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検査と情報
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検査をしろという通知が家に来ていた。表示の変わる紙で。
今日はSTEOP発現変化後の身体検査の日となっている。
異変時に目を覚ました所と同じ病院だ。
主治医の西岩先生軽く内科的な診察をされてから各科へ。
体内に異状がないか診られるのは、なんだか恥ずかしい。それを全部終えると、カルテのファイルを提出しに、また、西岩先生の所へと向かった。
待ち合い所の椅子に座っていると、声を掛けられた。
「もしかして、むつきさんですか? 石田むつきさん?」
声の方を見ると、三十歳くらいの女性が返事を待っているのが分かった。
道理に反することはしたくない――「いいえ」と答えたり別人の振りをしたりすることには、きっと何の意味もない。本名を言ったり、カルテを見せたりすると事情を知られてしまう可能性があるので、事務所で社長から言われた「元男と今はバレるな」を遂行できなくなってしまう。じゃあ――
「えっと……そうです。石田むつきです。でも人に言わないで頂けると嬉しいです…」
――このくらいがいいんじゃないかな。騒がれるのも好きじゃないし、病院も困るかもだし。
と、思っていると、女性の声が。
「あたし、ファンなんです。まさかこんな所で会えるなんて。今はなんで――」
まぁSTEOP発現が理由の検査だ…と話すと。
「実はあたし、肺の病気なんです。激しい運動もできないし、空気の綺麗な所にいる方がよくて……最初は恵まれてる人を見て嫉妬もしたんですけど……むつきさんの写真からは笑顔をもらえて。一緒に外を元気に歩いているような――明るい気分にさせてもらえるなぁ……って。だから、それで、ファンなんです」
ありがたいと思ってもらえていることこそ、ありがたい。
稼ぐために、ただ誠心誠意、商品をよく見せようと見え方を研究して頑張っているつもりだ。できればそれを見て「イイ」と思ってもらえればと。それがこんな効果までもたらしているだなんて。光栄だ。
あたしはこれでいいんだ、と思えた。やりがいと共に、心がもっとスッとする。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
「こちらこそ、むつきさんをありがとう…って言うと、変ですかね」
「全然、変じゃないですよ」
くすりと笑いながら――こんな出会いもあるんだなと、感じ入られる瞬間だった。
「逸矢田さーん」
と、声が掛かった。結局、本名バレだけはしてしまった。
立ち上がり、お辞儀をして、「じゃあ呼ばれたのでこれで」と西岩先生の診察室へ向かった。途中後ろを振り向くと、さっきの子がこちらに手を振っていたので、こちらも同じように軽く振り返した。
さて、入った診察室ではと言うと。
「何も異状はなさそうだね」
「よかったです」
「……生理は来た?」
いつかはそんな質問を誰かからされるとは思っていた。医者からで必要な事だから今回は何も気にしない。
「いえ、まだです。準備はしているんですけど」
「まあ、近いうちに来るだろうし問題はないだろうなぁ……準備してるなら大丈夫でしょう。じゃあオーケー。今日はもう会計を済ませて帰っていいですよ」
「はい」
こんな感じでいいのか……と思いながら、診察室を出た。すぐそこの待ち合いの椅子達の所には、もう、さっきの女性はいなかった。
――不安だったけど、今日はいい出会いもあった。嬉しかったなぁ……。
弾む気持ちを胸に、会計窓口へと歩いた。
翌日、事は大きく動いた。社長室にて――
「それを読んでこれからどうするつもりか考えてみてほしい」
社長が言ったそれを見る。ある雑誌のとある一面。赤線が引かれていて、そこが真っ先に目に飛び込んできた。そこに、こう書かれている。
石田むつき――本名逸矢田睦月――は元男で、それを隠してモデルをしている。そしてファンを欺き、ファンの女性と交際している!
今日はSTEOP発現変化後の身体検査の日となっている。
異変時に目を覚ました所と同じ病院だ。
主治医の西岩先生軽く内科的な診察をされてから各科へ。
体内に異状がないか診られるのは、なんだか恥ずかしい。それを全部終えると、カルテのファイルを提出しに、また、西岩先生の所へと向かった。
待ち合い所の椅子に座っていると、声を掛けられた。
「もしかして、むつきさんですか? 石田むつきさん?」
声の方を見ると、三十歳くらいの女性が返事を待っているのが分かった。
道理に反することはしたくない――「いいえ」と答えたり別人の振りをしたりすることには、きっと何の意味もない。本名を言ったり、カルテを見せたりすると事情を知られてしまう可能性があるので、事務所で社長から言われた「元男と今はバレるな」を遂行できなくなってしまう。じゃあ――
「えっと……そうです。石田むつきです。でも人に言わないで頂けると嬉しいです…」
――このくらいがいいんじゃないかな。騒がれるのも好きじゃないし、病院も困るかもだし。
と、思っていると、女性の声が。
「あたし、ファンなんです。まさかこんな所で会えるなんて。今はなんで――」
まぁSTEOP発現が理由の検査だ…と話すと。
「実はあたし、肺の病気なんです。激しい運動もできないし、空気の綺麗な所にいる方がよくて……最初は恵まれてる人を見て嫉妬もしたんですけど……むつきさんの写真からは笑顔をもらえて。一緒に外を元気に歩いているような――明るい気分にさせてもらえるなぁ……って。だから、それで、ファンなんです」
ありがたいと思ってもらえていることこそ、ありがたい。
稼ぐために、ただ誠心誠意、商品をよく見せようと見え方を研究して頑張っているつもりだ。できればそれを見て「イイ」と思ってもらえればと。それがこんな効果までもたらしているだなんて。光栄だ。
あたしはこれでいいんだ、と思えた。やりがいと共に、心がもっとスッとする。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
「こちらこそ、むつきさんをありがとう…って言うと、変ですかね」
「全然、変じゃないですよ」
くすりと笑いながら――こんな出会いもあるんだなと、感じ入られる瞬間だった。
「逸矢田さーん」
と、声が掛かった。結局、本名バレだけはしてしまった。
立ち上がり、お辞儀をして、「じゃあ呼ばれたのでこれで」と西岩先生の診察室へ向かった。途中後ろを振り向くと、さっきの子がこちらに手を振っていたので、こちらも同じように軽く振り返した。
さて、入った診察室ではと言うと。
「何も異状はなさそうだね」
「よかったです」
「……生理は来た?」
いつかはそんな質問を誰かからされるとは思っていた。医者からで必要な事だから今回は何も気にしない。
「いえ、まだです。準備はしているんですけど」
「まあ、近いうちに来るだろうし問題はないだろうなぁ……準備してるなら大丈夫でしょう。じゃあオーケー。今日はもう会計を済ませて帰っていいですよ」
「はい」
こんな感じでいいのか……と思いながら、診察室を出た。すぐそこの待ち合いの椅子達の所には、もう、さっきの女性はいなかった。
――不安だったけど、今日はいい出会いもあった。嬉しかったなぁ……。
弾む気持ちを胸に、会計窓口へと歩いた。
翌日、事は大きく動いた。社長室にて――
「それを読んでこれからどうするつもりか考えてみてほしい」
社長が言ったそれを見る。ある雑誌のとある一面。赤線が引かれていて、そこが真っ先に目に飛び込んできた。そこに、こう書かれている。
石田むつき――本名逸矢田睦月――は元男で、それを隠してモデルをしている。そしてファンを欺き、ファンの女性と交際している!
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