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第二部
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曲が終わると、ディーノはノックもせず扉を勢いよく開けた。
「先生。只今戻りました」
「やあ、おかえり」
扉に向かってリュートを弾いていた師匠が、にこやかにディーノを出迎える。
「心配をかけて、ごめんなさい」
「ん。だが、もう少し休むように。可能な限り、おまえの仕事は私が兼任するから」
「いえ、大丈夫です。先生の負担になるようなことはしたくありません」
「いや、私の負担どうこうという問題ではなくて、おまえにしっかりと身体を休めてほしいんだ。人に喜んでもらえる演奏をしようと思ったら、演奏者が心身ともに健やかでないといけない。わかるな」
「……はい」
しぶしぶながら頷いたディーノの前に、師が立ち上がってリュートを置き、近づいてくる。
「おまえは私の弟子だが、息子のようにも思っている。私たちは家族だから。ピエールもマウロも、四人で家族なんだ。誰かが病になれば、心配する。誰かが困っていたら、誰かが助ける。遠慮なく甘えろ」
云って師はディーノをぎゅっと抱きしめた。
背中に回された手から温もりが伝わり、頭を胸に押し付けられて、師匠の鼓動を間近に感じる。
ディーノはロゼッタのことを思い出した。ロゼッタはよくハグをしてくれた。ディーノがどれだけ恥ずかしがっても、背が伸びてロゼッタを追い越しても、彼女はハグを止めなかった。集落を出る最後まで温もりをディーノに与え続けてくれた。
師匠からは初めてだったけれど、師匠はロゼッタより温かくて、父親にハグをされたらこんな感じなのかなと思い、目の端が熱くなった。
「先生、ありがとう」
言葉では伝えきれない感謝の気持ちが、胸いっぱいにじんわりと広がった。
「ありがとう、ございます」
溢れそうな思いをたくさん言葉にしたいのに、言葉が浮かばなくて、もどかしかった。
「ありがとう……」
だから、たくさんのありがとうを云った。ありったけの感謝の気持ちを込めて。
「先生。只今戻りました」
「やあ、おかえり」
扉に向かってリュートを弾いていた師匠が、にこやかにディーノを出迎える。
「心配をかけて、ごめんなさい」
「ん。だが、もう少し休むように。可能な限り、おまえの仕事は私が兼任するから」
「いえ、大丈夫です。先生の負担になるようなことはしたくありません」
「いや、私の負担どうこうという問題ではなくて、おまえにしっかりと身体を休めてほしいんだ。人に喜んでもらえる演奏をしようと思ったら、演奏者が心身ともに健やかでないといけない。わかるな」
「……はい」
しぶしぶながら頷いたディーノの前に、師が立ち上がってリュートを置き、近づいてくる。
「おまえは私の弟子だが、息子のようにも思っている。私たちは家族だから。ピエールもマウロも、四人で家族なんだ。誰かが病になれば、心配する。誰かが困っていたら、誰かが助ける。遠慮なく甘えろ」
云って師はディーノをぎゅっと抱きしめた。
背中に回された手から温もりが伝わり、頭を胸に押し付けられて、師匠の鼓動を間近に感じる。
ディーノはロゼッタのことを思い出した。ロゼッタはよくハグをしてくれた。ディーノがどれだけ恥ずかしがっても、背が伸びてロゼッタを追い越しても、彼女はハグを止めなかった。集落を出る最後まで温もりをディーノに与え続けてくれた。
師匠からは初めてだったけれど、師匠はロゼッタより温かくて、父親にハグをされたらこんな感じなのかなと思い、目の端が熱くなった。
「先生、ありがとう」
言葉では伝えきれない感謝の気持ちが、胸いっぱいにじんわりと広がった。
「ありがとう、ございます」
溢れそうな思いをたくさん言葉にしたいのに、言葉が浮かばなくて、もどかしかった。
「ありがとう……」
だから、たくさんのありがとうを云った。ありったけの感謝の気持ちを込めて。
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