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第三部 最終話

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 荷物を置くと、再び街をぷらぷらと練り歩いた。

 街を眺めながら、夕餉をとる店を探す。

 ゆっくりと日が暮れ始めると、軒先や歩道のろうそくにぽつぽつと火が灯されていく。

 ひとつひとつの炎は小さい。しかし数が集まり幻想的な光景が眼前に広がった。

 それらを眺めながらテラスで食事がとれる店が見つかり、一堂で入る。

 ヴァイオリンの流麗な音が聴こえてくる。店内にステージがあり、そこで男性が演奏をしていた。

 注文はピエールに任せて、ディーノは師匠と一緒にヴァイオリンの調べに耳を傾けた。

 聴いたことのない曲だったが、ゆったりとした心地になるメロディーだった。食事や歓談を楽しみながら聴くのに合う曲だと思った。

 ヴェイオリンの独奏が終わると、もう一人加わり、ハープとの二重奏が始まった。

 とても綺麗な演奏だけれども、注文したものが運ばれてきて食事を始めると、つい聞き流してしまう。そんな演奏だった。あえて邪魔にならない選曲をしているのかもしれない。

 食事を終えて店を出ると、再び四人で夜の街を散策した。

 露天商で飲み物を買い、ちびりちびりやりながら歩いていると、道幅が膨らんだ場所に人が集まっていた。拍手が鳴り止み、少しするとリュートの調べが流れてきた。

 近寄って人の隙間から覗き込むと、吟遊詩人がリュートを片手に唄っていた。

 歴史や英雄譚、神話などを詩にして曲をつけ、人々に聴かせる放浪の音楽家。

 唄いながら弾くなんて、器用だな。オレには無理だな。

 ディーノがそう思いながら聴いていたら、師匠たちが歩き出したので吟遊詩人の前から移動した。

 その先では、二人のヴァイオリニストが曲を奏でていた。

 二人ともまだ若く十代半ばに見えた。誰かに師事していて、道での演奏は修行の一環だろうかと思った。

 追いかけっこをしているような二人の演奏は、息もぴったりで、ときどき目で合図を送り、片方がイタズラを仕掛け、もう一人が乗っかる。あれあれ間違えたのかなと、こちらがはらはらしたところで息を合わせ、再び追いかけっこが始まる。

 集まっている人々に目を向けると、大人も子供も老人も眸をきらきらと輝かせ、二人の演奏に聴き入っていた。

 たしかにわくわくしてくる演奏だ。

 弾いている二人が一番楽しんでいるのが伝わってくる。

 曲が終わると、集まっていた人たちが手を叩き、歓声が沸いた。

 二人は頭を下げた後、また楽しい曲を演奏し始めた。
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