8 / 32
八話 ルークスと登校
しおりを挟む
犬が吠える声で美弥は目を覚ました。まどろみから一気に覚醒する。
「ルークスがおる」
きのう体験したことが嘘や夢じゃなかった。感激した美弥は、となりで伏せをしていたルークスにしがみついた。
「ルークスぅ、おはよう! おはよう!」
「おはよう、みやちゃん。それ、とめてほしいな」
「あ、うん。そうやね」
美弥は手をのばして、吠え続けている目覚まし時計を止める。
好きな音を録音できる機能がついている。美弥はルークスの吠え声を録音して五年間愛用している。
ルークスは自分の声とはいえ、犬の声に落ち着かないのだろう。
Tシャツとスカートに着替えた美弥は顔を洗って、歯磨きをしてリビングに行く。
「ママ、おはよう」
ママがあくびをする。十一月に試験があるから、ママは遅くまで勉強を頑張っていたのかもしれない。
「おはよう。元気ね。学校楽しみなの?」
そうじゃないよ、ルークスがいるからだよ。美弥はそういいたかったけど、ルークスのことは誰にも秘密なので、なにもいわなかった。
朝食はメロンパンとヨーグルトとオレンジ。飲み物は牛乳。こくこくがぶがぶ飲んで食べて、もう一度歯を磨き、美弥は帽子をかぶり、ランドセルをせおった。
「行ってきまーす」
久しぶりにルークスと登校できる。美弥はうきうきしながら、玄関を出た。
友達と一緒に登校する小学生の姿がちらほら。美弥はまだ友達がいないので一人。
寂しいけれど、自分から話しかけるのは苦手。
でも今日はルークスがいるから、足取りは軽い。
『楽しいねえ、ルークス』
(あのね、みやちゃん。はなしがあるんだ)
テレパシーみたいな心と心の会話にも慣れた。
『どうしたん?』
(きのう、みやちゃんがねているあいだに、柴犬にあってきたんだ)
『兄弟が連れてた茶色の柴ちゃん?』
(うん。そうだよ)
『お家よくわかったねえ』
(においをかいだら、かんたんさ)
『ルークスかしこいね』
胸を張るルークスと目を合わせて、美弥はにっこりする。
『お話はできたん?』
(ヤマト、すごくおちこんでた。おにいちゃんはいじわるじゃない。自分のせいなんだって。ふたりになかよくしてほしいって)
学校までの道を歩きながら、美弥はルークスの話に耳を傾ける。
『浩ちゃんはヤマトくんを散歩させたいのに、お兄ちゃんは危ないからあかんっていうことやったんや。いじわるじゃ、ないね。ヤマトくんのためやもんね』
(浩ちゃんがわかってくれたら、なかよくさんぽできるのかなあ)
『でもお散歩したい、リード持ちたいっていう気持ち、あたしはわかるよ』
美弥もルークスのお散歩について行ったときは、リードを持ちたいとパパやママにせがんだ。
『子犬でもあたしの力やと無理やから、あかんっていわれた』
(あれ? ぼくみやちゃんにひっぱってもらったの覚えているよ)
『あれはね、パパが後ろでこっそり持ってたんよ。二本用意してくれて、あたしが一本持って、もう一本をパパかママが持って、あたしのこともルークスのことも守ってくれてたん』
(そうだったんだね。みやちゃん、それ、あのきょうだいにおしえてあげられないかなあ)
『兄弟に? 教えてあげられたら二人でリード持てるけど、ルークスがヤマトくんに伝えても、人には伝わらへんねえ』
(みやちゃんが教えてあげてよ!)
「え!?」
思わず声をだしてしまった。前にいた子が振り返ったので、美弥は恥ずかしくて顔を下ろした。
『もう! ルークス、びっくりさせんといてよ!』
(ごめん。でもそれならふたりにつたわるでしょ)
『そ、そうやけど……』
知らない人に話しかけるのは、美弥にはハードルが高い。相手が大人でも、年が近くても、緊張してしまう。
優しい人だったら聞いてくれるしれないけれど、求めていないのに余計なことをするなと怒らせてしまうかもしれない。。
『お兄ちゃん、ちょっと怖かったし』
(ヤマトはいじわるじゃないっていってたよ。それじゃ、浩ちゃんは?)
『浩ちゃん? うーん。あ……』
(浩ちゃんとおにいちゃんだ!)
正門前に立っている先生にあいさつをして学校に入って行く子供たちの中に、兄弟を見つけた。
一緒に登校している。
(おなじがっこうなら、はなしかけやすいんじゃない?)
『なにかきっかけがあればなあ……』
話しかける勇気はでないけれど、ヤマトくんを心配しているルークスの気持ちもよくわかる。だけどやってみる、とも無理ともいえなかった。
「ルークスがおる」
きのう体験したことが嘘や夢じゃなかった。感激した美弥は、となりで伏せをしていたルークスにしがみついた。
「ルークスぅ、おはよう! おはよう!」
「おはよう、みやちゃん。それ、とめてほしいな」
「あ、うん。そうやね」
美弥は手をのばして、吠え続けている目覚まし時計を止める。
好きな音を録音できる機能がついている。美弥はルークスの吠え声を録音して五年間愛用している。
ルークスは自分の声とはいえ、犬の声に落ち着かないのだろう。
Tシャツとスカートに着替えた美弥は顔を洗って、歯磨きをしてリビングに行く。
「ママ、おはよう」
ママがあくびをする。十一月に試験があるから、ママは遅くまで勉強を頑張っていたのかもしれない。
「おはよう。元気ね。学校楽しみなの?」
そうじゃないよ、ルークスがいるからだよ。美弥はそういいたかったけど、ルークスのことは誰にも秘密なので、なにもいわなかった。
朝食はメロンパンとヨーグルトとオレンジ。飲み物は牛乳。こくこくがぶがぶ飲んで食べて、もう一度歯を磨き、美弥は帽子をかぶり、ランドセルをせおった。
「行ってきまーす」
久しぶりにルークスと登校できる。美弥はうきうきしながら、玄関を出た。
友達と一緒に登校する小学生の姿がちらほら。美弥はまだ友達がいないので一人。
寂しいけれど、自分から話しかけるのは苦手。
でも今日はルークスがいるから、足取りは軽い。
『楽しいねえ、ルークス』
(あのね、みやちゃん。はなしがあるんだ)
テレパシーみたいな心と心の会話にも慣れた。
『どうしたん?』
(きのう、みやちゃんがねているあいだに、柴犬にあってきたんだ)
『兄弟が連れてた茶色の柴ちゃん?』
(うん。そうだよ)
『お家よくわかったねえ』
(においをかいだら、かんたんさ)
『ルークスかしこいね』
胸を張るルークスと目を合わせて、美弥はにっこりする。
『お話はできたん?』
(ヤマト、すごくおちこんでた。おにいちゃんはいじわるじゃない。自分のせいなんだって。ふたりになかよくしてほしいって)
学校までの道を歩きながら、美弥はルークスの話に耳を傾ける。
『浩ちゃんはヤマトくんを散歩させたいのに、お兄ちゃんは危ないからあかんっていうことやったんや。いじわるじゃ、ないね。ヤマトくんのためやもんね』
(浩ちゃんがわかってくれたら、なかよくさんぽできるのかなあ)
『でもお散歩したい、リード持ちたいっていう気持ち、あたしはわかるよ』
美弥もルークスのお散歩について行ったときは、リードを持ちたいとパパやママにせがんだ。
『子犬でもあたしの力やと無理やから、あかんっていわれた』
(あれ? ぼくみやちゃんにひっぱってもらったの覚えているよ)
『あれはね、パパが後ろでこっそり持ってたんよ。二本用意してくれて、あたしが一本持って、もう一本をパパかママが持って、あたしのこともルークスのことも守ってくれてたん』
(そうだったんだね。みやちゃん、それ、あのきょうだいにおしえてあげられないかなあ)
『兄弟に? 教えてあげられたら二人でリード持てるけど、ルークスがヤマトくんに伝えても、人には伝わらへんねえ』
(みやちゃんが教えてあげてよ!)
「え!?」
思わず声をだしてしまった。前にいた子が振り返ったので、美弥は恥ずかしくて顔を下ろした。
『もう! ルークス、びっくりさせんといてよ!』
(ごめん。でもそれならふたりにつたわるでしょ)
『そ、そうやけど……』
知らない人に話しかけるのは、美弥にはハードルが高い。相手が大人でも、年が近くても、緊張してしまう。
優しい人だったら聞いてくれるしれないけれど、求めていないのに余計なことをするなと怒らせてしまうかもしれない。。
『お兄ちゃん、ちょっと怖かったし』
(ヤマトはいじわるじゃないっていってたよ。それじゃ、浩ちゃんは?)
『浩ちゃん? うーん。あ……』
(浩ちゃんとおにいちゃんだ!)
正門前に立っている先生にあいさつをして学校に入って行く子供たちの中に、兄弟を見つけた。
一緒に登校している。
(おなじがっこうなら、はなしかけやすいんじゃない?)
『なにかきっかけがあればなあ……』
話しかける勇気はでないけれど、ヤマトくんを心配しているルークスの気持ちもよくわかる。だけどやってみる、とも無理ともいえなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結済み】破滅のハッピーエンドの王子妃
BBやっこ
児童書・童話
ある国は、攻め込まれ城の中まで敵国の騎士が入り込みました。その時王子妃様は?
1話目は、王家の終わり
2話めに舞台裏、魔国の騎士目線の話
さっくり読める童話風なお話を書いてみました。
前世の君にさようなら
花
児童書・童話
ある日突然、前世の記憶がよみがえった平々凡々に生きる青年の話。
その前世の自分はとても切なく悲しい人生をおくった少年。
そんな前世の記憶を抱えたまま毎日を過ごしていたときに出会った人物とは…。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
ぽぽみんとふしぎなめがね
珊瑚やよい(にん)
絵本
ぽぽみんが「いいなぁ〜」っと思ったおめめに変身するお話です。ほら子供ってすぐ人のモノほしがるでしょ?
0才から3才の子供向けの絵本です。親子で読んでいただけたら幸いです。
わーい!! おかげさまでアルファポリスの絵本コンテストで奨励賞を頂きました!! 読んでくださった皆さんありがとうございます。
いつか津田健次郎さんが読み聞かせして下さらないかな♡♡♡
《誕生秘話》
漫画『呪術廻戦』が大好きで、その中に『ナナミン』というニックネームのキャラクターがいらっしゃいます(本名 七海建人)。
ナナミンって口に出すとリズミカルで言いやすいし、覚えやすいし、響きもいいのでお得満載だと思ったの。そこから『みん』をとりました。というか私が個人的にナナミンが大好き。
『ぽぽ』はなんとなく子供が言いやすそうだから。
ちなみにぽぽみんのシッポの柄とメガネのデザインもナナミンからきています。さあくんの名前とデザインは……ほら……あれですね。ナナミンの先輩のあの方ですね。この絵本はオタクママの産物。
カタツムリは以前娘が飼っていたカタツムリの『やゆよ』。
消防車は息子が好きな乗り物。
魚は以前飼っていた金魚の『もんちゃん』のギョロ目を参考にしています。
ぽぽみんの頭の形は、おやつに娘が食べていた大福です。大福を2回かじるとぽぽみんの頭の形になりますよ。今度やってみて。アイディアってひょんな事から思いつくんですよ。
体のデザインは私が難しいイラストが描けないので単純なモノになりました。ミッフィちゃんみたいに横向かない設定なんです。なぜなら私が描けないから。
そんなこんなで生まれたのが『ぽぽみん』です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。
第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。
のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。
新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第三部、ここに開幕!
お次の舞台は、西の隣国。
平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。
それはとても小さい波紋。
けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。
人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。
天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。
旅路の果てに彼女は何を得るのか。
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」
からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる