【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

9 脱走の準備

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 それから毎夜、レーヴェはこっそりと奴隷部屋を抜け出すようになった。

 向かう先は地下室の前にある壁際。植木職人の小屋から盗み、隠し持っていたスコップで、壁の下を掘り始めた。

 掻くように土を掘り出し、目立たない茂みに土を移す。日の差さない場所であったお陰で、土は固くなかった。しかし掘るごとに土中に含まれた水分で土が重くなり、小さなスコップでの掘り出し作業は徐々につらくなっていく。ときおりスコップを取り落としながら、それでもレーヴェは手を動かし続けた。

 数日で塀の底が見えるところまで辿り着いたが、そこからさらに深く掘る。幾日にも渡って自分が通れるほどの深さまで掘れたとわかると、今度は横に穴を広げていった。上部の土を崩すようにスコップを立て、落ちてきた土を掻きだす。

 鼻の穴や口の中にも土は入ってくるが、レーヴェは気にすることなく、全身土まみれになりながら堀り進めていった。

 連日の作業で手のひらにマメができた。やがてやぶけて血が滲んだ。

 昼間の仕事に加え、夜間は一睡もせずに続けているせいで疲労はあったが、疲労よりも主への怒りのほうが上だった。

 イレーネを傷つける者は赦さない。一日も早くこんなところ逃げ出してやる。

 その一心で、レーヴェは血でぬるむスコップの柄を握り締めた。

              *

 主が屋敷を離れたある夜半、レーヴェはイレーネを起こした。戸惑うイレーネを促し、奴隷部屋の窓を開けてこそこそと出ていった。

 壁伝いに地下室の近くまで足音を殺して移動し、茂みにとびこんだ。目隠しに使っていた枯れ葉を払いのけ、穴を隠していた板をどけた。

「先に行くよ」

 レーヴェはイレーネに告げると、地中に身体を潜り込ませた。上から穴を覗き込んでくるイレーネに一度顔を見せ、大丈夫だと頷いてみせる。

 レーヴェが潜った先は、町中ではなく、裏山に通じていた。そのお陰で誰にも穴が見つかることなく、計画は思い通りに進んだ。

 潜ってきたイレーネの手を取ると、その軽い身体を引き上げた。

 潜った側に移動させていた土で穴を塞いで隠滅を図ると、二人は闇深き森に姿を隠した。
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