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二章 旧友との再会
8.芙季子の両親
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芙季子の父滝二は高校教諭を10年勤め、教育委員会に異動し、定年まで勤め上げた後、再任用で5年働き退職した。
71歳の今は年金で生活をしながら、シルバー人材センターの仕事と学習支援のボランティア活動をしている。
世間的には立派な人だと言われるが、芙季子としては素直に喜べなかった。
規則や規律を守らせようと、芙季子への躾はかなり厳しかった。挨拶、姿勢、食事のマナー等々。
小学校卒業までの門限は午後5時。習字と水泳の習い事の日だけは免除されたが、遊んでいて帰宅が遅れた時は、正座でこんこんと説教された。
約束を守らない、規則を守れないと社会に出た時他人様に迷惑をかけると。
中学校に入学すると、門限は午後7時になった。
その頃までは父親の言う事は絶対で疑いを持つことはなかったが、水泳部退部をめぐって滝二と対立した。
小学校の6年間スイミングを習っていた延長で、中学校でも水泳部に入部した。
しかし上下関係が厳しく、大会出場のための練習がきつかった。
習い事の頃から水泳を本格的にやるつもりはなく、3ヶ月後、自分で判断して退部した。
それが父親の癇に障ったらしい。
辞める前に相談・報告がなかった、何事も継続が大事、続けてみれば得るべきものがある、と叱られた。
自分の意志で決めたのに叱られて納得がいかず、反発心が芽生え、父親と距離を取った。
イライラすることが増えて集中力が減ったのか、テストの度に成績が落ちた。
滝二に叱られることでさらにイラつき、悪循環に陥った。
滝二は芙季子に教師になって欲しいと望んでいた。
小学校の卒業文集では父のような教師になりたいと書いた。
しかし教師になりたいとは思えなくなっていた。
元小学校教師だった母千香子から
「教師にならなくてもいいけど、勉強は自分のためにしたほうがいいわね。一般的な道から外れることは勇気がいるわよ」
と静かに諭された。それが思いのほか心に響き、自分のために勉強に向かうようになった。
県立の進学校に合格し、母の喜ぶ顔に報われた。
父の満足そうな笑顔には嫌悪感を覚えた。
滝二の姉である伯母が合格祝いをくれた時、「お父さん喜んだでしょう」と言われて腹が立った。
頑張ったのは自分だし、自分の未来のために選んだのだ。
「父のために選んだ学校ではありません」と答えて、思わぬ反抗にあった伯母は目を丸くしていた。
大学受験の頃には、父娘の関係はもっと酷くなり、話すらしなくなった。
メディア社会学部への推薦入学も滝二への相談報告はしなかった。
千香子経由で伝ったのか、滝二は何か言いたそうな顔はしていたが、芙季子は知らんふりを通した。
大学4の夏、成倫社の内定が取れ、両親が揃った場でちゃんと報告をした。
滝二が9月で定年を迎える直前だった。
どれだけ父が苦手であっても、大学まで行かせてもらったのだ。感謝だけは伝えておかなければいけないと、けじめをつけた。
出版社への就職に、滝二は難しい顔をしていた。
新聞社ならまだしも、出版社なんて娯楽を提供する仕事は芙季子がするべき仕事なのかと。
堅物で規律を重んじる人にも、趣味がある。
芙季子は滝二が定期購読している囲碁雑誌を持ち出し、こういう雑誌も社会に必要で大切。わたしはそういう仕事をしたいのだと冷静に訴えた。
滝二はそれ以来何も言わなくなった。
一人暮らしを始めて自由を得た芙季子は、忙しいことを理由にして帰省しなかった。
母と電話をしたり、たまに買い物に付き合ったりはしたが、父と顔を合わせたのは就職してから7年後の正月だった。
大学で知り合い、20歳から付き合っていた崇史が、地方の支社から本社に転勤になった。
籍を入れようという話になり、事後報告にはしたくないと言うので、渋々ながら崇史を連れて帰った。
久しぶりに会った父は、老けていた。
毛量が減り白髪が増え、体が全体的に縮んだように見えた。
夏に三十路を迎える娘が結婚してようやく一人前になると言う。
社会に出て7年経っているのだからもう一人前だと反感を覚えたが、お酒が入り、男泣きをし始めた時にはさすがに目が潤んだ。
結婚を急かす言葉は母から聞かされていなかった。
母には崇史のことを伝えていたから、父も彼の存在を知っていたはずで、自分たちに任せてくれているものと思い込んでいた。どうやら心配をかけていたらしいことに、遅まきながら気がついた。
式を挙げるつもりがないことを告げると、寂しそうな顔をしていた。
写真だけは欲しいというので、フォトスタジオで撮影をし、両方の両親を招いた食事会でアルバムを渡した。
年一回正月には帰省するようになった。
芙季子も大人になったのか、父への反発心や苦手意識は以前よりはましになった。
隣に崇史がいてくれるお陰だろう。
妊娠の報告をした時、顔を綻ばせる父を見て、一度は戸惑った妊娠が喜ばしいものに変わった。
これを機に、良好になれるかもと思ったが、死産後に父からかけられた言葉は、芙季子には受け入れがたいものだった。父はやはり芙季子の気持ちを分かっていなかった。
71歳の今は年金で生活をしながら、シルバー人材センターの仕事と学習支援のボランティア活動をしている。
世間的には立派な人だと言われるが、芙季子としては素直に喜べなかった。
規則や規律を守らせようと、芙季子への躾はかなり厳しかった。挨拶、姿勢、食事のマナー等々。
小学校卒業までの門限は午後5時。習字と水泳の習い事の日だけは免除されたが、遊んでいて帰宅が遅れた時は、正座でこんこんと説教された。
約束を守らない、規則を守れないと社会に出た時他人様に迷惑をかけると。
中学校に入学すると、門限は午後7時になった。
その頃までは父親の言う事は絶対で疑いを持つことはなかったが、水泳部退部をめぐって滝二と対立した。
小学校の6年間スイミングを習っていた延長で、中学校でも水泳部に入部した。
しかし上下関係が厳しく、大会出場のための練習がきつかった。
習い事の頃から水泳を本格的にやるつもりはなく、3ヶ月後、自分で判断して退部した。
それが父親の癇に障ったらしい。
辞める前に相談・報告がなかった、何事も継続が大事、続けてみれば得るべきものがある、と叱られた。
自分の意志で決めたのに叱られて納得がいかず、反発心が芽生え、父親と距離を取った。
イライラすることが増えて集中力が減ったのか、テストの度に成績が落ちた。
滝二に叱られることでさらにイラつき、悪循環に陥った。
滝二は芙季子に教師になって欲しいと望んでいた。
小学校の卒業文集では父のような教師になりたいと書いた。
しかし教師になりたいとは思えなくなっていた。
元小学校教師だった母千香子から
「教師にならなくてもいいけど、勉強は自分のためにしたほうがいいわね。一般的な道から外れることは勇気がいるわよ」
と静かに諭された。それが思いのほか心に響き、自分のために勉強に向かうようになった。
県立の進学校に合格し、母の喜ぶ顔に報われた。
父の満足そうな笑顔には嫌悪感を覚えた。
滝二の姉である伯母が合格祝いをくれた時、「お父さん喜んだでしょう」と言われて腹が立った。
頑張ったのは自分だし、自分の未来のために選んだのだ。
「父のために選んだ学校ではありません」と答えて、思わぬ反抗にあった伯母は目を丸くしていた。
大学受験の頃には、父娘の関係はもっと酷くなり、話すらしなくなった。
メディア社会学部への推薦入学も滝二への相談報告はしなかった。
千香子経由で伝ったのか、滝二は何か言いたそうな顔はしていたが、芙季子は知らんふりを通した。
大学4の夏、成倫社の内定が取れ、両親が揃った場でちゃんと報告をした。
滝二が9月で定年を迎える直前だった。
どれだけ父が苦手であっても、大学まで行かせてもらったのだ。感謝だけは伝えておかなければいけないと、けじめをつけた。
出版社への就職に、滝二は難しい顔をしていた。
新聞社ならまだしも、出版社なんて娯楽を提供する仕事は芙季子がするべき仕事なのかと。
堅物で規律を重んじる人にも、趣味がある。
芙季子は滝二が定期購読している囲碁雑誌を持ち出し、こういう雑誌も社会に必要で大切。わたしはそういう仕事をしたいのだと冷静に訴えた。
滝二はそれ以来何も言わなくなった。
一人暮らしを始めて自由を得た芙季子は、忙しいことを理由にして帰省しなかった。
母と電話をしたり、たまに買い物に付き合ったりはしたが、父と顔を合わせたのは就職してから7年後の正月だった。
大学で知り合い、20歳から付き合っていた崇史が、地方の支社から本社に転勤になった。
籍を入れようという話になり、事後報告にはしたくないと言うので、渋々ながら崇史を連れて帰った。
久しぶりに会った父は、老けていた。
毛量が減り白髪が増え、体が全体的に縮んだように見えた。
夏に三十路を迎える娘が結婚してようやく一人前になると言う。
社会に出て7年経っているのだからもう一人前だと反感を覚えたが、お酒が入り、男泣きをし始めた時にはさすがに目が潤んだ。
結婚を急かす言葉は母から聞かされていなかった。
母には崇史のことを伝えていたから、父も彼の存在を知っていたはずで、自分たちに任せてくれているものと思い込んでいた。どうやら心配をかけていたらしいことに、遅まきながら気がついた。
式を挙げるつもりがないことを告げると、寂しそうな顔をしていた。
写真だけは欲しいというので、フォトスタジオで撮影をし、両方の両親を招いた食事会でアルバムを渡した。
年一回正月には帰省するようになった。
芙季子も大人になったのか、父への反発心や苦手意識は以前よりはましになった。
隣に崇史がいてくれるお陰だろう。
妊娠の報告をした時、顔を綻ばせる父を見て、一度は戸惑った妊娠が喜ばしいものに変わった。
これを機に、良好になれるかもと思ったが、死産後に父からかけられた言葉は、芙季子には受け入れがたいものだった。父はやはり芙季子の気持ちを分かっていなかった。
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