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48. 現世の番人
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昼過ぎに始まった戦いが終わったのは、夕方だった。
暗くなる前に早く下山をしようと、夏樹と所長は肩を貸し合って歩いている。
二人ともぼろぼろだった。血と泥まみれで、見るからに痛々しい。
今いる場所はスマホの電波が通じないため、通じる所に行ってから妖のタクシーを呼ぶことになった。
「僕はケガをしていないのに、力になれず、すみません」
とぼとぼとハイキングコースに戻る道をついてくる冬樺の声に、力がない。
「冬樺が妖狐並みに大きかったら、背中に乗せてもらうねんけどな」
夏樹が振り返えると、冬樺はいつもの妖姿で歩いていた。その耳は下がり、尻尾が垂れている。今までと違うのは、狐の姿になっても尾が二本になっているところだけ。
「やっぱり犬にしか見えへんわ」
夏樹が笑うと、冬樺は「だから犬じゃないですって」と元気のない声で反論した。
「大きな動物の背中に乗って空を飛ぶって、憧れるな。昔見た映画みたいだよ」
所長の口調は冬樺を責めているのではなく、からかっているだけ。
「所長、お体は大丈夫ですか」
「平気とは言えないけど、8尾の妖狐相手に、誰も致命傷を負わなかったのは、上々だよ。天狗さまにケガを負わされて、妖力を削られていたのもあるだろうけど」
所長は右足を少し引きずりながら、歩いている。三人の中で、所長のケガが一番酷い。だが、自分の足で立ってなんとか歩けている。動けない事態にならなくてよかった。
夏樹もケガをした。背中の強打と、妖狐の爪の風圧で皮膚が裂け、血が流れたが、大量の出血ではなかった。
家族の仇は取れなかった。でも、現状でできることはやった。かなりの深手を負った妖狐は、所長が幽世に応援を頼んで退治に向かうことになっている。もう、人だけでは手に負えない。
夏樹と冬樺に同行が許されるかはわからないけれど、一番気がかりなのは、妖狐が人を襲わないかという点だった。
所長の見立てでは、大量の妖力を失った状態では、ろくに動けないだろうということだった。
三人も手負いの状態なのに、逃げたのは勝ち目がないからと読んだから。勝ち目がないと判断したということは、妖狐自身が限界だったからに他ならない。
「まさか逃げると思ってなかったなあ。気がついてたら、逃がさへんかったのに」
逃げられたのはふいを突かれたから。跳躍して向かってくると思った。
「こっちも、限界が近かったけどね」
夏樹の霊力はまだ残っているけど、所長の霊力はたしかに限界が近かった。
新月でもともと減っていたせいだ。
でも、新月だからこそ、妖狐を追い詰めることができた。
満月でこちらの霊力がフルでも、妖狐も同じ状態になるのだから。
妖狐の回復も早かっただろうから、追い詰めることすらできず、全滅していた可能性もある。
満月だったら、冬樺は人間になっていたから、戦力になっていたのかどうか。
「ところでさ、冬樺のあの姿は何やったん?」
人の姿と妖の姿が混ざった獣人のような姿を思い出した。かっこよくて神々しさすら感じた。
「僕もわかりません。あんなのは初めてです」
当の本人は戸惑っている。
「妖というのは謎だらけだね」
「所長も見たことないの?」
「人化しようとして、失敗して耳と尻尾と鼻が残った狸を見た事あるぞ」
「鼻? それ、おもろいやん」
想像した夏樹がうひゃっと笑うと、
「今、僕で想像したでしょう」
冬樺が不服そうな声を上げた。
協力し合って電波の届く所までやってきた。所長が連絡をして、妖タクシーに来てもらえることになった。
山の中を走る道路まで出て休憩し、やがてやってきた妖の運転するタクシーに乗り込んだ。
冬樺が助手席に乗り、後部に夏樹と所長が乗る。
乗り込むと、ぐったりと気が抜けた。
約一時間後、事務所に着くまで寝て、体力を少し回復できた。
外はもう日が暮れ、暗くなっていた。
甘味処は閉店時間を迎えていて、マリーとルイは夏樹たちの姿を見て目を見開いた。
マリーが二階で手当てをしてくれていると、事務所で留守番を任されていたカマ吉は、心配げに手当ての様子を見ていた。
「ワシも役に立てたらええのに。揚羽さまみたいに、あんちゃんらのケガ、ばあって治せたら良かった」
「何を言うてんねん。カマイタチから鎌取ったら、ただのイタチやん。名前も改名せなあかんくなるで」
「ただのイタチは嫌や。それにあんちゃんからもらった大事な名前も変えたない」
「カマ吉はカマ吉でええんやで」
と慰めてやった。
ルイが作ってくれた雑炊をはふはふと食べて栄養を補給していると、雷のような轟音が駆け上がってきて、激しく扉が開いた。
「みんな、大丈夫!?」
息を切らせた佐和が、事務所に駆け込んできた。
*
二日後、事務所の三人と佐和は、額井岳に向かっていた。
所長は右足を負傷しているので、クラウンではなく、妖タクシーで。
額井岳は夏樹たちが妖狐と戦った鳥見山の東にある。
所長から連絡を受けた幽世側の警備部が動き、身を潜めていた妖狐を発見。人を襲わないように警備に当たっていた。
しかし現世の問題は現世の人間が対処すべしとの見解は変わらず、所長と佐和が動くことになった。
妖狐との戦闘後、疲れ果てていた夏樹たちは、手当てと着替えをすませると、早々に家路に就いた。
昨日、事務所に集まり、妖狐の退治についての説明を受けた。
所長は怪我人の上、霊力はまだ戻り切っていない。
佐和は元気でも、妖狐に接近する必要があるため危険だと判断した所長が、自分がやるからと言い張った。
そこで、まだ新月の影響が残っている冬樺が、手伝うと提案した。
もともとは自分の父である。責任をとらせて欲しいと。
そうなると、夏樹も仇の最期を見届けたいと主張した。
結果、全員で向かうこととなった。
その際、所長と佐和についての、重大な役目を聞いた。
二人は現世の治安を妖から守るためのお役目、『現世の番人』奈良県担当だと。
「なにそれかっこいい!」
夏樹は興奮。ヒーローに憧れる子どものような反応をして、冷静な冬樺に冷たい目を向けられた。
師匠から現世の番人を引き継いでいた佐和は、夏樹を後継者として育てたい、同時に家族になることも決断して、引き取った。
「最初、啓一郎くんには反対されたんよ」
「反対? なんでなん?」
所長がそんな人だったなんて、と軽くショックを受けて所長に目を向けた。
「この世界には関わらないほうがいいと思ったんだよ。家族が酷い目にあったんだ、思い出したくないだろう。記憶をなくしたのなら、関わらず暮らした方がいいと俺は思ったんだ。いつか必ずつらい思いをするってわかっていたからさ」
所長の優しさがひしひしと感じられた。
「実際、わかってしまいましたけど、夏樹さんとしては、どうなんですか? 関わらず知らないで生活をしていくのと、関わって結果を知った今」
冬樺の質問に、夏樹はにっと笑った。
「そんなんわかりきってるやん。今が良いに決まってる」
自信満々で、佐和の判断を推した。
額井岳に到着した。山伏姿をした烏天狗が迎えに来て、妖狐のいる場所まで案内をしてくれた。
たくさんの烏天狗に包囲され、妖狐は不機嫌そうに体を丸めて眠っている。わずかに顔を上げて夏樹たちを見たので、それがフリなのがわかった。
「お疲れさまです。ご足労をおかけしました」
所長が烏天狗の隊長に挨拶をする。
「暴れもせず静かなものですよ。諦めているのでしょうかね」
「諦めたのか、受け入れたのか。もうひと暴れするために、温存しているのかもしれません」
「ひと暴れですか。させませんよ。我々の威信に懸けて止めます。あなた方は安心して、お役目を全うしてください」
隊長は妖狐に厳しい目を向けている。気を抜かない姿勢が窺えた。
「頼もしい限りです」
妖狐から距離は取りつつも矢が届く位置まで所長が近寄ると、妖狐が身体を起こした。
烏天狗たちが一斉に錫杖を構える。
「陰陽師の子孫よ、来たのか」
夏樹に視線を向けてくる妖狐の声は、妖狐の声は穏やかだった。二日前に死闘を繰り広げた相手と思えないぐらい、覇気がなくなっていた。
「おまえは仇やからな。見届けんとな」
夏樹にとって妖狐は家族の仇だ。けれど、今の妖狐の姿を見ると、少し痛々しい気もした。
「儂にとっても、おまえは仇なんだがな」
「先祖がやったこと、オレのせいにされても知らんわ」
「さもありなん」
ははと笑う声にも力がない。
「冬樺」
「え、あ‥‥‥はい」
声をかけられると思っていなかったのだろう、冬樺が戸惑っている。
「おまえに一言伝えておく。母親――史織は、番が人化した姿に似ておった。あんなにふわふわした妖ではないから、見かけだけだがな」
「一応、母さんを選んだのには、理由があったんですね。最後に聞けて良かったです」
「ではな。ひと思いにやってくれ」
妖狐は立ち上がり、四本の脚でしっかりと地を踏みしめる。
「では、8尾の妖狐。お覚悟を」
所長が告げ、弓を作る。矢は一本。
隣で冬樺も小さめの弓を作って構えた。冬樺の矢も一本。
夏樹と佐和は二歩ほど下がって、所長と冬樺の背と、妖狐を自分の視界に入れた。
「いざ」
所長が小さく呟くと、二人は同時に右手を離した。
まっすぐに飛んでいった矢は、妖狐の眉間と胸に突き刺さる。
所長と冬樺はもう一度矢をつがえたけれど、追加は必要なかった。
妖狐はゆっくり塵となり、その大きな体は霧散していった。
暗くなる前に早く下山をしようと、夏樹と所長は肩を貸し合って歩いている。
二人ともぼろぼろだった。血と泥まみれで、見るからに痛々しい。
今いる場所はスマホの電波が通じないため、通じる所に行ってから妖のタクシーを呼ぶことになった。
「僕はケガをしていないのに、力になれず、すみません」
とぼとぼとハイキングコースに戻る道をついてくる冬樺の声に、力がない。
「冬樺が妖狐並みに大きかったら、背中に乗せてもらうねんけどな」
夏樹が振り返えると、冬樺はいつもの妖姿で歩いていた。その耳は下がり、尻尾が垂れている。今までと違うのは、狐の姿になっても尾が二本になっているところだけ。
「やっぱり犬にしか見えへんわ」
夏樹が笑うと、冬樺は「だから犬じゃないですって」と元気のない声で反論した。
「大きな動物の背中に乗って空を飛ぶって、憧れるな。昔見た映画みたいだよ」
所長の口調は冬樺を責めているのではなく、からかっているだけ。
「所長、お体は大丈夫ですか」
「平気とは言えないけど、8尾の妖狐相手に、誰も致命傷を負わなかったのは、上々だよ。天狗さまにケガを負わされて、妖力を削られていたのもあるだろうけど」
所長は右足を少し引きずりながら、歩いている。三人の中で、所長のケガが一番酷い。だが、自分の足で立ってなんとか歩けている。動けない事態にならなくてよかった。
夏樹もケガをした。背中の強打と、妖狐の爪の風圧で皮膚が裂け、血が流れたが、大量の出血ではなかった。
家族の仇は取れなかった。でも、現状でできることはやった。かなりの深手を負った妖狐は、所長が幽世に応援を頼んで退治に向かうことになっている。もう、人だけでは手に負えない。
夏樹と冬樺に同行が許されるかはわからないけれど、一番気がかりなのは、妖狐が人を襲わないかという点だった。
所長の見立てでは、大量の妖力を失った状態では、ろくに動けないだろうということだった。
三人も手負いの状態なのに、逃げたのは勝ち目がないからと読んだから。勝ち目がないと判断したということは、妖狐自身が限界だったからに他ならない。
「まさか逃げると思ってなかったなあ。気がついてたら、逃がさへんかったのに」
逃げられたのはふいを突かれたから。跳躍して向かってくると思った。
「こっちも、限界が近かったけどね」
夏樹の霊力はまだ残っているけど、所長の霊力はたしかに限界が近かった。
新月でもともと減っていたせいだ。
でも、新月だからこそ、妖狐を追い詰めることができた。
満月でこちらの霊力がフルでも、妖狐も同じ状態になるのだから。
妖狐の回復も早かっただろうから、追い詰めることすらできず、全滅していた可能性もある。
満月だったら、冬樺は人間になっていたから、戦力になっていたのかどうか。
「ところでさ、冬樺のあの姿は何やったん?」
人の姿と妖の姿が混ざった獣人のような姿を思い出した。かっこよくて神々しさすら感じた。
「僕もわかりません。あんなのは初めてです」
当の本人は戸惑っている。
「妖というのは謎だらけだね」
「所長も見たことないの?」
「人化しようとして、失敗して耳と尻尾と鼻が残った狸を見た事あるぞ」
「鼻? それ、おもろいやん」
想像した夏樹がうひゃっと笑うと、
「今、僕で想像したでしょう」
冬樺が不服そうな声を上げた。
協力し合って電波の届く所までやってきた。所長が連絡をして、妖タクシーに来てもらえることになった。
山の中を走る道路まで出て休憩し、やがてやってきた妖の運転するタクシーに乗り込んだ。
冬樺が助手席に乗り、後部に夏樹と所長が乗る。
乗り込むと、ぐったりと気が抜けた。
約一時間後、事務所に着くまで寝て、体力を少し回復できた。
外はもう日が暮れ、暗くなっていた。
甘味処は閉店時間を迎えていて、マリーとルイは夏樹たちの姿を見て目を見開いた。
マリーが二階で手当てをしてくれていると、事務所で留守番を任されていたカマ吉は、心配げに手当ての様子を見ていた。
「ワシも役に立てたらええのに。揚羽さまみたいに、あんちゃんらのケガ、ばあって治せたら良かった」
「何を言うてんねん。カマイタチから鎌取ったら、ただのイタチやん。名前も改名せなあかんくなるで」
「ただのイタチは嫌や。それにあんちゃんからもらった大事な名前も変えたない」
「カマ吉はカマ吉でええんやで」
と慰めてやった。
ルイが作ってくれた雑炊をはふはふと食べて栄養を補給していると、雷のような轟音が駆け上がってきて、激しく扉が開いた。
「みんな、大丈夫!?」
息を切らせた佐和が、事務所に駆け込んできた。
*
二日後、事務所の三人と佐和は、額井岳に向かっていた。
所長は右足を負傷しているので、クラウンではなく、妖タクシーで。
額井岳は夏樹たちが妖狐と戦った鳥見山の東にある。
所長から連絡を受けた幽世側の警備部が動き、身を潜めていた妖狐を発見。人を襲わないように警備に当たっていた。
しかし現世の問題は現世の人間が対処すべしとの見解は変わらず、所長と佐和が動くことになった。
妖狐との戦闘後、疲れ果てていた夏樹たちは、手当てと着替えをすませると、早々に家路に就いた。
昨日、事務所に集まり、妖狐の退治についての説明を受けた。
所長は怪我人の上、霊力はまだ戻り切っていない。
佐和は元気でも、妖狐に接近する必要があるため危険だと判断した所長が、自分がやるからと言い張った。
そこで、まだ新月の影響が残っている冬樺が、手伝うと提案した。
もともとは自分の父である。責任をとらせて欲しいと。
そうなると、夏樹も仇の最期を見届けたいと主張した。
結果、全員で向かうこととなった。
その際、所長と佐和についての、重大な役目を聞いた。
二人は現世の治安を妖から守るためのお役目、『現世の番人』奈良県担当だと。
「なにそれかっこいい!」
夏樹は興奮。ヒーローに憧れる子どものような反応をして、冷静な冬樺に冷たい目を向けられた。
師匠から現世の番人を引き継いでいた佐和は、夏樹を後継者として育てたい、同時に家族になることも決断して、引き取った。
「最初、啓一郎くんには反対されたんよ」
「反対? なんでなん?」
所長がそんな人だったなんて、と軽くショックを受けて所長に目を向けた。
「この世界には関わらないほうがいいと思ったんだよ。家族が酷い目にあったんだ、思い出したくないだろう。記憶をなくしたのなら、関わらず暮らした方がいいと俺は思ったんだ。いつか必ずつらい思いをするってわかっていたからさ」
所長の優しさがひしひしと感じられた。
「実際、わかってしまいましたけど、夏樹さんとしては、どうなんですか? 関わらず知らないで生活をしていくのと、関わって結果を知った今」
冬樺の質問に、夏樹はにっと笑った。
「そんなんわかりきってるやん。今が良いに決まってる」
自信満々で、佐和の判断を推した。
額井岳に到着した。山伏姿をした烏天狗が迎えに来て、妖狐のいる場所まで案内をしてくれた。
たくさんの烏天狗に包囲され、妖狐は不機嫌そうに体を丸めて眠っている。わずかに顔を上げて夏樹たちを見たので、それがフリなのがわかった。
「お疲れさまです。ご足労をおかけしました」
所長が烏天狗の隊長に挨拶をする。
「暴れもせず静かなものですよ。諦めているのでしょうかね」
「諦めたのか、受け入れたのか。もうひと暴れするために、温存しているのかもしれません」
「ひと暴れですか。させませんよ。我々の威信に懸けて止めます。あなた方は安心して、お役目を全うしてください」
隊長は妖狐に厳しい目を向けている。気を抜かない姿勢が窺えた。
「頼もしい限りです」
妖狐から距離は取りつつも矢が届く位置まで所長が近寄ると、妖狐が身体を起こした。
烏天狗たちが一斉に錫杖を構える。
「陰陽師の子孫よ、来たのか」
夏樹に視線を向けてくる妖狐の声は、妖狐の声は穏やかだった。二日前に死闘を繰り広げた相手と思えないぐらい、覇気がなくなっていた。
「おまえは仇やからな。見届けんとな」
夏樹にとって妖狐は家族の仇だ。けれど、今の妖狐の姿を見ると、少し痛々しい気もした。
「儂にとっても、おまえは仇なんだがな」
「先祖がやったこと、オレのせいにされても知らんわ」
「さもありなん」
ははと笑う声にも力がない。
「冬樺」
「え、あ‥‥‥はい」
声をかけられると思っていなかったのだろう、冬樺が戸惑っている。
「おまえに一言伝えておく。母親――史織は、番が人化した姿に似ておった。あんなにふわふわした妖ではないから、見かけだけだがな」
「一応、母さんを選んだのには、理由があったんですね。最後に聞けて良かったです」
「ではな。ひと思いにやってくれ」
妖狐は立ち上がり、四本の脚でしっかりと地を踏みしめる。
「では、8尾の妖狐。お覚悟を」
所長が告げ、弓を作る。矢は一本。
隣で冬樺も小さめの弓を作って構えた。冬樺の矢も一本。
夏樹と佐和は二歩ほど下がって、所長と冬樺の背と、妖狐を自分の視界に入れた。
「いざ」
所長が小さく呟くと、二人は同時に右手を離した。
まっすぐに飛んでいった矢は、妖狐の眉間と胸に突き刺さる。
所長と冬樺はもう一度矢をつがえたけれど、追加は必要なかった。
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