【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

文字の大きさ
51 / 60
四章 前を向いて

13.記者会見

しおりを挟む
 芙季子は編集部にあるテレビをつける。
 夕方のニュース番組で、いくつかのテレビ局が記者会見の様子をライブで繋いでいた。

 マイクとICレコーダーが並ぶテーブルに、結城エンタープライズの社長と顧問弁護士の佐武、加害者の付添人として小坂美智琉が並んで座っていた。

 佐武弁護士が口を開く。
「本日は足下の悪い中、お集り頂きありがとうございます。10月25日に発生しました、女子高生殺傷未遂事件について、ご報告を申し上げたく、会見の場を設けさせて頂きました。わたくしは、被害少女が所属しておりました結城エンタープライズの顧問弁護士、佐武と申します。質問時間は後ほど設けさせて頂いておりますので、そちらの方でお願い致します。

 まずは、事の経緯を、わたくしの方からお伝えさせて頂きます。今回の事件は、嘱託殺人未遂事件であることが判明致しました。つまり、被害少女が依頼し、加害少女が受領したことにより、起こった事件であるということです。被害少女が母親に宛てて遺書のような物を残しておりました。遺書のような物と申し上げましたのは、被害少女が命の危機を脱したからであります。筆跡鑑定の結果、本人が書いた物であること、なにより我々が入院中の本人に面会し、間違いなく本人が書いた物と確認を取りました。なお、被害少女は世間を騒がせたこと、加害少女とその家族を巻き込み迷惑をかけたことを大変申し訳なく思っており、この場で謝罪をしたいと申しておりますが、まだ退院の目途が立たたないこと、医者からも負担が大きいことから止められましたので、後ほど手紙にて、本人の思いを代読させて頂きます。

 では、なぜ被害少女が、依頼をするに至ったのかですが、理由は仕事内容に限界を覚えていたが、やりたくないと言いだせず、追い詰められ、いなくなることしか考えられなくなってしまった。しかし、自分で行うことがうまくいかず、相談をしていた加害少女にお願いした、との事でした。被害少女にとって、加害少女は初めてできた心を許せる友人でした。信頼を寄せていた人物の手で、と考えてしまったようです。
 ここで、結城エンタープライズの顧問弁護士としてお伝えしておきます。結城エンタープライズは、所属のタレントに仕事を無理強いしたことは、これまで一切ございません。タレント本人、未成年の場合は保護者も含めて、双方納得のいく契約を結んでおります。今回は、その契約が被害少女を追い詰めてしまったという事で、今後、結城エンタープライズとしては、所属タレントと面談を重ね、契約の見直しも含めて対策し、今後このような悲しい決断をさせてしまわないよう、タレントのケアに取り組んでまいります。

 経緯につきましては、以上となります」

 時折シャッター音が聞こえるが、集まった記者たちからは一声も上がらなかった。後に質問時間を設けると先に伝えたからだろう。

 次に、美智琉が口を開く。

「加害少女の付添人の小坂と申します。加害少女についてお伝えします。警察の事情聴取に応じた加害少女は、自分が刺したと認めました。動機について、警察の発表によると、人気が出てきたことに嫉妬し、置いていかれる焦燥感があったとされていましたが、これは警察による誘導があったと見ております。面会当初、加害少女は犯行について謝罪と反省を口にしましたが、動機に関して口を噤んでおりました。嘱託殺人未遂事件だと判明した後、ようやく口を開きました。友人に対し、嫉妬心や焦りは一切なかったと。警察の人が言うので、そうなのかもと頷いただけだと。大切な友人を傷つけたことを激しく後悔し、自分への罰として受け入れると、という気持ちでいたと、話しました。

 悩む友人に何もしてやれない罪悪感から、願いを叶えてやりたいと思い、受け入れてしまったが、他の方法を考えるべきであったと口にし、心より反省しております。
 なお、SNS等で書き込まれている誹謗中傷は、未来ある者への妨害行為と受け止め対処をしていきますので、身に覚えのある方は即刻削除を、また今後の心無い発言は控えて頂きますようお願い申し上げます」

 再び佐武弁護士が口を開く。

「誹謗中傷に関しては、二人以外にも、双方のご家族も含まれます。わたくし共からも慎重な発言をお願い致します。では、被害少女からの手紙を代読させて頂きます。

『今回は、私が起こした事で世間をお騒がせしてしまい、大変申し訳ございません。自分勝手なふるまいで、たくさんの人にご迷惑とご心配をおかけしてしまいました。心優しい友人と、そのご家族を責めないでください。すべて私が悪いのです。覚悟を決めないまま仕事を始めてしまい、後に引けなくなってしまいました。事務所から無理強いされたわけではありませんので、お仕事関係や事務所へのクレーム等は絶対にやめてください。大変お世話になったこと、勉強させて頂いたことを、私は感謝しています。自分の意見や気持ちを口にしなかった私が悪いのです。責められるべきは私一人です。どうかお願い致します。

 今回、私は間違った選択を取りました。自分の未来に希望を持てなくなったと思い込んで、大切な友人の人生を狂わせてしまいました。未熟という一言で片付けてはいけないほどのご迷惑をおかけしてしまいました。でも、ある方が言ってくれました。どんな人にも未来はあると。死んでしまわなくて良かったと思える日が来ますと。人の人生を狂わせた、責任と罰はどんな形でも受け入れなければなりません。でも未来は閉ざされていないと勇気を頂きました。どうか、皆さん、間違った選択をした私たちが前を向くことを、許して欲しいのです。生きていくことを許して欲しいのです。

 最後にもう一度、いいえ、何度でも言います。この度は誠に申し訳ございませんでした』

 以上です。それでは、質疑応答の時間に移らせて頂きます。質問がおありの方は、挙手をお願い致します。では、そちらの方」

 当てられた記者が所属と苗字を名乗り、「契約内容を教えてください」と質問する。

「内容に関して、申し上げられません」と佐武弁護士が答えると、
「非人道的な契約ということはありませんか」と食い下がる。

 重ねて「ございません。法に基づいた常識的な契約です」と丁寧に答えて、手を挙げたらしい別の記者を当てる。

「嫌だったという仕事の内容は何だったのでしょうか」
「動画撮影だと聞いております。被害少女はとても恥ずかしがりやだったそうです」

「今後の活動はどうなりますか」という質問には、社長が答えた。
「引退致します。ファンの方々には申し訳ありませんが、そっとしておいてやってください」

「賠償金の有無はどうなるのでしょうか」
「金額は出ておりませんし、申し上げられませんが、未成年にできるだけ背負わせないようにしたいと考えております」

「未成年を追い詰めたことに対する事務所の責任について、どうお考えですか」
「大変申し訳なく思っております。弊社所属のタレントと面談を実施し、悩みや心のケアをしていくことで、今後の防御策としていきたいと考えております」

「嫌なことも仕事の一つ、甘えは許されないと考える人もいると思います。タレントの勝手を許していいのでしょうか」
「どんな仕事も経験だということは理解しますが、タレントの仕事は公にされ一生残るもので、慎重に対応し、守るのも事務所の務めだと私共は考えています。タレントはその身が商売道具でありますが、まずは我々と同じ人であることを忘れてはいけないと肝に銘じて、今後のマネジメント業務に携わって参ります」

 事務所を悪者にする路線に変更したのか、事務所への質問が増える。

 今まで山岸由依を叩く路線だったマスコミは、嘱託殺人未遂事件だと判明したためできなくなり、追い詰められた宮前亜澄も叩きにくいのかもしれない。

 SNSでの扱いが気になり、芙季子はスマホを触る。

 ツイッターでは亜澄引退に関するコメント、他人を巻き込んだことに対する非難、そして事務所に対する非難と、亜澄の母への非難も相次いでいた。
 手紙の存在を隠して被害者であることを強調し嘘をついていた、騙されたと怒りのコメントが上がっている。

 誹謗中傷は家族に対しても控えて欲しいとお願いしていたが、そのうち上がってしまうだろう。

 翌日、週刊成倫が発売された。
 両弁護士が話した内容をさらに深堀りした記事を芙季子が書いた。
 表紙を開いた一折に掲載され、週刊成倫だけのスクープになった。

 会見の内容をさらに詳しく書いているとしてテレビでも取り上げられたためか、よく売れた。
 社にとっては大切な売上に貢献できた喜ばしい事ではあるが、芙季子の胸は晴れなかった。

 芙季子と外村しか知らない、二人の少女の繋がり。
 まだ誰にも話せていない。
 母親たちに告げずに、本人らに伝えるわけにはいかない。

 だが、胸に留めておくには重すぎる事実。
 どうしたものかと、考えあぐねていたところ、美智琉から連絡があった。
 山岸由依の母親が会いたがっていると。

 明日、霞が関にある美智琉の所属する弁護士事務所で、山岸親子と会うことになった。
 その時間より前に美智琉に会い、子供たちの関係を先に伝える事にした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...