【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

21 ロマーリオ

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 やがて水を飲んだ子供たちの視線が、近くで立っているディーノとイレーネに集まり始めた。

 囁き声で「誰?」「ロゼッタさんの親戚なんだって」「ここに住むの?」「そうみたいだよ」とこそこそと会話が交わされる。

 ディーノとイレーネは視線を合わせ、今が声をかけるチャンスだと感じていた。が、どちらも声を発せられずにいた。

 同年代や年下の子供たちとの交流が今までなかったディーノはどう対応すればいいのかわからなかった。こういうときこそ、リノとロゼッタの前で見せた、驚くほどのイレーネの積極性が発揮されないものかと考えていた。

 遠慮がちな、妙な空気が漂う。

 そんな中、背の高い男の子が前にでてきた。

 黒髪は天然なのかくるくる巻きながらばらばらな方向に向いていて、着ている服は泥だらけ。肩とズボンを繋いでいる二本の紐がなければずり落ちるほどだぼついたズボンを履いている。

 見かけだけでいえば、髪の毛は跳ね跳ねでもリノの服を借りたディーノのほうがまだ小奇麗だった。

「俺、ロマーリオ。おまえは?」

 気さくな口調で話しかけられた。そのお陰かディーノはすんなりと答えられた。

「オレはディーノ。こっちはイレーネ」

「兄妹か?」

「違う。一緒に住んではいたけど、兄妹じゃない」

「そうか。どこから来たんだ」

 聞かれるだろうと思っていたディーノは、昨夜イレーネが答えたものをそのまま伝えた。

 ロマーリオと名乗った少年は何度か頷いた後、にかっと笑い、

「ここに住むんなら俺たちの仲間だ。よろしくな」

 そう言って左手を差し出してきた。

 ディーノは、その左手とロマーリオの顔を交互に見返した。握手を求められていたのだが、そういう習慣のなかったディーノにはわからなかった。

 ディーノの横から別の手が伸びた。イレーネの手がロマーリオの手を握り返していた。

「イレーネよ。よろしく」

 にこりと微笑んで見せる。

 ロマーリオは照れたような表情を浮かべた。イレーネの手が離れた後の自分の手を、差し出したままの状態で見つめている。

 握手を理解したディーノがロマーリオの手をむんずと掴んだ。

「よろしく」

 ロマーリオが顔をあげた。

「ああ」

 しっかりと視線を合わせたディーノとロマーリオの顔の高さはほぼ同じだった。
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