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第二部
4 貴族へのあいさつ
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「ここは談話室となっております」
階段があったロビーの右手の部屋には、広めの卓が三台と椅子のセットが置かれていた。暖炉にはちろちろと赤い炎が踊っている。
壁際にはバーカウンターが設置されていて、飲み物の入ったビンや銀の杯、ガラスのグラスが整然と並んでいた。
主に宴が催されるときに使われるらしく、「小数のお客様用に別の部屋が用意されております」と云ったことを歩きながら執事長から説明を受け、部屋を通り過ぎる。
外は雪が降ってもおかしくないほどの寒さなのに、こんなに広い空間が暖炉一つでなぜ暖かいのか、ディーノは不思議に感じた。立て付けがしっかりしていて、隙間風が入らないような工夫がされた建物なのかもしれない。
談話室の奥にある扉から隣室に移動し、三人は屋敷の更に奥に案内される。
立て続けに三部屋を過ぎ、暑くなってきたディーノはここへきてようやく厚手の上着を脱いだ。師匠とピエールはとっくに脱いで、腕にかけている。
「この奥におりますので、今しばらくお待ちくださいませ。上着はそこにいる者にお預けくださいませ。お部屋へ運ばせておきます」
姿勢をさらに正して、執事長が扉の向こうに消えた。
三人の後ろに佇んでいた女性使用人に上着を預けていると、すぐに執事長が扉を開けて姿を現した。
「お待たせ致しました。どうぞお入りくださいませ」
招かれて、三人は歩を進める。
談笑が聞こえてくる。館の主は誰かと話をしているところのようだった。
「貴君、長旅ご苦労だったな」
四人の男女の姿が見えた。こちらに顔を向けて座っていた人物が一番に口を開いた。
年の頃は五十を少し過ぎたところだろうか。肌艶のいい男性と、四十半ば頃に見える貴婦人が微笑みかけていた。ロドヴィーゴを支援している公爵、アイゼンシュタット夫妻である。
「公爵様、すでにお出でになっていらしたとは。到着が遅くなってしまい、申し訳ありません」
師匠が左膝をついて挨拶をする。後ろにいたピエールとディーノも同じように膝をつく。
「よいよい。堅苦しい挨拶は抜きにしよう。なあ、シャルレ」
「貴君らも大事なゲストなのだから、肩の力を抜いて過ごしてくれたまえ」
そう言って振り向いたのは、公爵と同じ年頃の男性であった。隣にいるのは彼の妻だろう。
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
師匠が公爵の顔を窺い、公爵が頷くのを確認してから立ちあがった。
「ロドヴィーゴ・アニエッリと申します。後ろの二人はピエール・ウィリアム・アバックと弟子のディーノです」
肩膝をついた姿勢のまま、ピエールが頭を下げ、ディーノも真似をする。
「この度はお招き頂き、ありがとうございます。お部屋までお分け頂けるとのこと。お心遣い、深く感謝致しております。わたくしは、しがないリュート奏者に過ぎませんが、お耳汚しでなければ何時でも演奏させて頂きますので、お呼びください」
ロドヴィーゴが頭を下げたまま言い、公爵の遠縁だという人物は立って三人の傍にやってきた。
「レオーネ殿から伺っていますよ。素晴らしい演奏技術をお持ちだとか。楽しみにしていますよ」
「心をこめて演奏をさせて頂きます」
期待の言葉を寄せられて、師匠が深々と頭を下げた。
階段があったロビーの右手の部屋には、広めの卓が三台と椅子のセットが置かれていた。暖炉にはちろちろと赤い炎が踊っている。
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主に宴が催されるときに使われるらしく、「小数のお客様用に別の部屋が用意されております」と云ったことを歩きながら執事長から説明を受け、部屋を通り過ぎる。
外は雪が降ってもおかしくないほどの寒さなのに、こんなに広い空間が暖炉一つでなぜ暖かいのか、ディーノは不思議に感じた。立て付けがしっかりしていて、隙間風が入らないような工夫がされた建物なのかもしれない。
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立て続けに三部屋を過ぎ、暑くなってきたディーノはここへきてようやく厚手の上着を脱いだ。師匠とピエールはとっくに脱いで、腕にかけている。
「この奥におりますので、今しばらくお待ちくださいませ。上着はそこにいる者にお預けくださいませ。お部屋へ運ばせておきます」
姿勢をさらに正して、執事長が扉の向こうに消えた。
三人の後ろに佇んでいた女性使用人に上着を預けていると、すぐに執事長が扉を開けて姿を現した。
「お待たせ致しました。どうぞお入りくださいませ」
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「貴君、長旅ご苦労だったな」
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「公爵様、すでにお出でになっていらしたとは。到着が遅くなってしまい、申し訳ありません」
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「よいよい。堅苦しい挨拶は抜きにしよう。なあ、シャルレ」
「貴君らも大事なゲストなのだから、肩の力を抜いて過ごしてくれたまえ」
そう言って振り向いたのは、公爵と同じ年頃の男性であった。隣にいるのは彼の妻だろう。
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
師匠が公爵の顔を窺い、公爵が頷くのを確認してから立ちあがった。
「ロドヴィーゴ・アニエッリと申します。後ろの二人はピエール・ウィリアム・アバックと弟子のディーノです」
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「この度はお招き頂き、ありがとうございます。お部屋までお分け頂けるとのこと。お心遣い、深く感謝致しております。わたくしは、しがないリュート奏者に過ぎませんが、お耳汚しでなければ何時でも演奏させて頂きますので、お呼びください」
ロドヴィーゴが頭を下げたまま言い、公爵の遠縁だという人物は立って三人の傍にやってきた。
「レオーネ殿から伺っていますよ。素晴らしい演奏技術をお持ちだとか。楽しみにしていますよ」
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