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(呼夢の視点) 雅川家からのお知らせと植物園
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ある日、月彦くんが、キッチンでよく冷えたお茶をコップに注ぎながら、ぼそっとつぶやいた。
「次は…そうだ、植物園」
これは、私が案内するチャンスだ。
「ねぇ、植物園も一緒に行こうよ。案内するよ…」
部屋から出てすぐの私に、月彦くんが視線をくれた。
「ん。それなら、事前に園の人に伝えないとね」
「許可が要るんだっけ」
「うん。調べたら、本当にそうだった」
月彦くんが行きたいという日の撮影許可が下りてから、その日程に合わせて私がスケジュールを空けた。その日が待ち遠しい。
今日の夜、月彦くんの部屋から話し声がして――
「電話してたよね? 誰?」
と私が聞くと。
「うちの……雅川家の面々」
「仲いいんだ」
「そうなのかな…そうでもないかもよ。ギャーギャー言う時もあるから」
「ふぅん…? あ、ねえ、結構そうやって話すの?」
「ん…? いや最近は減ったんだよね。最初の方が……来てすぐの方がよく話してたよ」
「そうなんだ」
「心配で掛けてくるんだろうね」
「自分からっていうのはないの?」
「そんなにしないよ」
「ふうん」
「なんか、今度こっちに来るってさ」
「え、ちょっ、ちょっとドキドキしちゃうな!」
今はまだ気持ちをバレたくはない。隠そう。うん。そうしよう。
――……それまでに恋人同士になれたら……え、なってたら逆によく思われなかったりして? どうしよう。やっぱり、なれても、隠そう。
そして植物園へ行く日がすぐにやって来た。
「どういう格好で行くの?」
と、朝のリビングで私が聞くと。
「長ズボンと涼しそうなシャツ。道に草はないだろうけど、植物園だから念のため…何かあってもいいように…足を守ろうと思って」
「そっか、私も似たようなものにしよっと」
部屋に戻ってロングジーンズパンツと白いシャツを着てリビングに戻ると、そこに月彦くんの姿が。
私より濃い色のジーンズのロングパンツと首がゆったりとした白いシャツ。シャツまでお揃いみたいで内心かなり嬉しい――というのは言わないし顔に出さないけど。
「じゃ、行こう」
「うん」という私の返事を合図に、玄関に向かった。
靴で違いを出した。私はレモン色、月彦くんは紫基調。
家を出てすぐのバス停から直通で行ける。揺らされる中でたまに外を見ながら雑談。
今日の服装を気にしていたことから、ふと聞きたくなった。
「ねぇ、体操服を着替える時っていつもどうしてるの?」
月彦くんは「あ~……」と、少しだけ言いにくそうにした。
「前を見せないようにしてるよ。実は家族とか洲中家のみんなにも見せたくないなって思ってる」
「そうだったんだ。……ねえ、パ、パンツって、どのタイプ?」
――な、なんか私、変態みたいじゃない?
「ボクサーパンツだよ」
――普通に答えてくれて嬉しいけど、何でも素直に教え過ぎじゃない? 聞いてる私が言えることじゃないけど、心配…。
「答えたくないことは答えなくていいからね、月彦くん」
「うん、大丈夫」
ふと思った。
「ね、男子と一緒にいるのが辛い時とか、もしかしてあったりしない?」
「ん~……実は、少し」
「え…。何かあったら言ってね!」
「うん」
そんなこんなで着いた。
まずは入口で手続きが確認されて、月彦くんは今日だけ有効なカードを持たされた。
園内に入ると、撮りたいスポットがいっぱいあるのか、ウキウキで撮っている――そんな月彦くんと目が合ってしまえと願う気持ちと、目が合ったら気持ちに気付かれそうだからやっぱり合わないでという気持ちとが、私の中に生まれている。
――楽しそう。輝いてる……。真剣な顔もイイなぁ…。喜んでる……。ああ! 好き…!
ガラスハウス、石の柱、私の知らない植物の花や葉、それらを撮る月彦くん。私の好きなものばかり。よく知らなくても綺麗なものは綺麗だし。――ああ、だから知りたくなるんだな。
昼は園内のカフェで。
月彦くんは、全体を撮ることもあれば、花ひとつを撮ることも。単体の方がどちらかというと多い気がする。種類数のせいかな。
真剣な月彦くんをずっと見られる。こんな場所は好きかも。
花畑も大樹も、葉のアーチも、すべてが切り写されていく。ゆっくりゆっくり撮り進んでいく。私はそれでいい。そのあいだに案内板を読んだり、月彦くんを見ていれば、全然苦じゃない。
途中、ナンパが声を掛けてくることも。
「いいじゃん、女の子だけなんだし」
と、私達のことを言われたけど。
「彼は男です」
月彦くんという名前すら知られたくない。
こちらをカップルだと思ったのか、ナンパ「達」は去っていった。
それからも撮影。
月彦くんは私「達」がナンパされたこと多分知らない。でもいい。集中させてあげたいから。
夕暮れ時になると、表情の変わった植物達が撮れるようで、今度は奥から逆に撮り始めた。
帰る時間を考慮したのか、これにはあまり時間を掛けなかった。
ふと、月彦くんが。
「このノリウツギっていうのは、近所でも咲いてるヤツだよ、多分」
「へぁ~これが? 近所のどこ?」
「坂を下りてく途中の左の公演の、入って裏手にあたる所」
「ふえ~、今度見に行こう」
「ふふ」
「え? 何?」
ドキッとした。月彦くんのそんな顔、ずっと見ていたいくらいだし。と思っている私に、声が届く。
「結構、興味あるんだね、こういうの…観るっていうことに。服とか作って、観させる側だけかと思ってた」
「観るのも…好きだよ。今も。楽しい」
「っふ。そっか」
月彦くんが控え目に笑った。
その顔が、やけに赤い夕陽に照らされて、私は、心を切り撮られた気がした。
なんて綺麗に夕陽に映えるんだろう。
月彦くんの髪は赤い。赤い陽を受けて本当に普段の色なんか消えたみたいに。
どうしてか、目と全身が熱くなった。
言えばこの関係はなくなってしまうんだろうか。
「じゃ、帰ろっか」
と月彦くんが言った。
「……うん」
「今日は付き合わせてごめんね」
「ううん、私も楽しんだから」
私はこの気持ちを、まだ伝えない、と決めた。
「次は…そうだ、植物園」
これは、私が案内するチャンスだ。
「ねぇ、植物園も一緒に行こうよ。案内するよ…」
部屋から出てすぐの私に、月彦くんが視線をくれた。
「ん。それなら、事前に園の人に伝えないとね」
「許可が要るんだっけ」
「うん。調べたら、本当にそうだった」
月彦くんが行きたいという日の撮影許可が下りてから、その日程に合わせて私がスケジュールを空けた。その日が待ち遠しい。
今日の夜、月彦くんの部屋から話し声がして――
「電話してたよね? 誰?」
と私が聞くと。
「うちの……雅川家の面々」
「仲いいんだ」
「そうなのかな…そうでもないかもよ。ギャーギャー言う時もあるから」
「ふぅん…? あ、ねえ、結構そうやって話すの?」
「ん…? いや最近は減ったんだよね。最初の方が……来てすぐの方がよく話してたよ」
「そうなんだ」
「心配で掛けてくるんだろうね」
「自分からっていうのはないの?」
「そんなにしないよ」
「ふうん」
「なんか、今度こっちに来るってさ」
「え、ちょっ、ちょっとドキドキしちゃうな!」
今はまだ気持ちをバレたくはない。隠そう。うん。そうしよう。
――……それまでに恋人同士になれたら……え、なってたら逆によく思われなかったりして? どうしよう。やっぱり、なれても、隠そう。
そして植物園へ行く日がすぐにやって来た。
「どういう格好で行くの?」
と、朝のリビングで私が聞くと。
「長ズボンと涼しそうなシャツ。道に草はないだろうけど、植物園だから念のため…何かあってもいいように…足を守ろうと思って」
「そっか、私も似たようなものにしよっと」
部屋に戻ってロングジーンズパンツと白いシャツを着てリビングに戻ると、そこに月彦くんの姿が。
私より濃い色のジーンズのロングパンツと首がゆったりとした白いシャツ。シャツまでお揃いみたいで内心かなり嬉しい――というのは言わないし顔に出さないけど。
「じゃ、行こう」
「うん」という私の返事を合図に、玄関に向かった。
靴で違いを出した。私はレモン色、月彦くんは紫基調。
家を出てすぐのバス停から直通で行ける。揺らされる中でたまに外を見ながら雑談。
今日の服装を気にしていたことから、ふと聞きたくなった。
「ねぇ、体操服を着替える時っていつもどうしてるの?」
月彦くんは「あ~……」と、少しだけ言いにくそうにした。
「前を見せないようにしてるよ。実は家族とか洲中家のみんなにも見せたくないなって思ってる」
「そうだったんだ。……ねえ、パ、パンツって、どのタイプ?」
――な、なんか私、変態みたいじゃない?
「ボクサーパンツだよ」
――普通に答えてくれて嬉しいけど、何でも素直に教え過ぎじゃない? 聞いてる私が言えることじゃないけど、心配…。
「答えたくないことは答えなくていいからね、月彦くん」
「うん、大丈夫」
ふと思った。
「ね、男子と一緒にいるのが辛い時とか、もしかしてあったりしない?」
「ん~……実は、少し」
「え…。何かあったら言ってね!」
「うん」
そんなこんなで着いた。
まずは入口で手続きが確認されて、月彦くんは今日だけ有効なカードを持たされた。
園内に入ると、撮りたいスポットがいっぱいあるのか、ウキウキで撮っている――そんな月彦くんと目が合ってしまえと願う気持ちと、目が合ったら気持ちに気付かれそうだからやっぱり合わないでという気持ちとが、私の中に生まれている。
――楽しそう。輝いてる……。真剣な顔もイイなぁ…。喜んでる……。ああ! 好き…!
ガラスハウス、石の柱、私の知らない植物の花や葉、それらを撮る月彦くん。私の好きなものばかり。よく知らなくても綺麗なものは綺麗だし。――ああ、だから知りたくなるんだな。
昼は園内のカフェで。
月彦くんは、全体を撮ることもあれば、花ひとつを撮ることも。単体の方がどちらかというと多い気がする。種類数のせいかな。
真剣な月彦くんをずっと見られる。こんな場所は好きかも。
花畑も大樹も、葉のアーチも、すべてが切り写されていく。ゆっくりゆっくり撮り進んでいく。私はそれでいい。そのあいだに案内板を読んだり、月彦くんを見ていれば、全然苦じゃない。
途中、ナンパが声を掛けてくることも。
「いいじゃん、女の子だけなんだし」
と、私達のことを言われたけど。
「彼は男です」
月彦くんという名前すら知られたくない。
こちらをカップルだと思ったのか、ナンパ「達」は去っていった。
それからも撮影。
月彦くんは私「達」がナンパされたこと多分知らない。でもいい。集中させてあげたいから。
夕暮れ時になると、表情の変わった植物達が撮れるようで、今度は奥から逆に撮り始めた。
帰る時間を考慮したのか、これにはあまり時間を掛けなかった。
ふと、月彦くんが。
「このノリウツギっていうのは、近所でも咲いてるヤツだよ、多分」
「へぁ~これが? 近所のどこ?」
「坂を下りてく途中の左の公演の、入って裏手にあたる所」
「ふえ~、今度見に行こう」
「ふふ」
「え? 何?」
ドキッとした。月彦くんのそんな顔、ずっと見ていたいくらいだし。と思っている私に、声が届く。
「結構、興味あるんだね、こういうの…観るっていうことに。服とか作って、観させる側だけかと思ってた」
「観るのも…好きだよ。今も。楽しい」
「っふ。そっか」
月彦くんが控え目に笑った。
その顔が、やけに赤い夕陽に照らされて、私は、心を切り撮られた気がした。
なんて綺麗に夕陽に映えるんだろう。
月彦くんの髪は赤い。赤い陽を受けて本当に普段の色なんか消えたみたいに。
どうしてか、目と全身が熱くなった。
言えばこの関係はなくなってしまうんだろうか。
「じゃ、帰ろっか」
と月彦くんが言った。
「……うん」
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私はこの気持ちを、まだ伝えない、と決めた。
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