美弥ちゃんと幽霊犬

衿乃 光希

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八話 ルークスと登校

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 犬が吠える声で美弥は目を覚ました。まどろみから一気に覚醒する。
「ルークスがおる」
 きのう体験したことが嘘や夢じゃなかった。感激した美弥は、となりで伏せをしていたルークスにしがみついた。

「ルークスぅ、おはよう! おはよう!」
「おはよう、みやちゃん。それ、とめてほしいな」
「あ、うん。そうやね」

 美弥は手をのばして、吠え続けている目覚まし時計を止める。
 好きな音を録音できる機能がついている。美弥はルークスの吠え声を録音して五年間愛用している。
 ルークスは自分の声とはいえ、犬の声に落ち着かないのだろう。

 Tシャツとスカートに着替えた美弥は顔を洗って、歯磨きをしてリビングに行く。
「ママ、おはよう」
 ママがあくびをする。十一月に試験があるから、ママは遅くまで勉強を頑張っていたのかもしれない。
「おはよう。元気ね。学校楽しみなの?」

 そうじゃないよ、ルークスがいるからだよ。美弥はそういいたかったけど、ルークスのことは誰にも秘密なので、なにもいわなかった。

 朝食はメロンパンとヨーグルトとオレンジ。飲み物は牛乳。こくこくがぶがぶ飲んで食べて、もう一度歯を磨き、美弥は帽子をかぶり、ランドセルをせおった。

「行ってきまーす」
 久しぶりにルークスと登校できる。美弥はうきうきしながら、玄関を出た。

 友達と一緒に登校する小学生の姿がちらほら。美弥はまだ友達がいないので一人。
 寂しいけれど、自分から話しかけるのは苦手。
 でも今日はルークスがいるから、足取りは軽い。

『楽しいねえ、ルークス』
(あのね、みやちゃん。はなしがあるんだ)

 テレパシーみたいな心と心の会話にも慣れた。

『どうしたん?』
(きのう、みやちゃんがねているあいだに、柴犬にあってきたんだ)
『兄弟が連れてた茶色の柴ちゃん?』
(うん。そうだよ)
『お家よくわかったねえ』
(においをかいだら、かんたんさ)
『ルークスかしこいね』

 胸を張るルークスと目を合わせて、美弥はにっこりする。

『お話はできたん?』
(ヤマト、すごくおちこんでた。おにいちゃんはいじわるじゃない。自分のせいなんだって。ふたりになかよくしてほしいって)

 学校までの道を歩きながら、美弥はルークスの話に耳を傾ける。

『浩ちゃんはヤマトくんを散歩させたいのに、お兄ちゃんは危ないからあかんっていうことやったんや。いじわるじゃ、ないね。ヤマトくんのためやもんね』

(浩ちゃんがわかってくれたら、なかよくさんぽできるのかなあ)
『でもお散歩したい、リード持ちたいっていう気持ち、あたしはわかるよ』
 美弥もルークスのお散歩について行ったときは、リードを持ちたいとパパやママにせがんだ。

『子犬でもあたしの力やと無理やから、あかんっていわれた』
(あれ? ぼくみやちゃんにひっぱってもらったの覚えているよ)
『あれはね、パパが後ろでこっそり持ってたんよ。二本用意してくれて、あたしが一本持って、もう一本をパパかママが持って、あたしのこともルークスのことも守ってくれてたん』

(そうだったんだね。みやちゃん、それ、あのきょうだいにおしえてあげられないかなあ)
『兄弟に? 教えてあげられたら二人でリード持てるけど、ルークスがヤマトくんに伝えても、人には伝わらへんねえ』

(みやちゃんが教えてあげてよ!)
「え!?」

 思わず声をだしてしまった。前にいた子が振り返ったので、美弥は恥ずかしくて顔を下ろした。

『もう! ルークス、びっくりさせんといてよ!』
(ごめん。でもそれならふたりにつたわるでしょ)
『そ、そうやけど……』

 知らない人に話しかけるのは、美弥にはハードルが高い。相手が大人でも、年が近くても、緊張してしまう。
 優しい人だったら聞いてくれるしれないけれど、求めていないのに余計なことをするなと怒らせてしまうかもしれない。。

『お兄ちゃん、ちょっと怖かったし』
(ヤマトはいじわるじゃないっていってたよ。それじゃ、浩ちゃんは?)
『浩ちゃん? うーん。あ……』
(浩ちゃんとおにいちゃんだ!)

 正門前に立っている先生にあいさつをして学校に入って行く子供たちの中に、兄弟を見つけた。
一緒に登校している。

(おなじがっこうなら、はなしかけやすいんじゃない?)
『なにかきっかけがあればなあ……』

 話しかける勇気はでないけれど、ヤマトくんを心配しているルークスの気持ちもよくわかる。だけどやってみる、とも無理ともいえなかった。
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