【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第三部 最終話

20 実る恋

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 朝日が昇りきり、教会内部のきらめきが終わって、やがてリーゼの演奏も最後の一音を引き終えた。残響がゆっくりと静まっていく。

 リーゼはしばらく放心状態だった。あれだけの想いを込めた最高の演奏をしたのだから、虚脱してしまうのも仕方がないだろう。

 パチンと、楽器とは違う音が鳴った。パチン、パチ、パチパチ、パチパチ。

 覚醒したリーゼがはっとして顔を上げ、ディーノも腰を上げた。

 たった一人のお客が手を叩いていた。

 これでもかと云わんばかりに、必死に両手を打ち鳴らしている。

 まるで太陽に向かって咲くひまわりのように、満面の笑みを湛えながら。目元から頬にかけて陽光を浴びた筋がきらきらと輝いていた。

 届いただろうか。リーゼの想いは、カトリナの胸に届いたのだろうか。

 この後のことはリーゼと何も打ち合わせていない。彼が告白をするのか、しないのか。どうするのだろう。

 ディーノの胸が、なぜかどきどきした。

 リーゼが立ち上がり、カトリナへ向かって歩いていく。

 カトリナは拍手をやめ、リーゼを見つめている。頬がゆっくりと赤く染まっていく。

 オレ邪魔だよな。そう思いながらも、ディーノは動けなかった。

 立ち止まったリーゼが、カトリナに優しく話しかける。

「あなたのための曲を作りました。あなたと僕だけの曲です。あなた以外の人には聴かせません。所望されればいつでも演奏します」

「とても、とてもステキでした。私、勘違いしてしまいそうです。リーゼさんが私を想ってくださっているのかしらと」

「勘違いではありません。僕はあなたを・・・・・・好きになりました。ずっと大切にしたい。そう思っています」

「嬉しい、です」

「ご両親にもいずれご挨拶に伺いますが、あなたの気持ちを聞かせてもらえませんか?」

 耳まで真っ赤になったカトリナが、こくんと頷き、「実は、私も・・・・・・お、お慕いしておりました」

 恥ずかしそうに顔を俯けた。

 リーゼがカトリナの頬に手を触れた。

 小さな彼女の肩がぴくんと動く。

 リーゼがゆっくりと顔を近づけ、カトリナの額に口付ける。

 これは、完全にオレの存在忘れてるな。

 照れるやら嬉しいやら羨ましいやら、複雑な感情で、しかしディーノはしっかりとその光景を見つめてやった。
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