10 / 42
(呼夢の視点) 中庭にて。真剣な写真だからこそ。2
しおりを挟む
学校の中庭で、カメラの写真を見たいと言った私に、月彦くんは頑なに見せない。
逆に質問された。
考えてみた。
正直、自分が作った衣装が「うーん、まだまだかなぁ」なんて感じだったら、少し恥ずかしいかもしれない。でも、作ったからには、どうにかしなきゃ、もったいない気がする。
「失敗作を見せれるかっていう話なら、確かに見せたくはない」
「でしょ」
「でも、中々によくできたものなら…見せたいよ。いや、そりゃ、その……見たい人にだけ……本当に好きで見たい人になら、とは思うという意味で」
――それに、見たくない人に見せてもね……。
月彦くんはもうカメラを守るような姿勢ではなくて。彼が言う。
「でしょ、変な広まり方はしてほしくないんだよね、僕も。ね、本当に見たい? 僕は真剣に撮ってるつもりだけど、そういう意味で本当に見たいの?」
「ん~~……うん! そういう日常の風景のよさとかをさ、しっかり撮れるのって、凄いじゃん! だから、それってどんなのなんだろうって、楽しみたくて、本当に見たいよ?」
「そ……そっか……」
――あ、月彦くん、照れてる。可愛い。
「じゃあ……さっきのは、コレ」
月彦くんがカメラの画面を見せてくれた。
花壇の花に顔を近付けた猫が画面中央に少し大きめに……控えめに写っている。
「うぉお……! いい。いいよコレ! 好きだよ、めちゃくちゃいい写真!」
「え……っ…そ、そうかなぁ……そっか……」
――あ、月彦くん嬉しそう。可愛い。
カメラを操作して撮るモードに変えてオフにしたらしい。月彦くんはそうして耳に長い髪を掛けてからサブバッグから革のケースを取り出し、それにカメラを入れ、サブバッグの中へと納めた。
「月彦くん、可愛過ぎない?」
「は?」
「耳に髪を掛けた仕草」
「あ、そう」
なんだか恥ずかしそうなのと、面倒そうなのが半々あるみたいな、そんな感じの顔を月彦くんはしてる。少し…意外な反応。
「ね、そんなんじゃ男もカン違いするだろうし、女もカン違いしちゃうよ?」
「どう勘違いするってんだよ。というか、勝手に勘違いとやらをするのが悪い。それで何か言われたって迷惑だ」
「……可愛いって言われたいワケじゃ…ないの?」
「褒められてるのは……別に、イイコトだよ」
「ねぇ、どうしてそんなカッコしてるか、聞いてもいい?」
――急に聞いた感が出ちゃったけど、いいよね。
「言わなかったっけ。そっか。これが僕。それだけ」
「え。……え? それだけ?」
「それだけじゃ駄目? 髪が長い。うん。僕は僕のスタイルでいるだけ」
「それってつまり、えっと、好きで……自分の好みでそういう……普段着とかもそんな感じで、自分のためだけで、他人は関係ないの?」
「ないね。というか他人が関係するってなんだよ。普段から何か他人のためを想って~って格好する? 自分が心からしたい格好をするって大事だろ。なんでそこで他人メインなんだ? まず自分だろ」
「そっか、そうだよね、じゃぁ、なんだ、その……可愛さを見せつけてやろうだとか、誰かをだましてやろうだとか、思ったワケじゃないんだね」
「……いやいや、それ、本当に思ってたとしたら、相当酷いよ。酷いこと言ってるからね。酷いといえば、このあいだ尾行男もいたけどさ」
「え……? 尾行男?」
「付け狙われたんだよ。マンションを特定されそうで、横に逸れて思いっ切り蹴ってやったけどな。こっちはお前らのためにこんな格好をしてるワケじゃない。でもそりゃあさ、女に見えりゃ、そりゃ、それらしい事は起こるだろうな、それはいいよ、しょうがないからね、でも、自分が悪い癖に言い訳して、女だと思って怖がらせるような付け狙い方をした癖に僕を悪く言ったあのクソストーカーは許せないし、……とにかく、どいつもこいつもと思うことはあるよ。僕は僕でいるだけ。ああ……でも、さっき何て言ったっけ…。ええっと……そうだ、誰かのために何かの格好をすることはあるかっていう……それを言おうとしたんだけど…相手を想っての自分納得の上での他人メインの服装は、アリだよね」
そこまで頑張って言葉を連ねた月彦くんは、なんだか、震えているように見えた。今も、息を整えながら思い出してるみたいに見える…。
――このあいだ付け狙われて、それで…? 怖かったのかな……。
「月彦くんは誰かのためじゃなく」
「そう。まあ、自分自身のためではあるかな、しっくり来るからね、似合うっしょ」
月彦くんは笑った。
でも、なぜか心からの笑顔には見えなかった。
「うん。似合う似合う」
とりあえずは、そう返事。だって本心だから。
月彦くんは続けて話した。
「自分の髪が長いと自分だっていう感じがしてやる気が出るんだよ。自分でも長い方が似合うと思ってるしね、長い方が、だよ」
「うん、分かるよ。……ふうん、そうなんだね、自分感、大事だね」
「…うん」
なんでそんな格好をしているの? だなんて、無粋だったな――と私は思い直した。
逆に質問された。
考えてみた。
正直、自分が作った衣装が「うーん、まだまだかなぁ」なんて感じだったら、少し恥ずかしいかもしれない。でも、作ったからには、どうにかしなきゃ、もったいない気がする。
「失敗作を見せれるかっていう話なら、確かに見せたくはない」
「でしょ」
「でも、中々によくできたものなら…見せたいよ。いや、そりゃ、その……見たい人にだけ……本当に好きで見たい人になら、とは思うという意味で」
――それに、見たくない人に見せてもね……。
月彦くんはもうカメラを守るような姿勢ではなくて。彼が言う。
「でしょ、変な広まり方はしてほしくないんだよね、僕も。ね、本当に見たい? 僕は真剣に撮ってるつもりだけど、そういう意味で本当に見たいの?」
「ん~~……うん! そういう日常の風景のよさとかをさ、しっかり撮れるのって、凄いじゃん! だから、それってどんなのなんだろうって、楽しみたくて、本当に見たいよ?」
「そ……そっか……」
――あ、月彦くん、照れてる。可愛い。
「じゃあ……さっきのは、コレ」
月彦くんがカメラの画面を見せてくれた。
花壇の花に顔を近付けた猫が画面中央に少し大きめに……控えめに写っている。
「うぉお……! いい。いいよコレ! 好きだよ、めちゃくちゃいい写真!」
「え……っ…そ、そうかなぁ……そっか……」
――あ、月彦くん嬉しそう。可愛い。
カメラを操作して撮るモードに変えてオフにしたらしい。月彦くんはそうして耳に長い髪を掛けてからサブバッグから革のケースを取り出し、それにカメラを入れ、サブバッグの中へと納めた。
「月彦くん、可愛過ぎない?」
「は?」
「耳に髪を掛けた仕草」
「あ、そう」
なんだか恥ずかしそうなのと、面倒そうなのが半々あるみたいな、そんな感じの顔を月彦くんはしてる。少し…意外な反応。
「ね、そんなんじゃ男もカン違いするだろうし、女もカン違いしちゃうよ?」
「どう勘違いするってんだよ。というか、勝手に勘違いとやらをするのが悪い。それで何か言われたって迷惑だ」
「……可愛いって言われたいワケじゃ…ないの?」
「褒められてるのは……別に、イイコトだよ」
「ねぇ、どうしてそんなカッコしてるか、聞いてもいい?」
――急に聞いた感が出ちゃったけど、いいよね。
「言わなかったっけ。そっか。これが僕。それだけ」
「え。……え? それだけ?」
「それだけじゃ駄目? 髪が長い。うん。僕は僕のスタイルでいるだけ」
「それってつまり、えっと、好きで……自分の好みでそういう……普段着とかもそんな感じで、自分のためだけで、他人は関係ないの?」
「ないね。というか他人が関係するってなんだよ。普段から何か他人のためを想って~って格好する? 自分が心からしたい格好をするって大事だろ。なんでそこで他人メインなんだ? まず自分だろ」
「そっか、そうだよね、じゃぁ、なんだ、その……可愛さを見せつけてやろうだとか、誰かをだましてやろうだとか、思ったワケじゃないんだね」
「……いやいや、それ、本当に思ってたとしたら、相当酷いよ。酷いこと言ってるからね。酷いといえば、このあいだ尾行男もいたけどさ」
「え……? 尾行男?」
「付け狙われたんだよ。マンションを特定されそうで、横に逸れて思いっ切り蹴ってやったけどな。こっちはお前らのためにこんな格好をしてるワケじゃない。でもそりゃあさ、女に見えりゃ、そりゃ、それらしい事は起こるだろうな、それはいいよ、しょうがないからね、でも、自分が悪い癖に言い訳して、女だと思って怖がらせるような付け狙い方をした癖に僕を悪く言ったあのクソストーカーは許せないし、……とにかく、どいつもこいつもと思うことはあるよ。僕は僕でいるだけ。ああ……でも、さっき何て言ったっけ…。ええっと……そうだ、誰かのために何かの格好をすることはあるかっていう……それを言おうとしたんだけど…相手を想っての自分納得の上での他人メインの服装は、アリだよね」
そこまで頑張って言葉を連ねた月彦くんは、なんだか、震えているように見えた。今も、息を整えながら思い出してるみたいに見える…。
――このあいだ付け狙われて、それで…? 怖かったのかな……。
「月彦くんは誰かのためじゃなく」
「そう。まあ、自分自身のためではあるかな、しっくり来るからね、似合うっしょ」
月彦くんは笑った。
でも、なぜか心からの笑顔には見えなかった。
「うん。似合う似合う」
とりあえずは、そう返事。だって本心だから。
月彦くんは続けて話した。
「自分の髪が長いと自分だっていう感じがしてやる気が出るんだよ。自分でも長い方が似合うと思ってるしね、長い方が、だよ」
「うん、分かるよ。……ふうん、そうなんだね、自分感、大事だね」
「…うん」
なんでそんな格好をしているの? だなんて、無粋だったな――と私は思い直した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アタエバネ ~恵力学園一年五組の異能者達~
弧川ふき
ファンタジー
優秀な者が多い「恵力学園」に入学するため猛勉強した「形快晴己(かたがいはるき)」の手首の外側に、突如として、数字のように見える字が刻まれた羽根のマークが現れた。
それを隠して過ごす中、学内掲示板に『一年五組の全員は、4月27日の放課後、化学室へ』という張り紙を発見。
そこに行くと、五組の全員と、その担任の姿が。
「あなた達は天の使いによってたまたま選ばれた。強引だとは思うが協力してほしい」
そして差し出されたのは、一枚の紙。その名も、『を』の紙。
彼らの生活は一変する。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる