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第二部
28 帰ってこない(ピエール目線)
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「ディーノ遅くないか」
仕事を終わらせ公爵家に戻ってきていた先生が、手帳を見ていたピエールに問いかけた。
「夕刻には終わる予定でしたが。たしかに遅いですね」
ピエールはポケットから出した懐中時計で時間を確認する。
すっかり日も暮れ、もうまもなく夕餉の時刻になろうとする頃合だった。ディーノはまだ帰っていない。
「終われば送っていただくことになっていましたが、何か言伝がないか確認してきます」
「頼む」
部屋を出ていったピエールは、執事長を見つけ訊ねてみたが、何の連絡も届いていなかった。
「まあ、子供でもないしな。もう少し待ってみるか」
「そうですね。夕餉も呼ばれているのかもしれませんしね」
けれど、二人が公爵らと食事を終えてもディーノは戻らなかった。こんなにまで遅くなると、さすがに心配になってきたのか、先生は公爵に頼み、伯爵の屋敷に使いをだしてもらうことにした。
その準備の最中に、伯爵家からの使いがやってきた。知らせが遅くなったことを詫び、バルドリーニ家の印が押してある手紙を置いていった。
夫人がしたためた手紙の内容は、ディーノが演奏会途中で体調を崩し、横になったまま起き上がれなくなってしまったことと、呼んだ医者に過労と診断されたこと。明日以降に体調を見て送り届ける旨が書かれてあった。
「やはりまだ早かったですね。かえってご迷惑をおかけしてしまいました。休ませるべきでした」
「まだ若いんだからすぐに回復するさ。私のこの腹ならいつ倒れてもおかしくないがな」
先生は笑いながら、ぽんぽんと音がしそうな自身の太鼓腹を叩いた。
励まそうとしてくれていることはわかっていたが、苦いものを噛み潰したような気持ちは晴れなかった。
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「そうですね。夕餉も呼ばれているのかもしれませんしね」
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