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第二部

23 演奏会

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 新年から春を迎えるまでに、ディーノは三回の単独公演を行なった。

 師匠の規模にはまだまだ適わないものの、ディーノの名前は徐々に広がっていった。

 アイゼンシュタット公爵の援助と、ロドヴィーゴの弟子という看板のお陰でもあるが、演奏を聴いた貴族の間で話題になっていることも確かだった。

 今日は十人ほどのご婦人方のサロンに呼ばれ、数曲を披露した。名のある貴族の夫人や娘たちは、即興演奏を好む者が多かった。そして後からわたくしはこう感じた、わたくしはこう思う、と解釈を披露するのが好きなようだ。

 彼女たちの機嫌をとるような受け答えをするのが一般的だが、ディーノが素直な言葉を口にすることから反対に気に入られたらしく、解釈に対する違いがあったとしても、機嫌を損ねるような婦人は一人もいなかった。

 この後、北イリアのさらに北東部を治める領主の宴に大勢の貴族が招待され、賑々しい宴が予定されている。その宴にディーノは師匠の演奏前に前座として演奏をすることになっていた。

 サロンが解散となり、一人廊下を歩いていると声をかけられた。

 何度もディーノをサロンに呼んでいるマルティナ・バルドリーニ伯爵夫人であった。

 四十に手が届く年齢だが、若く見せようとしているのか張り合おうとしているのか、いつも胸元を広く開き、その豊満な谷間を強調したドレスを着ている。露になった首元には深い皺が入り、年齢よりも老けて見えがちであることに気づいていない。化粧は濃く、香水もきつくて、ディーノは少々苦手としているご夫人であった。

 苦手とはいえ大切なお客様でもある。ディーノは仕方なさを見せないように振り向いた。

「伯爵夫人、いつもお招きありがとうございます」

「いやだわ、先生。そんな他人行儀な。今日の演奏も素晴らしかったですわ。近々、先生に教えていただけるとのこと。楽しみしておりますわね」

 ウフフ、と流し目を送り、腰を振りつつ去って行った。

 ふうーっとディーノは息を吐き、胸を撫で下ろす。数日後にバルドリーニ伯爵の屋敷で教師の仕事が入っていることを思い出し、気が重くなった。

 夫人の香水の香りが残る廊下を後にして、ディーノも部屋に戻った。
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