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第三部 最終話
31 抜け殻(イレーネ目線)
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衰弱している様子のディーノを医者に連れて行くと、長旅の疲れでしょうと診断され、しばらくは安静にしているようにとの事だった。
ロゼッタと共に実家に連れ帰り、イレーネの寝台で横になったディーノは、すぐに眠りに落ちた。
自分の寝台でディーノが眠っている。たったそれだけのことでイレーネは幸せを感じられた。眺めているだけで夢心地だった。目の前にいるディーノが実体を持っているのか気になって、ときおりそっと触れたりもした。
元気がないことは気になったけれど、生きて目の前にいる。まずはそのことに感謝した。
「イレーネ。少し眠りな。あたしが見てるから」
ロゼッタが囁くように云って、肩に毛布をかけてきた。
「いいえ。お母さんこそ寝てちょうだい。私は平気よ」
「明日も仕事だろう。身体が疲れちまう」
「しばらく休ませてもらうわ。こんな状態のディーノを放ってはおけないもの」
「馬鹿を云ってんじゃないよ。仕事を何だと思ってるんだい」
ロゼッタの口調がきつくて、イレーネは驚いた。もしかして怒られたのだろうか。
「心配なのはわかるけど、あんた自身は元気なんだから。仕事先に迷惑をかけてはだめだよ。ディーノはあたしが看病するから、あんたはちゃんと自分の仕事をやってきな」
「行かないわ」
ロゼッタの云うことは正しいことだとわかる。わかっていながらも、イレーネは冷静に告げた。決して感情に任せてはいない。
「イレ――」
ロゼッタが咎めるように大きな声を出そうとしたが、イレーネが自分の唇に手を当てて静かにとポーズをとると、途中で口を閉ざした。
「ディーノが回復するまで、ずっと傍にいるわ」
「そうは云ってもね、あんた」
「私がいないと、ディーノはきっとだめになってしまう。私なら、ディーノを癒してあげられるわ」
イレーネには自信があった。荷台で縮こまり、別人のようだったディーノが、イレーネを見た途端、わずかとはいえ眸に力を取り戻したのだから。
ロゼッタは溜め息を吐いた。イレーネの初めての反抗にだろうか、それともディーノに向けられていたのか。
「なんにも話さないんだよ。この子は。昨夜帰ってきたときにあんたがいないとわかったら、すぐに出て行こうとしたんだ。ふらふらの身体で。引きとめて、今朝まで待つように宥めたんだよ。横になったらころっと寝ちまった。一体何があったんだろうねえ」
ロゼッタが心配そうにディーノの顔を覗きこむ。
「心に深い傷を受けるほどの何かがあったのね。話してくれるまで待ちましょうよ」
「・・・・・・そうだね」
ロゼッタの義姉が作ってくれた夕餉を部屋で食べ、交代でディーノの看病をすることにした。が、イレーネは目の前にディーノがいる喜びで胸が一杯で、眠気や仕事の疲れなど吹き飛び、ロゼッタがうとうととし始めると、朝まで交代せずディーノを見守った。
ロゼッタと共に実家に連れ帰り、イレーネの寝台で横になったディーノは、すぐに眠りに落ちた。
自分の寝台でディーノが眠っている。たったそれだけのことでイレーネは幸せを感じられた。眺めているだけで夢心地だった。目の前にいるディーノが実体を持っているのか気になって、ときおりそっと触れたりもした。
元気がないことは気になったけれど、生きて目の前にいる。まずはそのことに感謝した。
「イレーネ。少し眠りな。あたしが見てるから」
ロゼッタが囁くように云って、肩に毛布をかけてきた。
「いいえ。お母さんこそ寝てちょうだい。私は平気よ」
「明日も仕事だろう。身体が疲れちまう」
「しばらく休ませてもらうわ。こんな状態のディーノを放ってはおけないもの」
「馬鹿を云ってんじゃないよ。仕事を何だと思ってるんだい」
ロゼッタの口調がきつくて、イレーネは驚いた。もしかして怒られたのだろうか。
「心配なのはわかるけど、あんた自身は元気なんだから。仕事先に迷惑をかけてはだめだよ。ディーノはあたしが看病するから、あんたはちゃんと自分の仕事をやってきな」
「行かないわ」
ロゼッタの云うことは正しいことだとわかる。わかっていながらも、イレーネは冷静に告げた。決して感情に任せてはいない。
「イレ――」
ロゼッタが咎めるように大きな声を出そうとしたが、イレーネが自分の唇に手を当てて静かにとポーズをとると、途中で口を閉ざした。
「ディーノが回復するまで、ずっと傍にいるわ」
「そうは云ってもね、あんた」
「私がいないと、ディーノはきっとだめになってしまう。私なら、ディーノを癒してあげられるわ」
イレーネには自信があった。荷台で縮こまり、別人のようだったディーノが、イレーネを見た途端、わずかとはいえ眸に力を取り戻したのだから。
ロゼッタは溜め息を吐いた。イレーネの初めての反抗にだろうか、それともディーノに向けられていたのか。
「なんにも話さないんだよ。この子は。昨夜帰ってきたときにあんたがいないとわかったら、すぐに出て行こうとしたんだ。ふらふらの身体で。引きとめて、今朝まで待つように宥めたんだよ。横になったらころっと寝ちまった。一体何があったんだろうねえ」
ロゼッタが心配そうにディーノの顔を覗きこむ。
「心に深い傷を受けるほどの何かがあったのね。話してくれるまで待ちましょうよ」
「・・・・・・そうだね」
ロゼッタの義姉が作ってくれた夕餉を部屋で食べ、交代でディーノの看病をすることにした。が、イレーネは目の前にディーノがいる喜びで胸が一杯で、眠気や仕事の疲れなど吹き飛び、ロゼッタがうとうととし始めると、朝まで交代せずディーノを見守った。
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