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(月彦の視点) 初デートは撮影現場
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勇気を出して気持ちを伝えた。
正直怖かった。周りに魅力的な人は結構いたと思う。だから個性の強い僕が選ばれる保証なんてないと思えてしまっていて――。
もし違う想いだったら。これからやっていけるか不安になるところだった。
でもそうならずに済む。
今、胸の中が、欲しかったものでいっぱいだ。こんなに、こっそり笑いたくなるくらいに。期待感が満ちている。
「このことを話す……よね? いつ言う?」
と、ある夜、僕の部屋に来た呼夢が言った。
「そうよね。いつか……と言わず、すぐにでも! 言おう。いつかって言ってたらずるずるしちゃうし」
僕がそう言うと、目の前で、首が縦に動いた。
その夜の食事の時に言ってみた。すると。
「そんな気はしてた。いつになるかなって思ってたよ!」
と、花香さんが。
「清いお付き合いをするんだぞ」
と、時光さん。
――なんだかあっさりし過ぎだ。こんなんでいいのか?
と、思っている僕や、呼夢に向けて、時光さんが真剣な顔を見せた。
「清いお付き合いを……するんだぞ?」
それは念入りな命令のようなもの。
「は、はい!」
ただ、どうであれ。本当に清いお付き合いをするだけだ。それでいい。それがいい。少しずつ――というより、今に相応しい僕らの楽しみ方を、存分にする、それだけをする、行き過ぎない……それがまだそこまで責任能力のない僕らに許されること。それで十分僕は幸せ。
――きっと、僕は、呼夢のことなら幾らでも撮れる。
そして、初めてのデートと称して、互いに着てほしい衣装を着合った。呼夢に僕が指定したのは令嬢風。呼夢が僕に言ったのはストリート風。お互い嫌だと思わない程度に指定し合った。
そして僕が撮りたいという場所へとやってきた。
デパート。
とはいえ最終目的地は単にそこの店達ではない。
動きが円を描くエレベーターに乗った。
それはすなわち安定性の遥かに高い観覧車のようなもの。それで屋上のエリアへ到達し、出てから屋外へと自動ドアを抜けると……――
大空が広がっていた。そしてその下に花壇とベンチ、望遠鏡。
僕は屋上庭園になっているこの場所に来たかった。シャッターチャンスだ。
自動ドアからすぐの所には「ぶどうアイス」のお店がある。おごり合ったりもできそうだ。
割とデート場所になりがちなのか、そこにはなぜか、パッセとクール女子がいた。クール女子のことを呼夢が、
「ミトラちゃんじゃん」
と、僕のあとでバッタリ顔を合わせて、驚いていた。
彼女に苗字を聞いた。呼夢のことを特別に名前で呼んでいる感が欲しかったから。
「沢木だよ」
「じゃあ沢木さん」
「うん」
「パッセと付き合ってんの?」
「うん」
衝撃の事実だった。
お互い、少しだけ話し相手を変えることになった。
「ちょっといい?」
なんて言って、呼夢が沢木さんと少し離れて。
嫌だとは思わない。むしろ、今の自分達のことを話してくれるんだろうと思った。
そしてその話し声は、離れていても聞こえてきた。
沢木さんが呼夢に言っている。
「どうなるかと思ったよ、早く言い合えよって思ってたし」
「ホント~?」
「あれは絶対気がある顔だったから」
「ホント~? 分かる~?」
「あれは分かる。分からないのは、恋に戸惑う当人同士くらいかなぁ?」
「あ、なるほど、そういう……」
沢木さんはにやにやで、呼夢は納得の顔という感じ。
かくいうこっちは。
「田畑山さんルートが開いてたよ」
「マジ?」
「いや、そっちに行けそうだったってだけ」
「ちょっと……変なこと言わないでよ。行かないよ?」
「分かってるって」
「あ、じゃあさ、その……田畑山さんにさ、何かこう、気を持たせてしまってる……とか、ない?」
「あー……ないと思うよ、文化祭の時に接点があったらしいじゃんってだけだし」
「そっか……まあ……その程度なら」
「うーん…。見せびらかす?」
「ええ? でも……積極的にそうするしかないのかなぁ……」
「かもね」
「そっか……」
そうこうしていると、空中に、はばたく鳩の群れの動画が映し出されて――
「現在、十五時です、十五時をお知らせします」
3Dで数字も光り、その一部に鳩が乗った。
「じゃあ俺、もう行くから。ミトラ」
「あ、うん、じゃあね」
それから、僕がある程度撮影したあと、ふたりでアイスを食べながら、ベンチで風を感じた。
いつもとは違う距離。肩が触れ合う。手が触れ合う。今、重ねたら、重ね返された。
「ふふ」と笑う呼夢に、僕も負けじと、重ね返してほほ笑んだ。
その夜、腕時計が鳴った。ワンスイッチでフォンボード化させ、画面を見た。「父」の文字がそこに。
すぐに通話を始めた。
「もしもし」
「おー、月か」
「うん」
「なんね、聞いたぞ、付き合い始めたっちゃろ?」
「うん、そう、真摯な付き合いだよ」
「変なことすんじゃなかぞ」
「こっちがされるかもしれん。ってか清い付き合いよ」
「分かっとるったい、嫌でも言わんといかんやろ」
「お母さんは?」
「今? 寝とる」
「ん、じゃぁいいや、おやすみ」
「おう、またな」
にぎやかな声がバックに聞こえた。大麦ジュースでも飲んで親戚か誰かが数人で大笑いしていたんじゃないかというような声が。
通話を終えると、フォンを腕時計に戻してそこら辺に置いた。
そしてカメラのデータに目を向けた。
あの昼空――を背景に、いい花が撮れた。水滴すら弾く元気で立派な花。その一群。それをじっと見やる。……きっと呼夢と一緒だから撮れた。撮る気になれた。いい気持ちで撮れた。
僕はそれを、印刷ボタンを押して写真にした。それを、あらかじめ切手を貼っておいた封筒に入れ、重要事項を書いた紙も入れ、封をすると、家を出た。
そして近くのポストに投入した。
清々しい気持ちになっていた。その気分のまま振り向くと、そこに呼夢の姿が。
「びっくりした! ホントにびっくりした!」
「何してたの。夜だよ」
「今日のデート中の写真が凄くよかったから……それを賞に出したんだよ」
「え、そうなんだ。取れるといいねっ」
「……うんっ」
ふたりで手をつないで、うちへと帰った。
正直怖かった。周りに魅力的な人は結構いたと思う。だから個性の強い僕が選ばれる保証なんてないと思えてしまっていて――。
もし違う想いだったら。これからやっていけるか不安になるところだった。
でもそうならずに済む。
今、胸の中が、欲しかったものでいっぱいだ。こんなに、こっそり笑いたくなるくらいに。期待感が満ちている。
「このことを話す……よね? いつ言う?」
と、ある夜、僕の部屋に来た呼夢が言った。
「そうよね。いつか……と言わず、すぐにでも! 言おう。いつかって言ってたらずるずるしちゃうし」
僕がそう言うと、目の前で、首が縦に動いた。
その夜の食事の時に言ってみた。すると。
「そんな気はしてた。いつになるかなって思ってたよ!」
と、花香さんが。
「清いお付き合いをするんだぞ」
と、時光さん。
――なんだかあっさりし過ぎだ。こんなんでいいのか?
と、思っている僕や、呼夢に向けて、時光さんが真剣な顔を見せた。
「清いお付き合いを……するんだぞ?」
それは念入りな命令のようなもの。
「は、はい!」
ただ、どうであれ。本当に清いお付き合いをするだけだ。それでいい。それがいい。少しずつ――というより、今に相応しい僕らの楽しみ方を、存分にする、それだけをする、行き過ぎない……それがまだそこまで責任能力のない僕らに許されること。それで十分僕は幸せ。
――きっと、僕は、呼夢のことなら幾らでも撮れる。
そして、初めてのデートと称して、互いに着てほしい衣装を着合った。呼夢に僕が指定したのは令嬢風。呼夢が僕に言ったのはストリート風。お互い嫌だと思わない程度に指定し合った。
そして僕が撮りたいという場所へとやってきた。
デパート。
とはいえ最終目的地は単にそこの店達ではない。
動きが円を描くエレベーターに乗った。
それはすなわち安定性の遥かに高い観覧車のようなもの。それで屋上のエリアへ到達し、出てから屋外へと自動ドアを抜けると……――
大空が広がっていた。そしてその下に花壇とベンチ、望遠鏡。
僕は屋上庭園になっているこの場所に来たかった。シャッターチャンスだ。
自動ドアからすぐの所には「ぶどうアイス」のお店がある。おごり合ったりもできそうだ。
割とデート場所になりがちなのか、そこにはなぜか、パッセとクール女子がいた。クール女子のことを呼夢が、
「ミトラちゃんじゃん」
と、僕のあとでバッタリ顔を合わせて、驚いていた。
彼女に苗字を聞いた。呼夢のことを特別に名前で呼んでいる感が欲しかったから。
「沢木だよ」
「じゃあ沢木さん」
「うん」
「パッセと付き合ってんの?」
「うん」
衝撃の事実だった。
お互い、少しだけ話し相手を変えることになった。
「ちょっといい?」
なんて言って、呼夢が沢木さんと少し離れて。
嫌だとは思わない。むしろ、今の自分達のことを話してくれるんだろうと思った。
そしてその話し声は、離れていても聞こえてきた。
沢木さんが呼夢に言っている。
「どうなるかと思ったよ、早く言い合えよって思ってたし」
「ホント~?」
「あれは絶対気がある顔だったから」
「ホント~? 分かる~?」
「あれは分かる。分からないのは、恋に戸惑う当人同士くらいかなぁ?」
「あ、なるほど、そういう……」
沢木さんはにやにやで、呼夢は納得の顔という感じ。
かくいうこっちは。
「田畑山さんルートが開いてたよ」
「マジ?」
「いや、そっちに行けそうだったってだけ」
「ちょっと……変なこと言わないでよ。行かないよ?」
「分かってるって」
「あ、じゃあさ、その……田畑山さんにさ、何かこう、気を持たせてしまってる……とか、ない?」
「あー……ないと思うよ、文化祭の時に接点があったらしいじゃんってだけだし」
「そっか……まあ……その程度なら」
「うーん…。見せびらかす?」
「ええ? でも……積極的にそうするしかないのかなぁ……」
「かもね」
「そっか……」
そうこうしていると、空中に、はばたく鳩の群れの動画が映し出されて――
「現在、十五時です、十五時をお知らせします」
3Dで数字も光り、その一部に鳩が乗った。
「じゃあ俺、もう行くから。ミトラ」
「あ、うん、じゃあね」
それから、僕がある程度撮影したあと、ふたりでアイスを食べながら、ベンチで風を感じた。
いつもとは違う距離。肩が触れ合う。手が触れ合う。今、重ねたら、重ね返された。
「ふふ」と笑う呼夢に、僕も負けじと、重ね返してほほ笑んだ。
その夜、腕時計が鳴った。ワンスイッチでフォンボード化させ、画面を見た。「父」の文字がそこに。
すぐに通話を始めた。
「もしもし」
「おー、月か」
「うん」
「なんね、聞いたぞ、付き合い始めたっちゃろ?」
「うん、そう、真摯な付き合いだよ」
「変なことすんじゃなかぞ」
「こっちがされるかもしれん。ってか清い付き合いよ」
「分かっとるったい、嫌でも言わんといかんやろ」
「お母さんは?」
「今? 寝とる」
「ん、じゃぁいいや、おやすみ」
「おう、またな」
にぎやかな声がバックに聞こえた。大麦ジュースでも飲んで親戚か誰かが数人で大笑いしていたんじゃないかというような声が。
通話を終えると、フォンを腕時計に戻してそこら辺に置いた。
そしてカメラのデータに目を向けた。
あの昼空――を背景に、いい花が撮れた。水滴すら弾く元気で立派な花。その一群。それをじっと見やる。……きっと呼夢と一緒だから撮れた。撮る気になれた。いい気持ちで撮れた。
僕はそれを、印刷ボタンを押して写真にした。それを、あらかじめ切手を貼っておいた封筒に入れ、重要事項を書いた紙も入れ、封をすると、家を出た。
そして近くのポストに投入した。
清々しい気持ちになっていた。その気分のまま振り向くと、そこに呼夢の姿が。
「びっくりした! ホントにびっくりした!」
「何してたの。夜だよ」
「今日のデート中の写真が凄くよかったから……それを賞に出したんだよ」
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