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第一部
22 生活
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「身体を動かすためにはしっかりと食べておかないと」というロゼッタの持論により、朝昼晩しっかり食事をとれる生活になった。
鶏の声とともに起きる生活は変わっていないが、まどろんだ挙句うっかり二度寝をしてしまっても殴られるどころか怒られることもない。
畑仕事は日を重ねていけば慣れたし、鶏の世話はディーノには慣れたものだったので、集落での生活を苦に思うことはなかった。
イレーネもここでの生活が楽しいのか、笑顔が増えた。大きな声で笑うようになり、少し年上のお姉さんたちや、ロゼッタの年代、さらには数少ない年配者とも仲良く話すようになっていた。
嬉しいことがあるとディーノのところにやってきて、楽しそうに話をしていったり、もらったものを見せにきたりした。
イレーネの表情が明るくなったことは、ディーノにとっても嬉しいことだった。かつて願っていたことが、こんなにも早く訪れるとは思ってもいなかった。
一方で、いつまでここにいられるだろうか、という不安は拭い切れないでいた。屋敷のある町からどれだけ離れているのかわからなかったし、買い出しに出かけるという街が奴隷としてこき使われていたオルッシーニ家の治める領地でないとも言いきれず、追っ手がここに現れないとも限らない。
人の目や噂を気にかけ、少しでも異変があればすぐに逃げなければいけない、と終始気を張っていた。
一番気になるのが、ワルター老の眸だった。
この老人は何か知っているのではないか、全てを見透かされているのではないか。
たびたび向けられてくるワルター老の視線に、ディーノは恐れを抱いた。
だから老人の行動に注意を払いながら、夫妻とかかわることは避けようと思っていた。
距離を置いたのはワルター夫妻だけではなく、集落に住む人全員に、であったが。
朝日が十回昇っても、夕日が二十回沈んでも、追っ手がやって来るような気配はなく、何度か街に行った者たちからも、奴隷が逃げたという話は全く耳にしなかった。
その頃にはイレーネはすっかり集落に溶けこんでいたし、おぼつかない手つきのディーノにワルター老が手を差し伸べてくれたこともあった。
月日が経つごとに、ディーノに抱かせていた警戒心は緩んでいった。
ワルター老の視線は、厳しいここでの生活を幼い二人がやっていけるかと心配してのものだったこともわかり、開いていた距離を縮めていった。
鶏の声とともに起きる生活は変わっていないが、まどろんだ挙句うっかり二度寝をしてしまっても殴られるどころか怒られることもない。
畑仕事は日を重ねていけば慣れたし、鶏の世話はディーノには慣れたものだったので、集落での生活を苦に思うことはなかった。
イレーネもここでの生活が楽しいのか、笑顔が増えた。大きな声で笑うようになり、少し年上のお姉さんたちや、ロゼッタの年代、さらには数少ない年配者とも仲良く話すようになっていた。
嬉しいことがあるとディーノのところにやってきて、楽しそうに話をしていったり、もらったものを見せにきたりした。
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一方で、いつまでここにいられるだろうか、という不安は拭い切れないでいた。屋敷のある町からどれだけ離れているのかわからなかったし、買い出しに出かけるという街が奴隷としてこき使われていたオルッシーニ家の治める領地でないとも言いきれず、追っ手がここに現れないとも限らない。
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一番気になるのが、ワルター老の眸だった。
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たびたび向けられてくるワルター老の視線に、ディーノは恐れを抱いた。
だから老人の行動に注意を払いながら、夫妻とかかわることは避けようと思っていた。
距離を置いたのはワルター夫妻だけではなく、集落に住む人全員に、であったが。
朝日が十回昇っても、夕日が二十回沈んでも、追っ手がやって来るような気配はなく、何度か街に行った者たちからも、奴隷が逃げたという話は全く耳にしなかった。
その頃にはイレーネはすっかり集落に溶けこんでいたし、おぼつかない手つきのディーノにワルター老が手を差し伸べてくれたこともあった。
月日が経つごとに、ディーノに抱かせていた警戒心は緩んでいった。
ワルター老の視線は、厳しいここでの生活を幼い二人がやっていけるかと心配してのものだったこともわかり、開いていた距離を縮めていった。
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