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約束
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日本の純粋な技術とSTEOP能力とで、この、新ヶ木島はできている。
そんな人工島の新ヶ木島は意外と広大で、ここだけでもかなりの仕事がある。
川のせせらぎで癒されるようなスポットも沢山だ。そんな水音を聞きながら、ただただ待つ――こんな時間も好きだ。
今はもう撮影も終わっていて、バスの中で着替えも済ませていた。ちゃっかり好きな服は紙袋で頂いた。
横にはまだマネージャーの遠藤さんの姿が。
川沿いのカフェの野外テーブルに着き、紅茶を一口。
そんな時。
「あの…お、お、お待たせしましま…した」
男装を解いた女性がそう言って、恥ずかしそうにした。
「私に用って…なんなんですか?」
あたしは深く呼吸をして、気分を落ち着かせた。そしてゆったりと。
「この間はありがとう。今回も。助けてくれて」
「……そんな、当然のことをしただけで…」
長身の人が、そう言ってあたしを見下ろし、照れ顔を見せている。とても好印象で、こちらにまで笑みが伝染する。そんな彼女の顔が急に真剣な顔になると。
「あれから大丈夫でした?」
「ああ、まあ…とりあえずは。大丈夫」
思い出してしまったけれど。大丈夫。
「そっか…よかった…」
と、彼女が本心で言っているように、あたしには聞こえた。その心のこもり方が、好きだなと思えた。
あたしも本心からの言葉を届けたいと思った。丸ごと、気持ちそのものの言葉を。
「あたし、あなたと友達になりたい。ならせてください」
あたしがそう言って手を差し出すと。
「こ、こここ、こちらこそ喜んで!」
彼女も手を差し出してきた。ぎこちなく握手。彼女の手の方が大きかった。
思わず笑みがこぼれそうになる。と、彼女の方から「はぁんっ」という声が聞こえた気がした。
友達ができた。純粋にとても嬉しい。ルンルン気分になるほど。
連絡先を教え合って、名前を知った。
高赤千秋。あたしがこの姿になってからの――仕事仲間以外の知人――友達第一号だ。
「今度いつ会えるかなぁ……」
自然とほかにも友達ができたらいいな…と思いながらの日々が過ぎた。
休みが重なったら、一緒に遊ぶつもりだ。それまで仕事。
仕事上でも友達ができたら、もっといいかも。でも、本当にそうなりたい人じゃないと嫌だ、なあなあで増やしたくない。
やり取りの様子を見ていた遠藤さん、微笑んでくれていた。見守ってくれている――そう思えた。
「次、いつ会える? バイトとか、外せないことはどれだけあるのか――」
と、仕事の合間に、電話であたしが聞くと、千秋が。
「夕方からならいつでも。あと土日はほとんどシフトを入れてないから――」
週末なら合わせやすそうだ。今からウキウキが止まらない。こうなってから初めての友達。
――近所の人とも友達になれればとは思うけど…きっかけ作り、難しそう…。
仕事仲間とも友好関係を築ければ――と思いながらの今日は、本土での撮影だった。
ふとした時、カメラマンさんが言った。
「次の撮影で誰を使うか考えたいから――」
ここはどうやら見せ所だ。まあいつもそうだけど。
トイレ休憩のあと、とある階段をのぼってスタッフの元へ行こうとする途中、上から土が降ってきた。
土汚れが衣装に付いてしまったけど、この程度ならどうという事はない。汚れはSTEOPで消えた。
ただ、どうしても思ってしまう。
――なんで土が降ってきた?
誰かに上から掛けられた、という可能性は確かに過ぎった。でも犯人捜しはしなかった。結局「自分」を出し切ることの方が先決。
集中してカメラの前に立った。
自分の仕事は順調だったけれど、別のとあるモデルは調子が悪そうだった。まあそんなこともある。魅力的に撮れた時に、
「今のよかったね!」
と、あたしが言うと、彼女は顔を歪ませた。
ある時、彼女があたしに向かって深くお辞儀をした。あまり周囲の目がない時だった。
「ごべんなさいっ!」
どうやら、彼女が、花壇の土を階段の下へと投げたらしい。
「もうやらないんなら、いいんじゃない?」
と、言っておいた……けど、それだけじゃ足りない気がして、あとから付け足した。
「あたしは大丈夫だから怒らないけど、人によっては怒るよね、普通にやっちゃダメではあるし。汚い手を使っちゃダメだよ」
「はい…! ごめんなさい……!」
あたしは、どうしてか、その子が苦手だった。けど、
「よしよし、あんなことはもう二度としないこと」
と、あたしが彼女のおでこをポンポンとすると、彼女は、目を輝かせてあたしを見た。
――あれ? 好かれた? 変な子に好かれちゃったかも…。
とはいえ、大事にならずに済んでよかった。好かれるのはいいことだし。嫌われるよりは――……って、当たり前だけど。
そんな人工島の新ヶ木島は意外と広大で、ここだけでもかなりの仕事がある。
川のせせらぎで癒されるようなスポットも沢山だ。そんな水音を聞きながら、ただただ待つ――こんな時間も好きだ。
今はもう撮影も終わっていて、バスの中で着替えも済ませていた。ちゃっかり好きな服は紙袋で頂いた。
横にはまだマネージャーの遠藤さんの姿が。
川沿いのカフェの野外テーブルに着き、紅茶を一口。
そんな時。
「あの…お、お、お待たせしましま…した」
男装を解いた女性がそう言って、恥ずかしそうにした。
「私に用って…なんなんですか?」
あたしは深く呼吸をして、気分を落ち着かせた。そしてゆったりと。
「この間はありがとう。今回も。助けてくれて」
「……そんな、当然のことをしただけで…」
長身の人が、そう言ってあたしを見下ろし、照れ顔を見せている。とても好印象で、こちらにまで笑みが伝染する。そんな彼女の顔が急に真剣な顔になると。
「あれから大丈夫でした?」
「ああ、まあ…とりあえずは。大丈夫」
思い出してしまったけれど。大丈夫。
「そっか…よかった…」
と、彼女が本心で言っているように、あたしには聞こえた。その心のこもり方が、好きだなと思えた。
あたしも本心からの言葉を届けたいと思った。丸ごと、気持ちそのものの言葉を。
「あたし、あなたと友達になりたい。ならせてください」
あたしがそう言って手を差し出すと。
「こ、こここ、こちらこそ喜んで!」
彼女も手を差し出してきた。ぎこちなく握手。彼女の手の方が大きかった。
思わず笑みがこぼれそうになる。と、彼女の方から「はぁんっ」という声が聞こえた気がした。
友達ができた。純粋にとても嬉しい。ルンルン気分になるほど。
連絡先を教え合って、名前を知った。
高赤千秋。あたしがこの姿になってからの――仕事仲間以外の知人――友達第一号だ。
「今度いつ会えるかなぁ……」
自然とほかにも友達ができたらいいな…と思いながらの日々が過ぎた。
休みが重なったら、一緒に遊ぶつもりだ。それまで仕事。
仕事上でも友達ができたら、もっといいかも。でも、本当にそうなりたい人じゃないと嫌だ、なあなあで増やしたくない。
やり取りの様子を見ていた遠藤さん、微笑んでくれていた。見守ってくれている――そう思えた。
「次、いつ会える? バイトとか、外せないことはどれだけあるのか――」
と、仕事の合間に、電話であたしが聞くと、千秋が。
「夕方からならいつでも。あと土日はほとんどシフトを入れてないから――」
週末なら合わせやすそうだ。今からウキウキが止まらない。こうなってから初めての友達。
――近所の人とも友達になれればとは思うけど…きっかけ作り、難しそう…。
仕事仲間とも友好関係を築ければ――と思いながらの今日は、本土での撮影だった。
ふとした時、カメラマンさんが言った。
「次の撮影で誰を使うか考えたいから――」
ここはどうやら見せ所だ。まあいつもそうだけど。
トイレ休憩のあと、とある階段をのぼってスタッフの元へ行こうとする途中、上から土が降ってきた。
土汚れが衣装に付いてしまったけど、この程度ならどうという事はない。汚れはSTEOPで消えた。
ただ、どうしても思ってしまう。
――なんで土が降ってきた?
誰かに上から掛けられた、という可能性は確かに過ぎった。でも犯人捜しはしなかった。結局「自分」を出し切ることの方が先決。
集中してカメラの前に立った。
自分の仕事は順調だったけれど、別のとあるモデルは調子が悪そうだった。まあそんなこともある。魅力的に撮れた時に、
「今のよかったね!」
と、あたしが言うと、彼女は顔を歪ませた。
ある時、彼女があたしに向かって深くお辞儀をした。あまり周囲の目がない時だった。
「ごべんなさいっ!」
どうやら、彼女が、花壇の土を階段の下へと投げたらしい。
「もうやらないんなら、いいんじゃない?」
と、言っておいた……けど、それだけじゃ足りない気がして、あとから付け足した。
「あたしは大丈夫だから怒らないけど、人によっては怒るよね、普通にやっちゃダメではあるし。汚い手を使っちゃダメだよ」
「はい…! ごめんなさい……!」
あたしは、どうしてか、その子が苦手だった。けど、
「よしよし、あんなことはもう二度としないこと」
と、あたしが彼女のおでこをポンポンとすると、彼女は、目を輝かせてあたしを見た。
――あれ? 好かれた? 変な子に好かれちゃったかも…。
とはいえ、大事にならずに済んでよかった。好かれるのはいいことだし。嫌われるよりは――……って、当たり前だけど。
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