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第一部

7 差し入れのため

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 裏口の扉から外へ飛び出したレーヴェは、全速力で裏庭を駆け抜けた。建物をぐるりと回って外から地下室へと向かう。

 煉瓦塀に穴の空いている箇所を見つけた。滑り込むように辿り着くと、

「イレーネ! イレーネ!」

 穴に向かって声をかけた。

「レーヴェ? どうしたの?」

 小さな声が反響して聞こえた。

「大丈夫? 何かされたの?」

「昨日、骨董品を割っちゃって、怒られちゃった」

「殴られた?」

「うん」

「ごめん。オレ全然知らなくて。腹減ったろ。後で何か持ってくるから」

「ありがとう。でも食べられないかも」

「どうして? 食べないともたないよ」

「そうだね。うん、頑張って食べる」

「それじゃ、また後で」

 元気はなさそうな声だったけれど、話せる状態にあることにほっとした。倒れて動けなくなってるんじゃなかと心配していたのだ。

 それからレーヴェは大急ぎで仕事をした。小走りでてきぱきと動き回り、日々の仕事と細々と云いつけられる用事を片付けていった。

 町中に昼の鐘が鳴り響いたとき、台所に疾走した。誰よりも早く到着し、隅に置かれた自分用の昼餉を見た。

 いつものスープと固いパン。今日も何か良い事でもあったのか、小さいけれど葡萄が一粒加えられている。

 スープを飲み干し、パンと葡萄をズボンのポケットに突っ込んで隠した。他に盗めるようなものがないか、炊事係の目を盗んで物色したけれど、残念ながら何もなかった。

 諦めて、台所を飛びだす。

 ちょうど入ろうとしていた男と接触しそうになったけれどうまくかわして、地下室に向かった。
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