【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第三部 最終話

52 これからのこと

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「ところで、リュートはどうするつもりだい? さっきのリュートは?」

 ピエールに問われ、傍らに置いていたリュートを持ち上げる。

「これはロマーリオが作ったリュートなんだ。オレが買い取る」

「それは元気になってくれればと思って持ってきたやつだから。お前の演奏技術なら師匠クラスのリュートが必要だろ?」

 謙遜しているのかロマーリオが云う。

「ゼロから始めるんだから、初々しいこいつがいいと思ってるんだけど」

 本音を云ったディーノに向けて、ロマーリオが首を横に振った。

「いやいや。しっかりした人が作った楽器にしとけって。聴く人が聴いたら音の違いがわかるんだからさ。ね、ピエールさん」

「そうだね。ロマーリオ君には悪いけど」

 同意を求められたピエールは、眉尻を下げて少し困ったような顔をした。

「だから、それはオレが持って帰るよ。お前が有名になってくれたときに箔がつくしな。天才リュート奏者ディーノ様が弾いたリュートだってな」

 大口を開けてがははと笑うロマーリオ。

 しかしディーノは譲らなかった。

「いや。こいつはオレが買うよ」

「持って帰るって」

「買うから」

「しつこいなあ。じゃあやるよ」

「それはダメだ。こいつの価値がなくなってしまう」

「俺の作ったリュートはまだまだなんだよ」

「聴衆が喜んでくれたんだぞ。それだけの価値がこいつにはあるんだ」

 無駄とも思える押し問答に、先に白旗を上げたのはロマーリオだった。

「わかった。それなら俺からの祝いの品ってことにしよう。どうだ?」

「・・・・・・わかった」
 さすがに祝いと云われると断れなかった。しぶしぶながら頷く。
「それなら受け取らせてもらう」

「だけどな、人前で演奏するなら名前の通った人のリュートを使えよ。同業者に舐められるぞ」

 ロマーリオはまだ釘を刺してくる。そこへ、ピエールも乗っかってくる。

「僕も賛成だ。聴き慣れていない人には音の区別がつきにくいだろうけど、同業者にはわかるから。ロドヴィード・アニエッリの弟子なら、納得させるリュートを使って欲しい」

 師匠の名前を出して仕事を取る気はなかったけれど、どこかで知っている人と出くわすかもしれない。師匠の名に傷をつけるわけにはいかないな、と思う。

「目の前にすんごい人がいるんだぞ。リノさんのリュートの市場価格知ってるか? 凄いんだぞ」

 ロマーリオの言葉に首を傾げる。

「そうなの? オレ、楽器商との取引見たことないんだ」

「ロドヴィーゴさんから依頼されたリュートが出来上がってるから、僕から祝いの品にしよう」

 リノが穏やかな笑みを浮かべて云った。

「それは・・・・・・」

 リノの作製したリュートの価格がどれぐらいなのか予想もつかない。
 祝いの品だからともらってしまっていいものなのか躊躇った。
 リノには世話になった恩もある。これからは恩を返していかないといけないという思いもあった。
 だからすぐに返事ができなかった。

「ディーノ。遠慮することない。ありがとう、でいいんだよ」

 ロゼッタがにっこり笑いかけ、背中を押してくれた。

「わかった。ありがとう」

 この夫婦は本当に優しい。
 今までどうしてこの二人を親と思ってこなかったのか。
 顔を知らない生みの親より、リノとロゼッタのほうが親らしいことをしてくれているのに。
 これから少しずつ甘えてみよう。
 ディーノは感謝とともに、そう改めて思った。

「さて、街に住むんなら、二人の家を探さなくちゃね。荷造りもして、家具もそろえないと。これから忙しくなるよ」

 ロゼッタが楽しそうな笑みを顔いっぱいに浮かべた。
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