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第8話

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「だいじょうぶか?」
 かけられた声に顔を向けると、知らないおじさんがバケツを持って立っていました。

 おじさんだけではありません。
 たくさんの大人が、バケツを持っていました。

「オレはへーき。こいつ、水をかけると溶けるんだ」
 助けてくれたおじさんに言うと、

「きみは勇気があるな。あとはおじさんたちに任せてくれ」
 おじさんはケントくんの頭をなでてくれました。

 おじさんの手はごつごつしていたけれど、温かく感じました。

 大人たちは水を入れたバケツを手わたして運んでいき、怪獣にかけていきます。
 ケントくんも水をかけていきます。

 頭も手足も溶けて、胴体だけになった怪獣は、ついに動かなくなりました。

 大勢の人がくわわってくれたので、残った部分もどんどん溶けていきます。
 やがて怪獣の形はなくなり、あとにはたくさんの青いインクだけが残りました。

 残ったインクをどうすればいいのか、大人たちは相談しています。
 ケントくんも考えました。インクを消す方法を。

「ケント!」
 名前を呼ばれました。キヨカちゃんを抱っこしたパパとママが走ってきます。

「無事だったのね! 良かった」
 ママがぎゅっと抱きしめてくれました。

「ママ」
 ケントくんも、ママの背中に手を回しました。

 ママはとてもあたたかくて、やさしいにおいがしました。

 ママはおこってばかりで、だいきらい。
 でも、ほめてくれるときもありました。

 運動会のかけっこで一等になれなかったのに、いっしょけんめいに走ったね。
 ママの荷物を持ってあげた時、ありがとうって笑ってくれた。

 キヨカちゃんにお菓子をわけてあげた時、優しいケントにごぼうびと言って、ママのお菓子を分けてくれた。
 ほんとうはママが大好き。パパもキヨカちゃんも大好き。

「ママ、いつもごめんなさい」
 ケントくんは、心からママに謝りました。

「ママも、叱ってばかりでごめんね」
 だきしめていた体をはなしたママは、泣いていました。

 たくさん心配をかけてしまっていたことを、ケントくんは知りました。

「さあ、おうちにかえろう」
 ママに手を握られました。

「ママ、だめなんだ。オレ、まだかえれない」
 ケントくんは足を動かしませんでした。

「あれ、オレのせいなんだ」
「どういうこと?」

 ママはケントくんの後ろを見ました。ケントくんも振り返ります。

 大人たちはまだ話しあっていました。

「さっきの怪獣は、オレが拾ったペンで描いたんだ。水で溶けたけど、まだ残ってるから消さないと」
「あれはインク? 鉛筆とかペンだったら消しゴムで消せるのにね」
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