上 下
8 / 15

初めての決意。

しおりを挟む
 そう僕の名前はレイン、北方飴と書いてキタカタレインと読む。今まで僕の名前を呼べた人はいない。生まれた病院ではアメちゃんとかスイートちゃんとか呼ばれていた。母ちゃんと父ちゃんが僕の名前を話し合っているのをお腹の中で聞いていたのを僕ははっきり、くっきり、意識的に、興味深く聞いていたのを忘れもしないで、確実に覚えている。
「太郎とかにしようか。いや最近の皆の名前に違和感ないように溶け込めるようにしなくてはいけない気もするし、母さんどんな名前にしようか」
「そうね。アクアとかどうかしら」
「アクアか。悪くはないけど、良く聞く名前だし、だったら水繋がりで、レインはどうだ?」
「レイン? 良いわね。でもレインボーの方がいいわ」
「レインボーも良いね。雨、虹と来て、空繋がりか。じゃあそのイメージで行ったらメルヘンチックな感じだから、何か他に候補はないかな、母さん。ないならレインかレインボーに決めようか」
「そうね。メルヘンねえ。メルヘンと言ったら空から飴が降ってくるイメージがあるから、キャンディーにしようかしたらどう?」
「うーん。男の子にキャンディーはなあ。女の子だったらそれでもいいんだけど。そうだ!じゃあ俺と母さんの間をとって、俺は雨、つまりレイン、母さんは飴つまりキャンディー、その間というか妥協点なのかな。飴という字で、アメと読むから、レインにしないか?」
「どういうこと? レインって名前で、漢字は飴玉の飴にするってこと?」
「うん。そういうことだ。どうだい母さん」
「うーん……なんちゃって。それ最高! 名案ね!」
 母ちゃんが弾むような声で言ったのを鮮明に僕はお腹の中で覚えている。そしてその時は名案じゃなくて、迷案だろとか思ったけど、お腹の中で母親と繋がっていて、母親の気持ちも僕に伝達して来て、それがその場の乗りで決めた名前ではなくて、実は母親が名前の候補に飴、レインという名前が前もってあったというのが、心の中の声というか、以心伝心で伝わってきたので、こんなこともあるんだと驚きを感じ、生命の神秘を感じたと同時に、僕の名前の事を色々と真剣に考えてくれていたんだと、嬉しくもあり、そしてそれ以降、僕は自分の名前、飴という漢字の読み方レインという名前を僕は好きになって、今じゃ僕はレインで良かった。レインじゃなきゃ嫌だと思う様になっていた。とそこでようやく僕の発した言葉で放心状態だった母ちゃんが、放心状態から目覚め、我に返ったように首を横に何度も大きく振った。
「レイン、今、喋ったの……?」
 僕は次の言葉は更なる一歩つまり先ほどは母親の幻聴、あるいは何かの聞き間違いで済んだのかもしれないが、次に喋ったらもう二度とこの道は引き返せないだろうと分かった上で、意を決して、もう一度言葉を発した。
「はい、母さん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?

coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。 そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。 私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?

浮気性の旦那から離婚届が届きました。お礼に感謝状を送りつけます。

京月
恋愛
旦那は騎士団長という素晴らしい役職についているが人としては最悪の男だった。妻のローゼは日々の旦那への不満が爆発し旦那を家から追い出したところ数日後に離婚届が届いた。 「今の住所が書いてある…フフフ、感謝状を書くべきね」

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。

coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。 ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。 そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。

coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。 耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

処理中です...