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第一部

15 起床

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 翌朝、鶏の鳴き声とともにレーヴェは目覚めた。

 布団をはねのけ、歩きだそうとして床との段差があることに気がつかず、盛大に転んだ。顔をしかめて、したたかに打ちつけた左肩から腕の辺りをさすりながら、部屋の中をゆっくりと見渡し、記憶を探る。

 ここがどこだかすっかり忘れていた。鶏の声に反射で目を覚まし、寝坊したと思ったのだ。

 ここはあの屋敷ではない。いまは鶏の世話も馬小屋の掃除もしなくていい。ただ周囲の状況に気を配ってさえいれば。

「おうい。物音がしたけど、大丈夫か」

 なんとものんびりした声がして、扉が開いた。顔を覗かせたのは昨夜食卓を共に囲んだ男性だった。

「なんだ寝ぼけて落ちたのか。寝足りなかったらまだ寝ていていいんだぞ」
 
 そう言うと彼はすぐに顔を引っ込めた。

 レーヴェは寝台と扉を交互に見つめた。もうしばらく惰眠をむさぼってみるか、それとも彼らの手伝いでもしたほうがいいだろうか。迷った挙句、レーヴェは部屋をでた。

 食卓には誰もいなかった。この部屋にはレーヴェがでてきた扉以外に、三つの扉があった。一つはイレーネの眠っている部屋への扉。あとの二つは外につながっているのだろうか?

 レーヴェは先にイレーネのいる部屋へ向かった。そこに女性がいるかもしれないし、いなくてもイレーネの様子を確認しておきたかった。

 そっと扉を開ける。窓はすでに開けられていて部屋は明るかった。少年のいた部屋より、調度品が少しだけ多かった。

 寝台は扉の右手、壁沿いに置いてあるが、イレーネの姿は布団の中になかった。どこへ行ってしまったのだろうか。

 レーヴェは急いで部屋を飛び出し、近くにあった扉を開けて飛び込む。

 そこはどの部屋よりも明るかったが、外ではなかった。天井に近いところにたくさん窓がついていて、そのすべての扉が開けれられているため朝の光がさんさんと差している。 

 部屋のそこここに木材や板切れが置いてあり、木屑がたくさん床に落ちていた。咳きこむほどではないけれど、少し喉に引っかかるような埃っぽい空間だった。

「起きたのか。おはようさん」

 男性が顔だけをレーヴェのほうを向けて声をかけると、すぐに顔を戻し、手を動かす。ここは彼の仕事場であるらしかった。

「あの、イレーネは?」

 おずおずと質問をすると、男性は作業をしながら答えた。

「もう起きてたよ。洗濯を手伝ってくれてると思うけど」

 この部屋に扉はなかった。もう一つの扉のほうだと気がつき、そちらに走った。
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