【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第二部

45 ディーノのこと(イレーネ目線)

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 ロマーリオが地面にどしんと腰を下ろした。

「あいつは、今どうしてんの?」

 名前を出されなくたって誰のことを指しているのかわかる。

「どうしてるのかしらね」

 イレーネは溜め息を吐いた。

「一度も帰ってきてないの?」

「一度だけ帰ってきたわ。旅立ったのが秋の終わりで、帰ってきたのは夏ごろ。一泊しただけで、すぐに行っちゃった」

「手紙とかは?」

「来たわ。三通」

「六年で三通か。妥当なところだな」

「そうなの?」

「郵便ってすごく高いんだよ。国内でも驚く金額なのに、国をまたぐなら目ん玉飛び出るかもな」

「……そうなんだ。知らなかった」

「見習いの身じゃ、頻繁には出せないよな。紙だってインクだって高いし」

「でも、貴族たちの前で演奏してるし、教師もやってるって書いてあったわ。三年も前のことだから、今はそれなりにお給料をもらえているかも」

「そうなんだ。へえー。あいつやるじゃないか」

 ロマーリオが目を見開いたあと、にかっと笑った。ディーノが一流の奏者に少しでも近づいているのかもしれないと、喜んでいるのだろう。

 イレーネが黙っていると、ロマーリオが気を遣ったのか、「郵便事故だってたまにあるらしいよ」と付け加えるように云った。

「お母さんも云ってた。ほんとにあるの?」

「あ……るんじゃないかな。うん」

 その云い方から、二人が励ますために云ってくれたんだ、ということに気がついた。けれどもイレーネの心はやはり晴れなかった。
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