STEOP 気になる異装のはとこさん

弧川ふき

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(月彦の視点) 新高丘夏祭り3

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 いちごもちを呼夢こゆめが食べて少し咳き込んだ。その公園にまだふたりでいて――新高丘にいたかおか夏祭りの夜空――に、アナウンスが響き渡った。
 それによると……もうすぐ花火が上がるらしい。
 それならと、僕は思い付いた。
「さっきのスポットに戻ろうよ、あそこからなら綺麗に花火が見えそうだし」
 ほかに理由になりそうなものはないかな、と思っていると。
「い、いいよ」
 ――なんか、身構えられてる?
 話しながら向かう。
「もう写真はいいの?」
「うん、ここはね。それに、花火のシャッターチャンスだしね」
「そっか」
「あ、そうだ」
 と、僕が気付いたら、呼夢こゆめが、「ホントだ」と、輪投げ店の前へと近付いた。僕もついでに。
 そこにはカエデねえもいた。
 僕は誘ってみた。
「ねぇ、爽、カエデ姉、向こうにいい場所があるから、そこから花火、見ない?」
「花火、もうすぐなの? いやアナウンスは聞いたけど」
 すると呼夢こゆめも。
「だいたい少しは早めに呼びかけてるけど、移動にも時間掛かるし……少しゆっくりしてもいいし……」
「……そうね……。爽、アンタも来なさい」
「え、何? どこに?」
 多分、爽は、よそ見をしていて話を聴いていない。
「花火を見によ」
「だからどこに!」
「……どこ?」
 カエデ姉がくるりと振り返った。
 ここにいる四人に聞こえるように、僕は、意識して少し大きく「こっち」と言って率先した。
 行く途中に兄がいた。くじ引きをしていた。
「お前らも引いたか? まだなら引いとけよ!」
 そんな時間の余裕ならまだありそうなことを呼夢こゆめも言っていた。
 引いてみた。53番。コップが当たった。NIIGAKIJIMA-NIITAKAOKAの字とカキ氷の擬人化絵が刻まれた白いガラスのコップだ。涼しげで、思い出にはなりそうだ。
 呼夢こゆめはスーパーボールが当たった。
「何これ」
 問う呼夢こゆめに僕が。
「なんか、よくはねる古いボールらしい」
「へぇ~」
 本人は理解したような顔を見せると、腕を振り上げた。
 すると国彦くにひこにいが。
「ここで投げちゃダメ!」
「あ……あわわっ……投げるとこだった……!」
 そう言ってガクガクする呼夢こゆめには僕が声を。
「そこまで後悔しなくてもいいと思う」
「そ……そうなの?」
「多分……」
 そうとカエデねえは既に一度引いているらしく、落ち着いてすぐあの坂を少し上がり、脇の階段を上がり始めた。
「階段、急~っ」
 爽が言った。確かにこれを急がせるのもなと思った、それならSTEOPスティープ能力の出番。爽の手を引き、発動すると、階段の角が空を向いたみたいに歩きやすくなった。
「あ、俺も」
「私も」カエデ姉も手をつないだ。
「うぉ~おもしろ~い!」爽が元気に。
「ねっ」呼夢こゆめも笑顔だ。
 みんなで白石の鳥居の前まで。そして解除。
 その時だ。
「では、花火の点火まで、十、九、八……」
 と、カウントダウンが聞こえて――よく見える崖近く、手すりの前へと急いだ。
 空の黒さに、赤や黄色、水色や緑、白の花火が幾つも映える。
「あれ? アレ見たことある!」
 コスプレした呼夢こゆめの赤フードのやつにそっくりだった、名前は忘れたけど。
 僕はとにかく写真を撮った。
 それだけでは物足りなくなって、手擦りの平らな上面に、くじ引きで当たったすりガラスっぽいコップを置いた。
 コップと花火と屋台のある街並みがすべて入るように、何度か撮った。
「これも入れちゃえ」
 と、呼夢こゆめが、白いすりガラスっぽいそのコップにそっとスーパーボールを入れた。
 するとそうが、
「これも!」
 と、僕に、腕輪みたいにしていたサイリウムを差し出してきた。
 サイリウムを置き、その輪の中央にボールの入ったコップを置いて、連写した。
 花火は、細かいものがまたたく時もあれば、大きくひとつが咲く時もあった。それらをただただ撮る。
 みんなはその様を見たかもしれないけど、別に僕に話し掛けない。僕がそういう何かを求めているワケじゃないことをみんなはよく知っている。話し掛けるなら撮り終わってからだ、協力した形になったから気になりはしてもおかしくはない。
 おのおの花火を見た。
 花火が上がらなくなってから、
「綺麗な花火でしたね」
 などというアナウンスが聞こえ始めると、
「じゃ、そろそろ戻ろうか」
 と、カエデねえが言った。
「アンタが楽しめているようで、よかった」
 歩き出した時、カエデねえがそう言った。
 そうしたら、国彦にいも。
「元気がなかったらどうしようかって話してたからな」
つきにぃ」そうも。「何かあってもボクらがおるけんね!」
「……そうやね」
 サイリウムの輪を爽に返しながら、僕は言葉を付け加えた。
「ありがとね、爽」
「うん、当然! 兄想いの、いいオトートでしょ」
 爽がニッと笑った。
 だから、僕も、
「自慢の弟やね」
 と、笑って頭を撫でた。自分と同じような栗毛っぽい髪が、くしゃくしゃとなる。
「お兄ちゃんもありがとう、お姉ちゃんも」
「ああ」
「ふふ……じゃ、帰りましょ」
 立ち止まっていた。
 コップの中のスーパーボールを、呼夢こゆめに返してから歩き出した。
 その帰路は、黒い闇を、人の明るさと灯りが照らす道。この道でさえ、作った人がいなければ、ここにない道だった。まぁそもそも人工島だけど。とにかく誰かの、何かの、いつかのための誰かでありたいと、少しだけ思った。

 帰ってすぐ、雅川ががわ家の僕以外はホテルへと帰った。
 そして、呼夢こゆめの部屋からは、ドドドドドという音と、「ひゃあああ~!」という悲鳴が聞こえた。
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