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第三部 最終話
35 回復傾向(ロゼッタ目線)
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日を追うごとに起きる回数や時間が増えていき、ディーノの身体はゆっくりと回復に向かっていた。
食べる物は蜂蜜や果物なら口にするが、人に差し出されたものを食べるだけで、自分から積極的に摂取しようとする姿勢はない。
生きる気力そのものを失ってしまっていると感じられるほどに、覇気がなかった。
起きている時間の大半はぼんやりとしていて、どこを見ているのかわからないし、声を発しないので何を考えているのか読めない。
しかしそんな状態でも、ときおりイレーネの姿を目で追いかけ、嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべるときがあった。子供に戻ったかのような姿に、ロゼッタはそっと目尻を拭った。
イレーネの献身的な看病のおかげか、一週間ほどで明るい間は起き、暗くなると寝る日常に戻った。たまに昼寝をすることもあるようだが、身体はほぼ回復したと見ていいように思えた。
ロゼッタは一度だけリノのために集落に帰っただけで、ずっと街にいた。そろそろ帰ろうかと思い、イレーネに仕事復帰について訊ねた。
少しだけ考えたイレーネは、「籍があるのならそろそろ復帰するわ」と答えた。
ディーノが安定してきたので、イレーネ自身の睡眠も落ち着いて取れるようになった。看病の疲れはさほどないようだった。
「それじゃ、明日にでも一緒に挨拶に行こうか」
イレーネは頷いた。
その日の仕事のとき、ロゼッタはおかみさんに明日からのイレーネの復帰を願い出た。
「彼の身体の調子は良さそうなのかい?」
「ええ。おかげさまでかなり回復しました」
「そりゃ良かったよ。ま、うちとしてはロゼッタさんに来て欲しいくらいなんだけどね」
「ありがたい話ですけど、イレーネにはあたしが代わりでお世話になっていたことは、言わないでもらえますか?」
「それはいいけど。なんでまた?」
「母親として当たり前のことをやっただけですから」
「そうかい。わかったよ。でももしイレーネが所帯を持って辞めるってなったらさ、ロゼッタさん考えてみておくれよ。子供が育てば手持ち無沙汰になるだろうしさ」
「ありがとうございます。その時はまたよろしくお願いします」
ロゼッタにそのつもりはなかったが、おかみさんの気持ちに感謝した。
翌日、菓子を持って二人で仕事場に向かい、挨拶の後イレーネは受付に立ち、ロゼッタは実家に戻った。その日はイレーネの代わりにディーノの世話をし、リノの所に帰る手配をした。
ぼんやり座っているディーノに話しかける。
「あたしは明日帰るけど、また来るからね。その時には元気になってくれていると嬉しいんだけどね」
ディーノは何も云わない。けれど、寂しそうな顔をしたように見えた。
食べる物は蜂蜜や果物なら口にするが、人に差し出されたものを食べるだけで、自分から積極的に摂取しようとする姿勢はない。
生きる気力そのものを失ってしまっていると感じられるほどに、覇気がなかった。
起きている時間の大半はぼんやりとしていて、どこを見ているのかわからないし、声を発しないので何を考えているのか読めない。
しかしそんな状態でも、ときおりイレーネの姿を目で追いかけ、嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべるときがあった。子供に戻ったかのような姿に、ロゼッタはそっと目尻を拭った。
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「それじゃ、明日にでも一緒に挨拶に行こうか」
イレーネは頷いた。
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「ええ。おかげさまでかなり回復しました」
「そりゃ良かったよ。ま、うちとしてはロゼッタさんに来て欲しいくらいなんだけどね」
「ありがたい話ですけど、イレーネにはあたしが代わりでお世話になっていたことは、言わないでもらえますか?」
「それはいいけど。なんでまた?」
「母親として当たり前のことをやっただけですから」
「そうかい。わかったよ。でももしイレーネが所帯を持って辞めるってなったらさ、ロゼッタさん考えてみておくれよ。子供が育てば手持ち無沙汰になるだろうしさ」
「ありがとうございます。その時はまたよろしくお願いします」
ロゼッタにそのつもりはなかったが、おかみさんの気持ちに感謝した。
翌日、菓子を持って二人で仕事場に向かい、挨拶の後イレーネは受付に立ち、ロゼッタは実家に戻った。その日はイレーネの代わりにディーノの世話をし、リノの所に帰る手配をした。
ぼんやり座っているディーノに話しかける。
「あたしは明日帰るけど、また来るからね。その時には元気になってくれていると嬉しいんだけどね」
ディーノは何も云わない。けれど、寂しそうな顔をしたように見えた。
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