【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第二部

22 届いた手紙(ロゼッタ目線)

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「イレーネ。手紙が届いていたってさ」

「ほんと?! お母さん」

 ロゼッタが手紙を渡すと、イレーネはぱっと花が咲くような笑顔を見せた。

 ここの住人への届け物は一つの場所にまとめて保管されていて、街へ行く者が代表して立ち寄り、受け取って持って帰ってくることになっていた。

 ロゼッタがロマーリオの母親からイレーネ宛の手紙を受け取り、イレーネに差し出すと、イレーネがひったくるように手紙を受け取った。破かないように慎重に封を切っている。

「元気にしてそう?」

 夕餉の準備に戻りながらロゼッタが問いかけた。

「うん、ちょっと待ってね」

 家事の合間にイレーネに字を教えているのだが、なかなか覚えられずに悪戦苦闘している。だから読むのにはまだ少し時間がかかる。

「ええっと、お師匠さんと一緒に弾いたって。すごい、貴族がたくさんいたんですって」

「すごいじゃないか。初めてなんだろ」

「ええ。前の手紙ではまだまだ勉強中だって書いてあったわ。これからは仕事として演奏できるかもって」

「それじゃあ、ついに一人前のリュート奏者になれるってことかい」

「きっとそうよ。すごいわ」

 イレーネは満面の笑みで、手紙を抱きしめた。

 イレーネは十五歳になりぐっと大人っぽくなった。寂しかった胸元には谷間もでき、華奢だが毎日の畑仕事のお陰か引き締まり筋肉がほどほどについている。しかしヒップは丸みを帯びてきていて、この集落に辿りついた痩せてがりがりだった子供の頃の面影はない。みちがえるほど健康的になった。

 イレーネにも、もうそろそろ、結婚の話が持ち上がる年頃だ。街に行けば、言い寄ってくる男もいるだろう。
 けれどまだイレーネを連れて街に行っていない。本人が断るからだ。

 ロゼッタが街へ行く用事ができたときは、ワルター老の家で世話になっていた。もちろん家の掃除をしたり、食事を作ったりしている。小さいときから家事の手伝いをしていたのか、手際はすごくいい。

 五年もいると、まるでここで生まれたかのようにすっかり馴染んでいる。

 もともとが人懐っこい性格をしていたのだろう。そこへ一生懸命さが加わり、集落の住人も受け入れくれた。

 ここへ辿り着いたときの身なりは酷いものだった。汚れていたし、匂いもした。

 イレーネたちが語ったことをすべて信じたわけではなかったが、イレーネの必死さに心を打たれた。子供が必死に助けを求めてきたのだから、応じたかった。

 あれ以上の詳しい経緯は聞かずにきている。

 イレーネがここでの日々を幸せに暮らせているのなら、過去のことは忘れたほうがいい。

 変わり映えのない毎日だが、だからこそかけがえのない大切な日々だと、イレーネも気づいていることだろう。
 しかし、ディーノが旅立ってからというもの、ときどきイレーネは浮かない顔をしていた。ぼんやりと思考にふけっていたかと思えば、いつか戻ってくるかもしれないディーノのためにセーターを編んでおくと云って急に編み物を再開したり。

 以前に編んでいた渡せなかったセーターは、今も大事にしまってあるようだ。

 寂しさに慣れることも、何かで埋められるわけもなく。

 本人は隠しているつもりだろうが本音はだだ洩れで、母親としてどうにかしてやりたい、けれどどうにもしてやれない。ロゼッタはもどかしい気持ちでいっぱいだった。
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