【完結】イタズラ大好きケントくんと不思議なペン

衿乃 光希

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第2話

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 キヨカちゃんは、パンダの乗り物に乗っていました。
 少しずつ動いていますが、ケントくんにはなにが楽しいのかわかりません。
 もっと早く、びゅーんと動くものの方がぜったい楽しいのに。

「パパ、あれ乗ろう」
 車がぐるぐると回っているアトラクションを指差しました。

 キヨカちゃんのパンダは、まだ動いています。
 ケントくんは、パパとふたりで向かいました。パパは身長のせいで乗れなかったので、ひとりで乗ることになりました。

 派手な色のトラックをえらび、乗り込みました。

「出発進行」
 車が動き始めました。上にいったり、下にいったり。ぐるぐるぐるぐる。

 ケントくんが思っていたほどスピードが出ません。
 もっと速く回らないかな、と考えているうちに車は止まり、終わってしまいました。

 外から手を振っていたパパのところに戻ってくると、
「楽しかったか?」
 と聞かれました。

 ケントくんは正直に答えました。
「楽しくなかった。ほかのがいい」
 もっとドキドキハラハラするような、スリルを味わいたかったのです。

 メリーゴーランド。なにが楽しいのかわかりません。
 コーヒーカップを回そうとしたら、ママに止められました。
 ケントくんはスカイサイクリングに乗りたい。子供向けのジェットコースターに乗りたい。アスレチックで遊びたいのです。

 でも妹は怖がり。高いところはダメ。スピードのあるものはダメ。
 キヨカちゃんに合わせてばかり。
 好きなアトラクションに乗れないケントくん。

 お昼ご飯のハンバーガーをむしゃむしゃと食べたあと、ひとりでトイレに行きました。

「これ、なんだ?」

 手洗い場で、落とし物を拾いました。
 えんぴつのようで、持つ部分はえんぴつより太い。
 中が透けて見えます。インクなのか、紫色の液体が入っていました。

 落とし物は警察に届けないといけないと教わっています。
 だけど、ケントくんは、そのペンをどうしても使ってみたくなりました。うずうずします。

「ちょとだけなら、いいよね」
 届ける前に、ほんの少しならバレないよ。心の中で、もうひとりの自分がささやきました。

 書ける紙をさがしてキョロキョロ。個室に入って、トイレットペーパーをカラカラと出しました。壁に押し付けて、ペンをきゅっと動かしました。

 紫色の横線がトイレットペーパーに引かれます。
 すると線がもこっと膨らんだあと、飛び出てきました。床にぽてんと落ちます。

「なんだ、これ!」
 体を引いて、様子をみていましたが、動くような感じはありません。

 ケントくんはおそるおそる手を伸ばして、つまみ上げました。
 ただの棒です。木よりは固くないけれど、風船のような張りつめた感じはありません。
 適度なぶよぶよ感があります。

「こんにゃくみたい」
 激しく振ってみました。折れることもなく、頑丈なようです。

 壁に向かって投げつけました。
 べちょっと貼りついたあと、ゆっくりとすべり落ちていきました。

 ほかの絵も描いてみようと思ったケントくんは、違う色が出ないかなあと考えながら、手を動かしました。
 すると、黒い星が描けました。手裏剣みたいです。

「やった!」
 嬉しくなって、青いニンジン。オレンジ色のナス。赤色のバナナを描くと、壁にはみでてしまいました。

 今までと同じように、むくむくとふくらみました。ペーパーでなくてもいいんだとわかったケントくんは、もっと大きな絵を描きたくなりました。

 少しだけ描いたら落とし物として届けよう。そう思っていたのに、すっかり忘れてしまいました。
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