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第二部

11 出番

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 演目が進み、かすかに届くチェンバロ演奏の途中で、ピエールが楽屋に現われた。

 今日使うメインとなるリュートをピエールが持ち、予備とリノが作ったリュートをディーノが両脇に持って楽屋を出た。

 ホールの左右に扉がいくつかあり、左側は庭に右側は屋敷に繋がる渡り廊下になっている。廊下から屋敷の中央にある中庭に出ることもできるため、貴族が出入りをしたり、立ち話をしたりしていた。

 どの人も仕立ての良さそうな生地に身を包み、談笑している。

 男性は師匠の衣装とよく似ていた。黒が多かったが、濃紺や濃緑など色はさまざまだった。

 女性は胸元が大きく開き、裾の広いドレスを引き摺っている。強調された胸元につい目をやってしまったディーノは、慌てて顔を下ろした。顔が赤くなっていないだろうかとはらはらする。

 しかし二人に目を向ける貴族はいなかった。お喋りに夢中になっているのか、それとも自分に関係のない人を視界にいれる必要がないからか。辿りついた扉の近くに待機していても、何か訊かれることもなかった。

 やがてチェンバロの音が止み、拍手が聞こえた。評判が良かったのか、拍手の音は大きい。

 扉が開き、出てきたのは奏者ではなく弟子の方だった。弟子だとディーノが分かったのは、楽屋で一緒になった彼がいたからだ。彼の前にいる人物は兄弟子だろう。奏者はロドヴィーゴ同様、食事の席に呼ばれていたので、その席に戻ったのだろう。

 彼はディーノに気づくと、あっ、と口を開いたあと、軽く微笑んだ。

 ディーノも微笑み返す。

 兄弟子と彼は、二人の脇を抜けて楽屋へ戻る道を歩いていった。

 何人かの貴族が出入りし、忙しそうなテーブル係たちが、食器やドルチェや果物を運び始める。同じ人物が何往復もしている姿を見ながら、ピエールとディーノはじっと待った。それらもやっと落ち着いた頃、師匠の名が呼ばれたことがわかった。

 ピエールがさっと扉を開けてくぐり、ディーノも後に続く。

 拍手で迎えられる中、師匠は中央ステージに向かって歩いてくるところだった。

 あまりの人の多さにディーノは少しだけ気持ちが悪くなった。

 中央ステージで二分されたホールに長テーブルがいくつも用意されていて、貴族たちが座っている。個室になっている二階席からも見下ろす顔があった。

 酔っ払いも出ているようで、口笛を吹く者や、大きな声で何かを叫んでいる者もいる。こんな規模の宴席はディーノだけではなく、師匠にとっても初めてのことらしい。

 そんな中でも、師匠は余裕を感じさせる顔で悠々と歩いてきて、中央ステージの階段を上がり、四方へ頭を下げた。

 用意されていた椅子に座り、ステージ下のピエールからリュートを受け取った。

 ピエールが屈みこんだので、ディーノもリュートを脇に立てて屈む。
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