【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

26 三年後

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「それじゃ、行ってくるからね」

 村の入り口でリノとロゼッタは馬車に乗り込んだ。リノが手綱を握り、隣でロゼッタが後方に手を振った。街に向けて走っていく。

「行ってらっしゃい」

 ディーノとイレーネは並んで夫婦を見送った。

「二人は出発したのかね」

「うん。注文されていたリュートを届けにね」

 ワルター老に声をかけられ、ディーノが答えた。

「おまえさん、また背が伸びたんじゃないか。ひょひょろしとるの」

 ワルター老の云い方に、イレーネがくすっと笑った。

「ひょひょろって。酷い云われ方だなあ」

 ディーノはそう返しながらも、内心、ワルター老の云い方は嫌じゃなかった。

 ワルター老が笑いながら云うので、冗談だとわかっているから。

 子供だったが二人がこの村で暮らして、三年の月日が流れた。

 ずいぶん背が伸び、もう二・三年もすれば夫婦を追い越してしまいそうだった。ディーノは精悍さを、イレーネは女性らしさを手にいれ、レーヴェ・デチーナと呼ばれていたあの頃の面影は残しつつも、大人に一歩近づいていた。

「しばらく二人かね。今晩飯でも一緒にどうだい。わしは一人だから寂しくてな」

「ありがとうございます。今日はお母さんが作り置きしてくれていったものがあるので、また近いうちに」

 次はイレーネが答えた。

「いつでもおいで」

 伴侶を亡くして気落ちしていたワルター老は、腰が少し曲がり老けてしまってはいたが元気だった。好々爺然とした笑みを浮かべて二人に手を振る。

 リノの家は村人たちの小さな家と畑を通り越した奥にあり、村の入り口から家に戻るまでに出会った村人と一言二言話しながら歩いていく。

 ほんの二年ほど前まではよく手を繋いで歩いていた。いつの間にか繋がなくなっていたけれど、村人からは兄妹のようだと思われていた。仲の良さは本物の兄妹以上かもしれない。

「おう、ディーノ、イレーネ。相変わらず仲が良いな」

「やあ、ロマーリオ。君も姉さんに甘えてみたらどうだい? もうじき街へ行ってしまうんだろ」

「あんなやつ願い下げだ。結婚する気になった男の気が知れないね」

「そんなこと云って。お姉さんに云いつけちゃうわよ」

「それだけは止めてくれ」

 ロマーリオは頭を抱えて、首を激しく振った。姉弟仲が悪いわけではないが、姉には頭が上がらないらしい。

 ディーノやロマーリオより年上の者たちは、すでに親元を離れて近くの街へ修行に出たり、別の仕事に就いて働いている。ロマーリオの姉は楽器販売をしている商人との結婚が決まっていた。彼女が集落を出たら、ロマーリオが最年長の子供だった。

 畑仕事、鶏小屋と工房の掃除を一通り終わらせた頃には昼を回っていた。二人で昼食をすませ、午後からは近所の家の手伝いに向かう。人手が足りないときは皆で作業を手伝うことが習慣になっている。女ばかりの中、力のあるディーノの存在は重宝がられていた。

 冬はもう少し先だが今から薪の準備をしておくため、ディーノはせっせと斧を振るう。まだ職人見習いであるロマーリオも女たちの仕事を手伝うこともあるが、最近は納品日が近い師匠である父親を手伝っている。

 イレーネは女たちに混ざって村の近くの森で木の実を拾ってきた。日が暮れ始めると作業は終了し、家に戻る。
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