95 / 157
第二部
42 ロマーリオの姪と甥(イレーネ目線)
しおりを挟む
手を動かしながら考え込んでいると、外が騒がしいことに気がついた。
「何かしら?」
「ああ、ロマーリオたちが帰ってきたんだよ。エレナが子供たちも連れてきているからはしゃいでるんだろうね」
数年前に嫁いでいったロマーリオの姉のエレナは三人の子を産んだ。残念なことに一人は亡くなってしまったらしいけれど。
「顔を見て来ようかしら」
「そうだね。行っておいで」
残りはロゼッタに任せ、イレーネは外に出た。
夕刻になっても夏の強い日差しは健在で、思わず目を瞑る。うっすら瞼を開いて光に慣れさせると、見慣れない二人の子供が走り回る姿が見えた。きっとエレナの子供たちだ。
イレーネが歩いて行くと、背中を向けていたロマーリオが振り返った。口が「お?」と云ったように開き、右手がひらりと上った。イレーネも右手を上げて応えた。
「ただいま」
「お帰りなさい。今回はエレナさんと一緒なのね」
「旦那が一緒に来られないから俺にガキたちの面倒見ろって借り出された。ったく横暴な姉貴だぜ」
口では悪態を吐きながらも、顔は嫌がっていない。イレーネは一人っ子だったから、きょうだいが羨ましかった。
話をしていたロマーリオが突然「うわっ!」と大きな声を上げた。身体ががくんとぶれて、よろけた。
「捕まえた!」
舌足らずな子供の声が聞こえて視線を下げると、ロマーリオの足に男の子がしがみついていた。
男の子は身体を離してロマーリオにもう体当たりをすると、離れて見ていた女の子の方に走って行った。
「この。待て、アレン」
ロマーリオが追いかけると、二人はきゃーきゃー云いながら、ロマーリオに捕まらないように逃げ回っている。
子供たちはロマーリオに懐いているようだった。同じ街に住んでいるのだから、交流があるのだろう。しかし叔父さんと甥っ子姪っ子というより、子供同士がじゃれているように見えてくるのは何故だろう。
三人の無邪気な姿がかわいらしくて、イレーネはくすりと笑った。
「イレーネ。久しぶりね」
「エレナさん。お帰りなさい」
「ただいま。元気にしてた?」
「ええ。エレナさんこそ」
「ええ。毎日ばたばたしてるわ」
ロマーリオによく似た顔で、エレナがにこりと微笑んだ。姉弟はたしか五歳離れていたと記憶している。
「子供さんたち、とても元気ですね」
「毎日あんな調子で、走り回っているわ。あっ!」
エレナと子供たちを見ていると、女の子がぽてっと転んだ。しかし一人ですっくと立ち上がり、兄たちの後を追う。
「たくましいですね」
イレーネは心から感心した。
「二人とも健康で、ありがたいって思ってるわ」
しみじみとした口調から、エレナの心中にある悲しみに気がついた。だから何も云えなかった。子供が何人いようと亡くなった子の替えなどいなくて、失った悲しみが消え去ることも癒されることもないのだと。
「アレン。フランカ」
エレナが呼ぶと、遊んでいた二人がロマーリオに誘導されて母親のところへ走ってきた。
「この人はイレーネさん。仲良くするのよ」
紹介されて、イレーネは腰を屈めた。
「こんにちは」
挨拶をすると、男の子が「こんにちは!」と元気よく挨拶をしてくれた。
女の子は母親のスカートにしがみつき、顔を半分だけ覗かせた。
「ごめんね。フランカは人見知りが激しくて」
「大丈夫です。ゆっくり仲良くなります」
「ありがとう」
エレナたちと手を振って別れ、それぞれの家に戻った。
「何かしら?」
「ああ、ロマーリオたちが帰ってきたんだよ。エレナが子供たちも連れてきているからはしゃいでるんだろうね」
数年前に嫁いでいったロマーリオの姉のエレナは三人の子を産んだ。残念なことに一人は亡くなってしまったらしいけれど。
「顔を見て来ようかしら」
「そうだね。行っておいで」
残りはロゼッタに任せ、イレーネは外に出た。
夕刻になっても夏の強い日差しは健在で、思わず目を瞑る。うっすら瞼を開いて光に慣れさせると、見慣れない二人の子供が走り回る姿が見えた。きっとエレナの子供たちだ。
イレーネが歩いて行くと、背中を向けていたロマーリオが振り返った。口が「お?」と云ったように開き、右手がひらりと上った。イレーネも右手を上げて応えた。
「ただいま」
「お帰りなさい。今回はエレナさんと一緒なのね」
「旦那が一緒に来られないから俺にガキたちの面倒見ろって借り出された。ったく横暴な姉貴だぜ」
口では悪態を吐きながらも、顔は嫌がっていない。イレーネは一人っ子だったから、きょうだいが羨ましかった。
話をしていたロマーリオが突然「うわっ!」と大きな声を上げた。身体ががくんとぶれて、よろけた。
「捕まえた!」
舌足らずな子供の声が聞こえて視線を下げると、ロマーリオの足に男の子がしがみついていた。
男の子は身体を離してロマーリオにもう体当たりをすると、離れて見ていた女の子の方に走って行った。
「この。待て、アレン」
ロマーリオが追いかけると、二人はきゃーきゃー云いながら、ロマーリオに捕まらないように逃げ回っている。
子供たちはロマーリオに懐いているようだった。同じ街に住んでいるのだから、交流があるのだろう。しかし叔父さんと甥っ子姪っ子というより、子供同士がじゃれているように見えてくるのは何故だろう。
三人の無邪気な姿がかわいらしくて、イレーネはくすりと笑った。
「イレーネ。久しぶりね」
「エレナさん。お帰りなさい」
「ただいま。元気にしてた?」
「ええ。エレナさんこそ」
「ええ。毎日ばたばたしてるわ」
ロマーリオによく似た顔で、エレナがにこりと微笑んだ。姉弟はたしか五歳離れていたと記憶している。
「子供さんたち、とても元気ですね」
「毎日あんな調子で、走り回っているわ。あっ!」
エレナと子供たちを見ていると、女の子がぽてっと転んだ。しかし一人ですっくと立ち上がり、兄たちの後を追う。
「たくましいですね」
イレーネは心から感心した。
「二人とも健康で、ありがたいって思ってるわ」
しみじみとした口調から、エレナの心中にある悲しみに気がついた。だから何も云えなかった。子供が何人いようと亡くなった子の替えなどいなくて、失った悲しみが消え去ることも癒されることもないのだと。
「アレン。フランカ」
エレナが呼ぶと、遊んでいた二人がロマーリオに誘導されて母親のところへ走ってきた。
「この人はイレーネさん。仲良くするのよ」
紹介されて、イレーネは腰を屈めた。
「こんにちは」
挨拶をすると、男の子が「こんにちは!」と元気よく挨拶をしてくれた。
女の子は母親のスカートにしがみつき、顔を半分だけ覗かせた。
「ごめんね。フランカは人見知りが激しくて」
「大丈夫です。ゆっくり仲良くなります」
「ありがとう」
エレナたちと手を振って別れ、それぞれの家に戻った。
10
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

【完結】婚約破棄からの絆
岡崎 剛柔
恋愛
アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。
しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。
アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。
ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。
彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。
驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。
しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。
婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。
彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。
アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。
彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。
そして――。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる