【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

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三章 過去の行い

12.強さとは

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 取材だから芙季子が払うというのをママが断り、全員分の食事代を支払った。
 食事と取材のお礼を伝え、駅でママと別れる。

「あつよママ、後ろ姿もきれいですね。60歳になった時、ああなっていたいです」
 二人で遠ざかるその背を見つめる。

「包容力があって、人を信じていて、感情的にならない。大人って感じだな」

「子供の頃って、少し年上の人たちが大人に見えてました。自分がその年になって、ちっとも大人じゃなくて、焦っていました。わたしは感情的になってしまうから。この年になって仕事に関しては冷静でいられるようになったけど、自分のことになるとダメダメです」

「わからなくはない。目標としている人に自分が全然近づけていなくて、焦ったり、落ち込んだり。メンタルぐちゃぐちゃになるけど、結局私は私でしかいられない。自分ができることをするだけ。あの人ができたことが、私にもできるとは限らない。諦めるのも方針転換するのもありだ。それは逃げじゃない。逃げたと後ろめたく感じたなら、その先でまた頑張ればいい」

 ママの姿が見えなくなって、改札をくぐる。
 大船・磯子方面の電車がまもなく到着とアナウンスが流れる。

「美智琉先輩にも、そう感じたことがあるんですか」

「私は父と同じ、少年犯罪を専門にしているから、どうしても父と比べてしまう。父ならこう立ち回っただろう、こう収めるだろうって、手本にして動いてみるんだけど、うまくいかないことがあってな。私の本音が見えないと依頼人に言われた。本当に信頼していいのかって。依頼人のために動いてきたつもりだったが、父の姿を追っていたんだってことに気づかされた。依頼人をちゃんと見ていなかった。それから、私と父は違うと受け止められた。私は父のようにはなれない。でも私なりのやり方を模索して、必要としてくれる依頼人に向き合おうと覚悟ができた」

 到着した電車に乗り込む。月曜日の昼過ぎの車内はあまり混んでいなかったが、二人は空いている席に座らず、ドア近くに佇む。

「お父さんと同じ道を進むって大変じゃないですか」
 芙季子も小学生の頃は、父と同じ職に就くつもりだった。
 今はまったく違う仕事をしているけれど、あのまま素直に進んでいたら、どんな壁に当たっていたのだろう。

「どうしても比べられるからな。私はそれが嬉しいが」
「比べられることがですか」

「ああ。父がそれだけ偉大ってことだからな」
「ブレませんね」

「目指すべき指針があるのはある意味、楽だ。目標に向かって進めばいいだけだから」
「強いんですよ。先輩は」

「強いのかはわからないけど、強くありたいとは思っている」
「そう思って突き進めることが、強いんです」

「芙季ちゃんは違うのか?」
「わたしは……」流れる車窓に目を向ける。「弱いです。すぐにへこみます」

「へこんでも、しばらく経ったら進もうとするじゃないか。私とペースが違うだけで、強いと思うよ。でも、強さが全てだとも思わないけど」

「わたしは強くありたいです。いちいちへこむのも、つらいんですよ」
 脳裏をよぎるのは息子だけではない。崇史との喧嘩が尾を引いている。

「その時は、誰かに頼ればいい。私でも範ちゃんでも、旦那さんでもお母さんでも。一人で吐きだしたいのなら、いらない紙に書き殴るのもいいかもな」

「したことないです、それ」
「発散方法は人それぞれ。自分に合った方法をみつけて、うまく乗り越えていけるといいな」

「仕事でもいいんでしょうか」
 美智琉を正面から見やる。

「いいんじゃないか。芙季ちゃんに合っているのなら」

 欲しかった答えが得られて、安心した。

「ありがとうございます」

「でも没頭しすぎないようにしような。お互い。バランスが大事だよ」
「はい」
 そう言う美智琉が、一番仕事にのめり込んでいそうな気がした。

「私は午後から面会だから、今日は帰るな」
「わたしも社に戻ります。橘宏樹を調べます」
 新宿方面への乗り換えのため、芙季子は美智琉に別れを告げて、赤羽駅で電車を降りた。
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