【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第一部

5 夢

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 ある日の夜、奴隷部屋にイレーネが戻ってこなかった。

 初めてのことだった。

 お使いでどこかに連れて行かれているのだろうか。

 気にはなりつつも、疲れがでてしまったのか、レーヴェは横になった途端眠りこんでしまった。

 イレーネのことを考えながら寝てしまったからか、夢を見た。

 レーヴェは町中にいた。

 黒や青や緑のチュニックを着た人々が通りを行き交い、行商人の馬車が石畳に音を響かせ、吟遊詩人が道端で人を集めリュートを弾き、歌を謳っている。その間を縫うように子供たちがばたばたと走っていく。

 屋台では串に刺さった肉が焼かれてもうもうと煙が上がり、野菜を包んだパンも売られている。ワッフル売りの歌も聴こえる。

 匂いがあればいいのにな、と考えた。香りがしないことが残念でならなかった。

 露天商は新鮮な魚や野菜や、色艶やかでみずみずしい輝きを放っている果物を並べている。 

 その果物屋の軒先で談笑し合う大人がいて、その近くにレーヴェがいる。

 大人はきっとお父さんとお母さん。買い物の途中で話し込んでいるのだろう。

 レーヴェは色とりどりの果物を眺めて、あれは甘いのかな、これは酸っぱそう、なんて卑しくも想像している。

 近くを馬車が通りかかって名前を呼ばれた。夢の中で、レーヴェはディーノと呼ばれていた。

 振り返るとイレーネが手を振っていた。髪飾りをつけて、三つ編みが揺れている。イレーネの両親もいて、みんな楽しそうに笑っていて──

 夢の中で、これは決して叶うことのない夢だなとレーヴェは気づいた。

 だから自分がやりたいと願うことを、好きなように、想像の翼をひろげた。

 夢の中でぐらい、好きなように楽しみたい。

 その世界は素晴らしく輝いていて、胸が弾んだ。
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