STEOP ふたりの天使

弧川ふき

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お泊まり会

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 新ヶ木市にいがきしに来てから初の友達との一日は、割とうまくいったんじゃないかな。
 家に泊まったり、どこかに旅行したり――そういうことも、もっともっとやっていきたい。ゲームをしたり、色んな話をしたりもしたい。
 一緒に調理やデザート作り…ケーキやクッキーなんかを作るのもいいかも。
 考えるだけで楽しくなる。
 そんなこんなで、仕事仲間にクッキーを配ることもあった。手作りだ。うまくなるために作った。大量に作ったから配った。理由はそれだけ。仕事仲間の誰かが特別で――なんて想いはない。ムダにして捨てたりするのも嫌だったし。
 今度はあたしの部屋にちあちゃんが泊まることになった。
 みーちゃんには予定があって、あーちゃんは彼氏と居たがっている――という話で、だからちあちゃんが、ひとりで泊まる流れになったらしい。
「えっと……何する?」
 昼からうちにいるちあちゃんがそう言った。
 正直、なんでもしたくて決められない。「えー、何しよう」うーん、うーんと考え込んだ。
「ちあちゃんは何がしたい?」
「うーん、そうだなぁ」
 そこでふと、聞きたい事が浮上した。
「ちあちゃんってクラブ好きなの? 通報してくれた時いたんだよね?」
 吐き気みたいなものを飲み込みながら返事を待った。
 しばらくしてから、ちあちゃんの口が動いた。
「あまりつるんでなかった知人に誘われてね、乗り気ではなかったんだけど、久々に会おうって言われて」
「あまり好きじゃないの?」
「うん。どっちかって言うとね。まあ、だから、これから行くことは無いと思う」
「…それがいいよ」
 なんだかホッとする。ちあちゃんがちあちゃんを守ってくれてありがとうって感じかな、この気持ちは。……まあクラブを一括りにしてしまうみたいでアレだけど。でもホッとする。
「で、どうする?」と、ちあちゃんが聞いたから――
「そうだなぁ…じゃぁ……あたしはお菓子作りがしたいけど、どう?」
「いいじゃん、やろやろ!」
 そうして話し合った結果、色んな味の蒸しパンを作ってみよう、という事になった。普通のや、チョコを溶かし混ぜたものや、オレンジ風味…色々。
「蒸し上がるまでの間に何か別のことしよ。何がいい?」
 と、あたしが言うと。
「実はさ、むーちゃんがやるゲームのこと、気になってるんだけど」
 それは部屋を見たからこその発言。
「じゃあ…ボクササイズRPGがあるからそれしよ」
「フツーに面白そう! あ、そっか、それでプロポーションを」
「まぁそんなトコ」
 そんなこんなでやってみる。
「ああ! 回復が!」
「そっか! じゃあここで、ワン、ツー!」
 体を動かしてRPGの冒険ができる、その物語を最初からやってみた。ちあちゃんは、コツを掴むのが凄く早かった。さすが運動部出身。
「これオモシロ~い!」
「でしょ~」
 なんて言っているうちに、アラームが鳴った。キッチンに確認しに行く。蓋を開け、複数の皿に取り出す。と――ホカホカと香る蒸しパンを並べることができた。しかもカラフル。
 ちあちゃんと成果を確かめる。口に入れて――
「美味しい!」
「やったね!」
 満足の出来の色々な蒸しパンを、何枚かの皿ごと部屋へ持っていき、さっきのボクササイズRPGの続きをしたり、別のゲーム「キューピッド生ゲーム」をしたりした。
「ああ! ダメなマスに止まった! もうずんどこだよ!」
 とあたしが言ってしまって、ちあちゃんから当然の声が。
「それを言うならどん底!」
 大笑いした。恥ずかしくなって顔も赤くなる。
「そうだ飲み物持ってくるね」
「うん」
 飲んでないワケではなかった。置いていたほぼ空のコップ――ふたつを持ってキッチンへ行き、よく冷えた麦茶を注ぐ。それを持って部屋へ戻って、置いてプレイ画面を見ようとした時、一瞬、全身から力が抜けた。
「あ……れ?」
「どうしたの?」
「いや……。んーん、なんでもない。あ、あたしの番?」
 気を取り直して、遊んだり、「この小物はどこどこで買ったんだよー」という話をしたりした。聞かれたからメイクやネイルの話もした。
 メイクは普段あまりしない。やるとしてもナチュラルさを大事にしている。ネイルも、ピガキラネイルマシンというものを使って十秒で完成させるお手軽設定でのネイルくらいしかしない。と話すと。
「私もピガキラだなあ、手を入れて組み合わせて選ぶだけでいいし、意外とアレいいよね」
「ね。まあお店もいいんだけど。プロは違うよねー、常に最先端の芸術を追ってるって感じ」
 うんうんとうなずき合った。それからちあちゃんが。
「服は? 普段着てる服、どんな感じなの?」
「服? んーっと……まあ、ブランドにこだわりはないよ、安くてもいい物はあるし、ブランド品だからって合う合わないがあるしね」
「ふむふむ」
 ほかにも色々話したけれど、ある時、STEOPスティープ能力の話題にもなった。
「あー、あたしは、艶とか新品度合いを戻すことができるんだ」
「へぇ~、じゃあ肌とかも?」
「うん」
「ふぅん…便利だね。美肌保てそう」
「でもどうなんだろう。実は怖いって思ってる」
「なんで?」
 ちあちゃんが首を傾げた。だからあたしは自分の体を両手で示しながら。
「人の細胞にも限界があると思うし…色々速めそうで」
「ああー……。確かに。……で、えっと、それって、艶だけじゃなくて…なんだっけ、新品に戻せる? だっけ? 物もだよね?」
「うん。綺麗さをね。余分な物が消える…汚れを落とす…みたいな。ほつれとか破れやヒビはそのままなんだけどね」
「そっか。ふぅん。……あ、で、そういえばその新品に戻せる話、どっかで聞いたような…って思ったんだけど――」
「うん?」
 今度はあたしが首を傾げた。そして思い出したのはあたしが早かった。
「そうだ、川沿いで撮影してた時、目の前で言ってた」
「そぉーか、その時だ」
 あの時の美し過ぎる天使みたいな男装ちあちゃんのことも思い出して、なんでだか、またドキッとした。
「あ、ご飯どうする?」
 急な話題転換みたいになってしまった。何かこう、気持ちを切り替えたくなったから…かな…。夕食の時間になっていたから、スッと出てしまった。
「それも一緒に作る?」
 と言われて、「いいね賛成」とあたしは口早に答えた。
 簡単なものを作って一緒に。鶏とトマトのスープなんかが美味しく温かくできた。
 その食事後、片付けが終わるまで雑談も続いて、それから気付いた。
「そういえばもうお風呂の時間! 用意するから先に入って!」
「ありがと」
「いえいえ」
 あたしはそう言うと、なぜだか火照った体を立ち上がらせ、風呂場へとゆっくり歩いて行った。

 用意ができた風呂にちあちゃんが先に入って出てきてから、あたしが入った。
 髪も体も洗ってバスタブにドボン。それから数分後、立ち上がり、バスタブの外に出てから――いつの間にか、あたしは、ベッドに寝ていた。
「あれ……?」
「あ! 起きた? よかった…。ムリしちゃダメだよ、むーちゃん」
 ちあちゃんの優しい声。
「そっか、あたし、お風呂から出ようとして、ボーッとして……」
 あたしの体は知らない間に乾いていた。拭いてくれたんだろうな。
 状況分析したあたしに対して、ちあちゃんは、テーブルの方をちらっと見て、それから言葉にした。
「この部屋の隅っこにあった本、見たよ――私におすすめの服についてこれだけは話す! って付箋が貼られてた」
「あは、見付けたんだ」
「うん、なんか隠してるみたいに置かれてたけどさ。……ほかにもあるんじゃないの? こんな風に準備のためにムリしたこと――」
「その……何か作ることになってもいいように…色々買い揃えただけ…だよ」
「ホントに~…?」
「実は昨日、大掃除みたいなことした。綺麗にしないとって…思って…」
「それで全部?」
「……いや…夜……ワクワクしてあまり寝れてなくて…」
「…あのね。むーちゃんだけが遊ぶんじゃなくて、私も遊ぶんだから、私にも何か任せてイイんだよ?」
 ちあちゃんはベッドの横にいる。こちらに向かって膝立ちしていて、その姿勢でずっと話している。
「ごめん。友達……友達だから……楽しんでほしくて……」
「…ありがとね。気持ちは嬉しい。でも。また体を壊したら…私もやだ。次は怒っちゃうよ? 私に元気をくれるむーちゃんのままでいてほしいんだからね」
 そういえばと思い出した。ちあちゃんはモデルとしてのあたしのファンだった。いや今も。
 ――そっか、そうだよね。あたしの体はあたしだけのものじゃない……。プロとしてなら、もっと考えないといけないんだ…。
 頑張ろう。だけどムリせず。
 そう思いながらも、それでも色んな意味で友達を大事にしたいと思った。
 だからこそ、ちあちゃんの言葉を、ちゃんと受け入れるべきなんだなと悟った。
「ありがと、ちあちゃん。次の時は……分担…かな」
「そうだね、分担しよ」
 ふふ、とあたしが笑うと、ちあちゃんの口の端も上がった。
 ふと、時間が気になった。
「今、何時?」
「夜0時5分だよ」
「そっか。もう、あたし、このまま寝るね」
「それがいい……ん? なんで毛布をそうやって開けるのかな?」
「え? 一緒に寝ないの? ベッドはまあまあ大きいし……」
「ああ――…えっと……じゃ、じゃあ、そうするかな……」
 ハリキリ過ぎて倒れてしまったけど、友達同士のお泊まり会を、どうにか良い感触で終えることができそうだ。無事ではないけど……嬉しさはいっぱいだ。
 何もかも大きいちあちゃんが隣に横になって毛布を掛ける。その手も大きい。頼りになるなぁ……なんて思っちゃう。
「おやすみ」
 ちあちゃんが小さな声でそう言ったから、あたしも。
「うん、おやすみ」
 またこうやって、そして次はもっと余裕を持って……――そう思っていると、いつの間にか寝ていた。
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