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第一部
3 イレーネ
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その場にしゃがんで、イレーネが差し入れしてくれた葡萄を味わった。
お腹が満たされるような量ではなかったけれど、心は満たされた。それに喉の渇きも少しましになった。
種と皮を転がしてやると、どこからともなく現れた鼠が持ち去っていった。
レーヴェとイレーネは、奴隷の中で唯一歳が近い。使用人も他の奴隷も大人ばかりで、十代前半なのは二人だけだ。だからか、よく話をするし、助け合いもする。
といってもイレーネがこの屋敷にやってきて、まだ一年ほど。イレーネが話してくれるようになるまで、少し時間がかかった。
イレーネが初めて屋敷にやってきた日のことを、レーヴェは鮮明に覚えている。
凝ったデザインではないけれど真新しい白い服を着て、靴を履き、豊かな黒髪を二本に分けて胸元に垂らしていた。
露出している顔や腕や足は日に焼けて健康的な肌色をしていて、町にいる子供たちと何ら変わらない姿をしていた。それなのに、屋敷のみんなを見つめるその表情は怯え、憂いを秘めた眸は落ち着きなく揺れていた。
少しでも高く値をつけるため、売買の直前には風呂に入り、綺麗な服を着させてもらえる。奴隷小屋で何も知らず純粋に喜ぶ子供たちを見てきたレーヴェにとって、少女のその反応は新鮮だった。
そして心がざわついた。
この子の笑顔が見たい。不安そうにしている顔ではなくて、心から楽しむ顔を。この子には自分と違う生き方をしてほしい。
実際は二人とも奴隷として生きていくしか方法がなかったけれど。
せめてイレーネに笑ってほしくて、積極的に声をかけた。
しかしイレーネは微笑むことはあっても、声をあげて笑う姿は見せなかった。いつも寂しそうな不安げな顔をしていて。
そんな顔を見ると、レーヴェの心はいつかイレーネを心の底から笑わせてやる、となぜかやる気に溢れるのだった。
お腹が満たされるような量ではなかったけれど、心は満たされた。それに喉の渇きも少しましになった。
種と皮を転がしてやると、どこからともなく現れた鼠が持ち去っていった。
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実際は二人とも奴隷として生きていくしか方法がなかったけれど。
せめてイレーネに笑ってほしくて、積極的に声をかけた。
しかしイレーネは微笑むことはあっても、声をあげて笑う姿は見せなかった。いつも寂しそうな不安げな顔をしていて。
そんな顔を見ると、レーヴェの心はいつかイレーネを心の底から笑わせてやる、となぜかやる気に溢れるのだった。
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