【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

文字の大きさ
上 下
15 / 157
第一部

15 起床

しおりを挟む
 翌朝、鶏の鳴き声とともにレーヴェは目覚めた。

 布団をはねのけ、歩きだそうとして床との段差があることに気がつかず、盛大に転んだ。顔をしかめて、したたかに打ちつけた左肩から腕の辺りをさすりながら、部屋の中をゆっくりと見渡し、記憶を探る。

 ここがどこだかすっかり忘れていた。鶏の声に反射で目を覚まし、寝坊したと思ったのだ。

 ここはあの屋敷ではない。いまは鶏の世話も馬小屋の掃除もしなくていい。ただ周囲の状況に気を配ってさえいれば。

「おうい。物音がしたけど、大丈夫か」

 なんとものんびりした声がして、扉が開いた。顔を覗かせたのは昨夜食卓を共に囲んだ男性だった。

「なんだ寝ぼけて落ちたのか。寝足りなかったらまだ寝ていていいんだぞ」
 
 そう言うと彼はすぐに顔を引っ込めた。

 レーヴェは寝台と扉を交互に見つめた。もうしばらく惰眠をむさぼってみるか、それとも彼らの手伝いでもしたほうがいいだろうか。迷った挙句、レーヴェは部屋をでた。

 食卓には誰もいなかった。この部屋にはレーヴェがでてきた扉以外に、三つの扉があった。一つはイレーネの眠っている部屋への扉。あとの二つは外につながっているのだろうか?

 レーヴェは先にイレーネのいる部屋へ向かった。そこに女性がいるかもしれないし、いなくてもイレーネの様子を確認しておきたかった。

 そっと扉を開ける。窓はすでに開けられていて部屋は明るかった。少年のいた部屋より、調度品が少しだけ多かった。

 寝台は扉の右手、壁沿いに置いてあるが、イレーネの姿は布団の中になかった。どこへ行ってしまったのだろうか。

 レーヴェは急いで部屋を飛び出し、近くにあった扉を開けて飛び込む。

 そこはどの部屋よりも明るかったが、外ではなかった。天井に近いところにたくさん窓がついていて、そのすべての扉が開けれられているため朝の光がさんさんと差している。 

 部屋のそこここに木材や板切れが置いてあり、木屑がたくさん床に落ちていた。咳きこむほどではないけれど、少し喉に引っかかるような埃っぽい空間だった。

「起きたのか。おはようさん」

 男性が顔だけをレーヴェのほうを向けて声をかけると、すぐに顔を戻し、手を動かす。ここは彼の仕事場であるらしかった。

「あの、イレーネは?」

 おずおずと質問をすると、男性は作業をしながら答えた。

「もう起きてたよ。洗濯を手伝ってくれてると思うけど」

 この部屋に扉はなかった。もう一つの扉のほうだと気がつき、そちらに走った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

殿下はご存じないのでしょうか?

7
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 学園の卒業パーティーに、突如婚約破棄を言い渡されてしまった公爵令嬢、イディア・ディエンバラ。 婚約破棄の理由を聞くと、他に愛する女性ができたという。 その女性がどなたか尋ねると、第二殿下はある女性に愛の告白をする。 殿下はご存じないのでしょうか? その方は――。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~

細波
ファンタジー
(3月27日変更) 仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる… と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ! 「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」 周りの人も神も黒い! 「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」 そんな元オッサンは今日も行く!

処理中です...