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第三部 最終話
1 二年後 パルディア
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「これは、見事だな」
「ええ。どういう状態なんでしょうか?」
馬車から見える景色に、幌の中の三人は目を奪われた。
見慣れた貴族の邸宅のような装飾はなく、シンプルな建物が連なっているが、壁がとても彩りが華やかだった。白・赤・青・黄・緑・橙。濃淡があって、色の種類がとてもたくさんあるように見えた。
しかし三人が驚いたのは、それらの建物の基礎部分だった。
水の上に建物が建てられていた。浮いているにしてはしっかりと留まっているように見える。
驚きのあまり、ディーノは声すら出なかった。
イリア国の隣国オーストンの街ニルスに向かう道中で、水上都市パルディアに立ち寄った。
貿易で栄えるこの都市は、観光でも名を馳せていた。
「川なのか? 海なのか?」
普段移動のときは眠っている師匠でさえ起きて都市を眺めている。
「川のように見えるのは運河で、建物は潟の上だそうです。ですので海、でしょうか?」
師匠の質問にガイドを持ったピエールが真面目に答える。しかしピエールもあまりよくわかっていないようだった。
一行が行く道は唯一馬車が通れる道で、オーストンの王都まで一本道。せっかくだからと、このパルディアで観光をして行こうという話になった。
通り沿いの宿に空きが見つかり、馬と車を預けて四人は街中に繰り出した。
運河には小舟が何艘も浮いている。運河から分かれた水路が街中を幾重にも流れていて、小舟が人々の移動手段になっているらしい。
架けられた橋はアーチ形になっていて、人や物を積んだ小舟が悠々とくぐっていく。
運河を覗き込むと、水は緑色で案外汚れていた。生活用水が流れているのだろうか。
うっすらと見える建物の基礎部分には杭がたくさん刺さっていて、これが建物を支えているようだ。
獣や聖人の像を眺めながら通りをぷらぷらと練り歩き、やがて大きな広場が前方に見えた。そこへ至る道には、今までになかった、大きな橋が架けられている。
「この橋は大理石だそうです。すごいですね」
ピエールの声が少し上擦っていた。
この橋渡っていいの? とディーノが気後れするほど、真っ白の橋はとても美しく、荘厳だった。
橋からの景色も絶景だった。真下を運河が流れ、小舟が係留されていたり行き交っていたり。運河沿いにカラフルな建物がずっと並んでいる。空は雲ひとつない紺碧の青。
橋を渡り終えると、遠くまで石畳で舗装されていて、左右にも真っ白な建物があり、奥に聖堂と天を貫きそうな高さの鐘楼があった。
建物のあまりの立派さに、圧倒されている観光客の姿がディーノたち以外にも大勢いた。
口をあんぐちと開け、呆然と見上げる者。
ありがたそうに手を合わせる者。
涙ぐむ者。
その人たちの間を抜けて聖堂に辿り着いた。
半円アーチが上下にいくつも並んだ、特徴のある外観。二階部分にはバルコニーがあり、銅像が飾られていた。高さや大きさなら、貴族の邸宅の方が大きい。けれど、モザイク画や神や鳥、草花などの彫刻が細かく、豪華さと繊細さがひとつになった建物だった。
豪華なものなら見慣れている筈の師匠とピエールでさえ、言葉を失うほどの絢爛さだったらしく、しばらく立ち止まって見惚れていた。
しばらくしてから、師匠の「入ろうか」という言葉で我に返り、揃って聖堂内に足を踏み入れた。
窓は小さめで薄暗かったが、外の豪華さに負けないくらい絢爛なのがわかった。円形の天井はとても高く、床から壁、天井に至るまでフラスコ画が描かれている。二階を支える柱や柱頭にも彫刻が施されていて、魅せる工夫がされていた。
「このフラスコ画はガラスだそうですよ」
音量を下げつつも興奮を抑えきれていないピエールが、壁に顔を近づけてフラスコ画を間近で見ている。
身廊の一番奥に祭壇があり、熱心に祈りを捧げる人たちがいる。
あまりの迫力に圧倒されてぼんやりと佇んでいたディーノは、肩を叩かれて気がつき、促されて師匠たちに続いて聖堂から外に出た。
「ええ。どういう状態なんでしょうか?」
馬車から見える景色に、幌の中の三人は目を奪われた。
見慣れた貴族の邸宅のような装飾はなく、シンプルな建物が連なっているが、壁がとても彩りが華やかだった。白・赤・青・黄・緑・橙。濃淡があって、色の種類がとてもたくさんあるように見えた。
しかし三人が驚いたのは、それらの建物の基礎部分だった。
水の上に建物が建てられていた。浮いているにしてはしっかりと留まっているように見える。
驚きのあまり、ディーノは声すら出なかった。
イリア国の隣国オーストンの街ニルスに向かう道中で、水上都市パルディアに立ち寄った。
貿易で栄えるこの都市は、観光でも名を馳せていた。
「川なのか? 海なのか?」
普段移動のときは眠っている師匠でさえ起きて都市を眺めている。
「川のように見えるのは運河で、建物は潟の上だそうです。ですので海、でしょうか?」
師匠の質問にガイドを持ったピエールが真面目に答える。しかしピエールもあまりよくわかっていないようだった。
一行が行く道は唯一馬車が通れる道で、オーストンの王都まで一本道。せっかくだからと、このパルディアで観光をして行こうという話になった。
通り沿いの宿に空きが見つかり、馬と車を預けて四人は街中に繰り出した。
運河には小舟が何艘も浮いている。運河から分かれた水路が街中を幾重にも流れていて、小舟が人々の移動手段になっているらしい。
架けられた橋はアーチ形になっていて、人や物を積んだ小舟が悠々とくぐっていく。
運河を覗き込むと、水は緑色で案外汚れていた。生活用水が流れているのだろうか。
うっすらと見える建物の基礎部分には杭がたくさん刺さっていて、これが建物を支えているようだ。
獣や聖人の像を眺めながら通りをぷらぷらと練り歩き、やがて大きな広場が前方に見えた。そこへ至る道には、今までになかった、大きな橋が架けられている。
「この橋は大理石だそうです。すごいですね」
ピエールの声が少し上擦っていた。
この橋渡っていいの? とディーノが気後れするほど、真っ白の橋はとても美しく、荘厳だった。
橋からの景色も絶景だった。真下を運河が流れ、小舟が係留されていたり行き交っていたり。運河沿いにカラフルな建物がずっと並んでいる。空は雲ひとつない紺碧の青。
橋を渡り終えると、遠くまで石畳で舗装されていて、左右にも真っ白な建物があり、奥に聖堂と天を貫きそうな高さの鐘楼があった。
建物のあまりの立派さに、圧倒されている観光客の姿がディーノたち以外にも大勢いた。
口をあんぐちと開け、呆然と見上げる者。
ありがたそうに手を合わせる者。
涙ぐむ者。
その人たちの間を抜けて聖堂に辿り着いた。
半円アーチが上下にいくつも並んだ、特徴のある外観。二階部分にはバルコニーがあり、銅像が飾られていた。高さや大きさなら、貴族の邸宅の方が大きい。けれど、モザイク画や神や鳥、草花などの彫刻が細かく、豪華さと繊細さがひとつになった建物だった。
豪華なものなら見慣れている筈の師匠とピエールでさえ、言葉を失うほどの絢爛さだったらしく、しばらく立ち止まって見惚れていた。
しばらくしてから、師匠の「入ろうか」という言葉で我に返り、揃って聖堂内に足を踏み入れた。
窓は小さめで薄暗かったが、外の豪華さに負けないくらい絢爛なのがわかった。円形の天井はとても高く、床から壁、天井に至るまでフラスコ画が描かれている。二階を支える柱や柱頭にも彫刻が施されていて、魅せる工夫がされていた。
「このフラスコ画はガラスだそうですよ」
音量を下げつつも興奮を抑えきれていないピエールが、壁に顔を近づけてフラスコ画を間近で見ている。
身廊の一番奥に祭壇があり、熱心に祈りを捧げる人たちがいる。
あまりの迫力に圧倒されてぼんやりと佇んでいたディーノは、肩を叩かれて気がつき、促されて師匠たちに続いて聖堂から外に出た。
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