ほど前まではよく手を繋いで歩いていた。いつの間にか繋がなくなっていたけれど、村人からは兄妹のようだと思われていた。仲の良さは本物の兄妹以上かもしれない。
「おう、ディーノ、イレーネ。相変わらず仲が良いな」
「やあ、ロマーリオ。君も姉さんに甘えてみたらどうだい? もうじき街へ行ってしまうんだろ」
「あんなやつ願い下げだ。結婚する気になった男の気が知れないね」
「そんなこと云って。お姉さんに云いつけちゃうわよ」
「それだけは止めてくれ」
ロマーリオは頭を抱えて、首を激しく振った。姉弟仲が悪いわけではないが、姉には頭が上がらないらしい。
ディーノやロマーリオより年上の者たちは、すでに親元を離れて近くの街へ修行に出たり、別の仕事に就いて働いている。ロマーリオの姉は楽器販売をしている商人との結婚が決まっていた。彼女が集落を出たら、ロマーリオが最年長の子供だった。
畑仕事、鶏小屋と工房の掃除を一通り終わらせた頃には昼を回っていた。二人で昼食をすませ、午後からは近所の家の手伝いに向かう。人手が足りないときは皆で作業を手伝うことが習慣になっている。女ばかりの中、力のあるディーノの存在は重宝がられていた。
冬はもう少し先だが今から薪の準備をしておくため、ディーノはせっせと斧を振るう。まだ職人見習いであるロマーリオも女たちの仕事を手伝うこともあるが、最近は納品日が近い師匠である父親を手伝っている。
イレーネは女たちに混ざって村の近くの森で木の実を拾ってきた。日が暮れ始めると作業は終了し、家に戻る。
村の入り口でリノとロゼッタは馬車に乗り込んだ。リノが手綱を握り、隣でロゼッタが後方に手を振った。街に向けて走っていく。
「行ってらっしゃい」
ディーノとイレーネは並んで夫婦を見送った。
「二人は出発したのかね」
「うん。注文されていたリュートを届けにね」
ワルター老に声をかけられ、ディーノが答えた。
「おまえさん、また背が伸びたんじゃないか。ひょひょろしとるの」
ワルター老の云い方に、イレーネがくすっと笑った。
「ひょひょろって。酷い云われ方だなあ」
ディーノはそう返しながらも、内心、ワルター老の云い方は嫌じゃなかった。
ワルター老が笑いながら云うので、冗談だとわかっているから。
子供だったが二人がこの村で暮らして、三年の月日が流れた。
ずいぶん背が伸び、もう二・三年もすれば夫婦を追い越してしまいそうだった。ディーノは精悍さを、イレーネは女性らしさを手にいれ、レーヴェ・デチーナと呼ばれていたあの頃の面影は残しつつも、大人に一歩近づいていた。
「しばらく二人かね。今晩飯でも一緒にどうだい。わしは一人だから寂しくてな」
「ありがとうございます。今日はお母さんが作り置きしてくれていったものがあるので、また近いうちに」
次はイレーネが答えた。
「いつでもおいで」
伴侶を亡くして気落ちしていたワルター老は、腰が少し曲がり老けてしまってはいたが元気だった。好々爺然とした笑みを浮かべて二人に手を振る。
リノの家は村人たちの小さな家と畑を通り越した奥にあり、村の入り口から家に戻るまでに出会った村人と一言二言話しながら歩いていく。
ほんの二年ほど前まではよく手を繋いで歩いていた。いつの間にか繋がなくなっていたけれど、村人からは兄妹のようだと思われていた。仲の良さは本物の兄妹以上かもしれない。
「おう、ディーノ、イレーネ。相変わらず仲が良いな」
「やあ、ロマーリオ。君も姉さんに甘えてみたらどうだい? もうじき街へ行ってしまうんだろ」
「あんなやつ願い下げだ。結婚する気になった男の気が知れないね」
「そんなこと云って。お姉さんに云いつけちゃうわよ」
「それだけは止めてくれ」
ロマーリオは頭を抱えて、首を激しく振った。姉弟仲が悪いわけではないが、姉には頭が上がらないらしい。
ディーノやロマーリオより年上の者たちは、すでに親元を離れて近くの街へ修行に出たり、別の仕事に就いて働いている。ロマーリオの姉は楽器販売をしている商人との結婚が決まっていた。彼女が集落を出たら、ロマーリオが最年長の子供だった。
畑仕事、鶏小屋と工房の掃除を一通り終わらせた頃には昼を回っていた。二人で昼食をすませ、午後からは近所の家の手伝いに向かう。人手が足りないときは皆で作業を手伝うことが習慣になっている。女ばかりの中、力のあるディーノの存在は重宝がられていた。
冬はもう少し先だが今から薪の準備をしておくため、ディーノはせっせと斧を振るう。まだ職人見習いであるロマーリオも女たちの仕事を手伝うこともあるが、最近は納品日が近い師匠である父親を手伝っている。
イレーネは女たちに混ざって村の近くの森で木の実を拾ってきた。日が暮れ始めると作業は終了し、家に戻る。
15
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

殿下はご存じないのでしょうか?
7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」
学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。
婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。
その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。
殿下はご存じないのでしょうか?
その方は――。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

【完結】婚約破棄からの絆
岡崎 剛柔
恋愛
アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。
しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。
アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。
ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。
彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。
驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。
しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。
婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。
彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。
アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。
彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。
そして――。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる