【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第三部 最終話

25 贅沢品

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 師匠は湯船を出て行ったけれど、ディーノは浸かりながら師匠が云ったことを考えた。

 訊かれたのが少し前なら、オーストンに行く前なら、きっと師匠と同じ道をと答えていたと思う。けれど、今はそれが揺らいできている。貴族にのみ演奏を聴かせるという音楽家に疑問を感じ始めている。

 貴族だけじゃなく、もっとたくさんの人に音楽を聴いてもらいたい。楽しんでもらいたい。

 そう思うようにもなっている。

 パルディアでのヴァイオリンのデュオのように、通りを行く人を惹きつけたように。
 ギュルダン氏の楽団のような活動も魅力的だ。

 聴いてもらうだけじゃなく、実際に楽器を手に取って奏でてみて欲しいとも思う。
 確かに楽器は高いし、難しい。日々の生活に追われている庶民が趣味にするには贅沢なものだろう。
 気持ちにもお金にも余裕がなければ手が届かないかもしれない。だから、現状、王族や貴族だけが楽しむものになっている。

 けれど、自分が音楽に救われたように、庶民の中にも音楽に救われる者がいると思うし、新たな才能を持つ者もいると思うのだ。音楽と楽器が、贅沢品でなくなる日が来ればいいのに。

 自分は大それたことを考えているのだろう。

 現状を変えるだけの権力を手にすることなど不可能なのに。

 オレ弱えな。

 深い思考に陥っていると、突然、顔にお湯がかかって驚いた。

 同じ湯船に子供が入ろうとしていて、飛沫が飛んだらしい。

 ディーノは湯船から出た。考え込んでいたせいで、気づかぬうちに長風呂になっていたらしい。身体がふらりと揺れた。
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