美弥ちゃんと幽霊犬

衿乃 光希

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二十四話 秘密の告白

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 戻ってきたルークスから、名前はティアラちゃんだと教えてもらった。
 パパとママの仲が良くないから、仲直りしてティアラちゃんを安心させてあげたい。とルークスはいけれど。

「ねえ、ルークス。前にもいったけど、人の家に突然行って、ケンカやめてってお願いできひんからね」
(でも、ティアラがかわいそうだよ)
「かわいそうやけど、どうにかしてあげたい気持ちはわかるけど」

 ピンポンを押すのはむりだから、お手紙を書いてポストに入れてみようか。
 気持ち悪がられて、マンションから出て行ってしまったら、大家さんであるお祖父ちゃんお祖母ちゃんに迷惑をかけてしまう。

 あれこれ考えてみたけれど、良い案は思い浮かばなかった。

 ママと夕食を食べ終えた頃、お祖母ちゃんから連絡が来た。
「お祖母ちゃん、お仕事終わって、お家に戻ったって」
(行こうよ、みやちゃん)
「じゃあ、ママにいってくる」

 ママから許可をもらって、美弥は最上階に向かった。
『ネコさんには、お部屋に入っててもらう?』
 前はネコさんを怖がらせてしまったから。

(ぼくはここで待っているよ)
 ルークスは玄関を入ったところでおすわりをした。
『わかった』

「お祖母ちゃん、こんばんは」
「はい、こんばんは」
「美弥ちゃん、こんばんは」
「あ、お祖父ちゃん。こんばんは」

 お祖母ちゃんは台所にいて、お祖父ちゃんはテーブルでお茶漬けを食べていた。
 ぽりぽりと、おしんこをかむ音が聞こえる。

「プリン食べる?」
 お祖母ちゃんがお盆にプリンを乗せて、運んできてくれた。
「ビンに入ってる。高いプリンや」

 三個百円のプリンも美味しいけれど、ビンに入ったプリンはもっと美味しい。
 口に入れた瞬間にとろけて、幸せが口いっぱいに広がるから。
 たまにしか食べられないけれど。

「美味しい! お祖母ちゃん美味しい」
 嬉しくて、テンションが上がってしまう。

「夕飯はなにを食べたの?」
「今日はカレー。ママの切ったニンジンは大きいねん。小さく切ってくれたらええのに」

 大好きなプリンを食べているときに、大嫌いなニンジンの話はあまりしたくないなと思いながらも、つい文句をいってしまった。

「カレーならニンジンの匂いがあまりしないでしょう」
「そうやけど」
「見た目から味を思い出しちゃうのかもね」
 お祖母ちゃんがふふふと笑った。

 プリンを食べ終わってから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに質問をした。
「あのね、教えて欲しいことがあるねん」
「今朝、メールが来てたわね。どうしたの?」

「1201の住人さんって、プードルさん飼ってる?」
「1201? どうだったかしらね」
 お祖母ちゃんが首を傾けた。

 お祖父ちゃんが答えてくれた。
「1201なら、飼う連絡はきていたけど、書類はまだだったんじゃないかな。どれ、見て来よう」
 席を立ったお祖父ちゃんは、別の部屋に行った。

「どんな人かわかる?」
 お祖父ちゃんがいない間、お祖母ちゃんに聞いてみた。
「さあ、会ってないからわからないわね。入居者さんのみんながあいさつに来てくださるわけじゃないからねえ」

「会って、入居の許可をするんじゃないんや」
「最終的に許可を出すのはお祖父ちゃんだけど、書類で決めるからね」

 お祖父ちゃんが紙を手に持って戻ってきた。さっきはかけていなかったメガネをかけている。
「30代の夫婦二人だな。イヌは、一カ月前に飼いますと連絡がきていた。ティーカッププードルのティアラだと」
「それ! ティアラちゃん!」

 美弥が大きな声を出したので、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんを驚かせてしまった。
「びっくりした。どうしたの?」
「ご、ごめんなさい。あのね、パパさんとママさんがケンカしてるみたいで、ええっと」

 ティアラちゃんを助けてあげて欲しい。といいたいけれど、どう伝えればいいのかわからなくなった。

「夫婦喧嘩かしらね。他の住人さんからのクレーム連絡はなかったと思うけど。ね、お父さん」
「管理会社からは、なんも報告はないな」

 違うの。住人さんからじゃなくて、飼っているイヌからなの。
 いえれば楽なのに、どうしようと困った。

「もしかして、美弥ちゃんのお部屋まで、声が聞こえているの?」
「違うくて。声が聞こえたことないよ」

「そうなの? よほど大きな声なら注意をしに行かないと」
「そうじゃなくてね」

 美弥があたふた慌てていると、
「美弥ちゃん」
 お祖父ちゃんの落ち着いた声で呼ばれた。

「ゆっくりでいいから、伝えたいことがあるならいいなさい」

 美弥は大きく息を吸って吐いた。
 ごまかすのはむりだ。信じてもらえなくても、ルークスのことを伝えよう。
 ママには叱られたけれど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんなら、大丈夫かもしれない。

「あのね、ティアラちゃんがケンカに怯えてるところを、ルークスが見てん」
 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの目が点になっている。
 これだと意味がわかないから、いい直すことにした。

「死んじゃったルークスが、幽霊になって、帰ってきてるねん」
 二人はもっと固まってしまった。

 美弥はここに引っ越ししてきた一週間後に、神社でルークスの幽霊と会ったことから、ゆっくりと話をした。
 ルークスは美弥にしか見えない。でも話ができる。
 柴犬ヤマトの悩みをルークスが見抜いて、一緒に解決したこと。
 今朝、ドッグランで、イヌのケンカがあって、ルークスが止めに入ったこと。
 ティアラちゃんを助けてあげて欲しいと頼まれたこと。

 作り話だと思わないで欲しいと思って真剣に話すと、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも、耳を傾けてくれた。

 そして、お祖父ちゃんがいってくれた。
「俺は美弥ちゃんを信じるよ」


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