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十話 美弥の宝物
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美弥は放課後まで一言も声をださなかった。
転校したばかりだからか、担任の石井守先生は美弥を当てることはなかったし、給食当番でもないから、話す必要もなかった。
でもルークスには話しかけた。それだけが先週との違い。
ルークスはほとんど寝ていたけど。
給食の時間だけはぱっちりと瞼を開いて、物欲しそうな顔をしていた。
終わりの会が終わって、クラスメイトたちが連れ立って帰って行く。
美弥もランドセルを背負って、教室をでた。
(きょうだいも、帰ってるのかな)
『一年生は、もっと早く帰ってるかも』
(そうなの?)
『一年生の勉強時間は短かったと思う』
(お兄ちゃんは?)
『六年生はわからへん。だって美弥より二年上なんやから』
(みにいこうよ)
『え? 六年生の教室に?』
とつぜん足を止めた美弥を、後ろにいた男の子がチッと舌打ちして追い越していく。
「ごめんなさい」
と謝ったあと、美弥も階段を降りた。
『六年生の教室は行きにくいんよ』
(どうして、上にいくだけでしょ)
『そういうことやなくて……行ったらじろじろ見られるやん。話しかけられたら、なんて答えるのん? 浩ちゃんのお兄ちゃんっていっても、わかってくれへんわ』
(そうなの?)
『そうなの』
一年二組の教室は、前を通ってちらっと覗いたみた。教室には誰もいなかった。
浩ちゃんの姿を見かけることなく、美弥は帰宅した。
「ただいま」
返事はない。
(ママはいないの?)
「平日は夕方まで学校やから」
家の中なので、美弥は口に出して答えた。
(ママもおべんきょうをしにいってるんだね)
「うん」
美弥は手荒らいとうがいを終えて、勉強机に置いてある子供用スマホを見る。
メッセージはなし。
美弥が子ども用スマホを持つことになったのは、ここにきてから。
心配したママに持たされたけれど、学校には持って行かない。おでかけするときには必ず持ち歩きなさい。
もしお友達と放課後に遊ぶ約束をしても、一度家に戻ってスマホを持って出かけること、といわれている。
スマホに登録している人は、ママと和司お祖父ちゃん、都築のお祖父ちゃんお祖母ちゃんと、佳嗣伯父さん夫婦の六人。それと、京都にいる幼稚園からのお友達、望月シオンちゃんのママ。シオンちゃんはスマホを持っていないから、美弥が話したいときはシオンちゃんママに連絡をする。
「シオンちゃんに、ルークスが帰ってきたこと、伝えてもいい?」
ルークスもシオンちゃんと遊んだことがあるので、お互いに知っている。
(ぼくはいいけど。シオンちゃん、なんていうのかな?)
少し考えたすえ、美弥はスマホを机に戻した。
「やっぱりやめとく」
愛犬が幽霊になって帰ってきた、なんて話信じてくれないだろう。
「ルークス、写真撮ろう」
美弥はもう一度スマホを手に取ってカメラアプリを立ち上げて、、ルークスにカメラを向けた。
ファインダーに写っているのは、美弥の部屋だけだった。ルークスの姿はぜんぜん写っていない。
「やっぱり、写らへんわ」
予想はしていたけど、残念だった。
「見て。ルークスの写真、ママに送ってもらってん」
美弥はルークスに写真を見せる。
今のルークスは写らないけど、過去のルークスの写真はたくさんある。
いきおいよく走って、ブレているルークス。
美弥に抱きつかれているルークス。
自然の中で胸を張ってかっこよく立っているルークス。
ご飯を食べている姿。おかわりを要求している姿。
美弥とパパとルークスが三人で川の字になって眠っている写真。
思い出を見つめていると幸せな気持ちになって、自然と笑顔になる。
だけど、途中で悲しくなってきて、涙が溢れてくる。
いつも泣いてしまうのがわかっているのに、なんども見返す。
悲しくて寂しいけれど、二人がいた証を見て、つながりを感じる。
切なくなりながら、癒されもするから。
スマホの中の写真は、美弥にとって宝物だった。
着信音がなった。
秀美お祖母ちゃんから。
「今日、お祖母ちゃん家で夜ご飯食べなさいって。あ、ママからもメッセージきた」
ママは学校のお友達と勉強をするから遅くなると伝えてきた。
(お祖母ちゃんの家にはいつ行くの?)
「夕飯のときでいいんちゃうかな」
(そしたらさ、ヤマトのところにいこうよ。ぼくお家わかるよ)
「えー、でももうじき暗くなるよ。ママとの約束があるし」
(約束って?)
「門限」
(ママいないのに)
「ママがいないから破っていいんやないの」
(そうなの? じゃあ、いつヤマトにあいにいく?)
「んーわからへん。偶然会ったらでいいやん」
(おさんぽにいかないと、ぐうぜんもおこらないよ)
「そうやけど」
美弥が渋っていると、メッセージがまたきた。
「お祖母ちゃん、お家に戻ってるから、おいでって。ルークスも行こう」
(うーん、わかった)
残念がるルークスを連れて、美弥は二十階に向かった。
転校したばかりだからか、担任の石井守先生は美弥を当てることはなかったし、給食当番でもないから、話す必要もなかった。
でもルークスには話しかけた。それだけが先週との違い。
ルークスはほとんど寝ていたけど。
給食の時間だけはぱっちりと瞼を開いて、物欲しそうな顔をしていた。
終わりの会が終わって、クラスメイトたちが連れ立って帰って行く。
美弥もランドセルを背負って、教室をでた。
(きょうだいも、帰ってるのかな)
『一年生は、もっと早く帰ってるかも』
(そうなの?)
『一年生の勉強時間は短かったと思う』
(お兄ちゃんは?)
『六年生はわからへん。だって美弥より二年上なんやから』
(みにいこうよ)
『え? 六年生の教室に?』
とつぜん足を止めた美弥を、後ろにいた男の子がチッと舌打ちして追い越していく。
「ごめんなさい」
と謝ったあと、美弥も階段を降りた。
『六年生の教室は行きにくいんよ』
(どうして、上にいくだけでしょ)
『そういうことやなくて……行ったらじろじろ見られるやん。話しかけられたら、なんて答えるのん? 浩ちゃんのお兄ちゃんっていっても、わかってくれへんわ』
(そうなの?)
『そうなの』
一年二組の教室は、前を通ってちらっと覗いたみた。教室には誰もいなかった。
浩ちゃんの姿を見かけることなく、美弥は帰宅した。
「ただいま」
返事はない。
(ママはいないの?)
「平日は夕方まで学校やから」
家の中なので、美弥は口に出して答えた。
(ママもおべんきょうをしにいってるんだね)
「うん」
美弥は手荒らいとうがいを終えて、勉強机に置いてある子供用スマホを見る。
メッセージはなし。
美弥が子ども用スマホを持つことになったのは、ここにきてから。
心配したママに持たされたけれど、学校には持って行かない。おでかけするときには必ず持ち歩きなさい。
もしお友達と放課後に遊ぶ約束をしても、一度家に戻ってスマホを持って出かけること、といわれている。
スマホに登録している人は、ママと和司お祖父ちゃん、都築のお祖父ちゃんお祖母ちゃんと、佳嗣伯父さん夫婦の六人。それと、京都にいる幼稚園からのお友達、望月シオンちゃんのママ。シオンちゃんはスマホを持っていないから、美弥が話したいときはシオンちゃんママに連絡をする。
「シオンちゃんに、ルークスが帰ってきたこと、伝えてもいい?」
ルークスもシオンちゃんと遊んだことがあるので、お互いに知っている。
(ぼくはいいけど。シオンちゃん、なんていうのかな?)
少し考えたすえ、美弥はスマホを机に戻した。
「やっぱりやめとく」
愛犬が幽霊になって帰ってきた、なんて話信じてくれないだろう。
「ルークス、写真撮ろう」
美弥はもう一度スマホを手に取ってカメラアプリを立ち上げて、、ルークスにカメラを向けた。
ファインダーに写っているのは、美弥の部屋だけだった。ルークスの姿はぜんぜん写っていない。
「やっぱり、写らへんわ」
予想はしていたけど、残念だった。
「見て。ルークスの写真、ママに送ってもらってん」
美弥はルークスに写真を見せる。
今のルークスは写らないけど、過去のルークスの写真はたくさんある。
いきおいよく走って、ブレているルークス。
美弥に抱きつかれているルークス。
自然の中で胸を張ってかっこよく立っているルークス。
ご飯を食べている姿。おかわりを要求している姿。
美弥とパパとルークスが三人で川の字になって眠っている写真。
思い出を見つめていると幸せな気持ちになって、自然と笑顔になる。
だけど、途中で悲しくなってきて、涙が溢れてくる。
いつも泣いてしまうのがわかっているのに、なんども見返す。
悲しくて寂しいけれど、二人がいた証を見て、つながりを感じる。
切なくなりながら、癒されもするから。
スマホの中の写真は、美弥にとって宝物だった。
着信音がなった。
秀美お祖母ちゃんから。
「今日、お祖母ちゃん家で夜ご飯食べなさいって。あ、ママからもメッセージきた」
ママは学校のお友達と勉強をするから遅くなると伝えてきた。
(お祖母ちゃんの家にはいつ行くの?)
「夕飯のときでいいんちゃうかな」
(そしたらさ、ヤマトのところにいこうよ。ぼくお家わかるよ)
「えー、でももうじき暗くなるよ。ママとの約束があるし」
(約束って?)
「門限」
(ママいないのに)
「ママがいないから破っていいんやないの」
(そうなの? じゃあ、いつヤマトにあいにいく?)
「んーわからへん。偶然会ったらでいいやん」
(おさんぽにいかないと、ぐうぜんもおこらないよ)
「そうやけど」
美弥が渋っていると、メッセージがまたきた。
「お祖母ちゃん、お家に戻ってるから、おいでって。ルークスも行こう」
(うーん、わかった)
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