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第二部

21 手紙

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 翌朝、粉雪がちらつく中をピエールは出掛けていった。御者のマウロに明日出発の準備を伝えるためだった。

 それぞれに次の仕事があって忙しく、ヴァイオリンの一行は今日、チェンバロの一行は明後日、と順に発つこととなった。

 朝食後にヴァイオリン奏者が独りで部屋を訪れ、挨拶をしていった。

 ロドヴィーゴもディーノを連れて、昼前にチェンバロ奏者の部屋に挨拶に行った。

 師匠同士が話しているときに、リーゼが少しだけ顔を覗かせ、手を振ってきた。子供っぽい仕草に、ディーノは苦笑して、片手を上げて応えた。

 昼食とともに、執事が「お約束の品でございます」と、ディーノが待ちに待っていた品を届けてきた。

 手紙用の紙の束である。

 予想以上にたくさん手渡され、ディーノの顔には驚きがいっぱいに広がっていった。明日出発するまでに渡せば、費用は公爵持ちで送り届けてくれると伝えられた。

 昼食を手早くすませ、机に向かう。羽ペンとインクは備えつけられていたものを拝借した。

 字はピエールから教わっていた。まだ勉強中ではあるが、手紙を書くのに困らない程度の文字は覚えた。

 社交界デビューを果たしたこと。これから師匠と一緒に舞台に立てる日もあるだろう。独りで演奏をする機会にも恵まれるかもしれない。貴族からも良い評価を得たことなどを綴っていく。音楽家たちとのことはあえて書かなかった。愚痴のように思われるのも嫌だったし、心配をかけるだろうからと。

 イレーネの近況も気になった。会いにいきたいけれど、あちこち移動する身では難しい。けれど近くに行くことがあれば必ず寄るから。と書き添えた。

 夕食が運ばれてきたときに手紙を託し、無事に届くことを祈った。

 この手紙は三ヶ月後、何事もなくイレーネの手に届けられた。
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