【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第三部 最終話

29 イレーネの困り事(ロマーリオ目線)

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 戻ってくんなよ。と思いながら男の背中を見送っていると、

「ロマーリオ。ありがとう」
 イレーネが頭を下げた。

「家まで送るよ」
 ロマーリオが歩き出すと、イレーネも頭を上げてついてくる。

「なんなんだ、あいつ。知り合いか?」
「ギルドの顔役の息子。気に入られちゃったみたいで、しつこく話しかけてくるの。今日はいつもより強引だったから、怖かった」

「もうちょい早く来れてたら、怖い思いさせずにすんでたな」
「ううん。助かった。ほんとにありがとう」

「間に合ってよかったよ」
「ところで、何か用事でもあったの?」

「ああ。いつもの誘いだよ」
 街に出てきている集落出身の人たちとの集まりの知らせを持って、イレーネの顔を見に来た。まさか変な男に絡まれているなんて。

「五日後に集まるけど、来られる?」
「そうね。大丈夫だと思うわ」
 ようやくイレーネが笑顔を見せてくれた。

「迎えに行くから、店で待ってて」
「うん」

 イレーネはロゼッタの家族に気を遣っているのか、集まりにはたまにしか来ない。家事の手伝いをするためらしいけど、遊んでばかりいると思われたくないのかもしれない。

 街に来るように勧めたのはロマーリオで、仕事先を紹介したのは姉のエレネだから、ロマーリオとしては責任を持ってイレーネを守らないと、と思っていた。

「あいつのこと、おかみさんからそれとなく云ってもらったほうがいいんじゃないか? きっとまた来るぞ」
「なんだか云い出しにくくって」

「迷惑なんじゃないかって思ってんだろ。気遣い過ぎだと思うぞ。頼られると嬉しいもんだぞ」
「だってギルドの一番偉い人の子供だよ。お店に迷惑かけたくないもの」

「まあ、そこはわからなくはないけどさ。だけど、嫌なんだろ? 付きまとわれるの」
「嫌よ! 私なんとも思ってないもの」

「じゃ、相談してみろって。それでも治まらなかった俺が話つけてやるから。な?」
「うん。わかった」
 イレーネは頷いたけれど、迷っているのは表情を見ればわかる。

 ロマーリオが毎日送り迎えをしてやれればいいのだが、仕事があるし、住んでいるところは近くない。同じ川沿いだけれど、街の東端と西端。イレーネの終業時間に毎日来るのは難しい。

 エレナの家も東端だから、こちらも近いとはいえない。

 他の奴にも頼んでみるか。ロマーリオは本気で考えていた。
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