STEOP 気になる異装のはとこさん

弧川ふき

文字の大きさ
上 下
3 / 42

(呼夢の視点) 出会い

しおりを挟む
 微妙に赤み掛かった栗毛色の髪を胸の下くらいまで綺麗に長く伸ばした十五歳くらいの男の子が目の前にいるらしい。正直女の子にしか見えない。だから「らしい」なんだけど――。
「猫国魔軍!スタイル抜群な隊長はいつも口下手」のニャリーン隊長の服装でいると、私に言えた義理ではないが、目の前の男に、なぜそんな格好をしているのかと、聞いてみたくなる。
 しかも、この男が、今日から同居する雅川ががわ月彦つきひこくんらしい。
 正直萌える。
 握手をしたけれど、変な誘い方をしてしまった。初対面で「ござる」だなんて……
 ――キャッ恥ずかしいわ! 顔に出さないようにしとこ!
 さっきの事を考えないようにして、とりあえず聞いてみた。
「えっと、なんでそういうカッコなの? 心がオネエとか?」
「違います」
 と否定だけは済ませた月彦くんの横から、お母さんが言い出した。
「そこの左の部屋を使ってね」
 月彦くんが「はい」と、返事した瞬間、私はまた聞きたくなった。
「制服は? いつから学校行くの?」
 月彦くんは私の左隣の部屋へと移動し始めた。
「制服はこれから」月彦くんは動きながら。「学校は明日から行きますよ」
「何か手伝うことある?」
 一緒に、その部屋に入りながら、私が聞いた。
 すると。
「むしろ手伝ってほしくないです」
 私はしょんぼりしてしまった。でも、ズカズカし過ぎたかもしれぬ。
 ――気を付けねばねば。

「制服を買いに行ってくるからね」
 母が私の部屋に入ってきて、その段階になったと知らせてくれた。
 萌えポイントが呼んでいる。
 そう思った私は当然「私も行く」と宣言した。
 月彦くんは意外と肉付きがよく、ズボンは太腿が基準になり若干ムッチリしている。太っているワケではない。上半身もそう。ガタイがいいように見えて、なんだか――
 ――月彦くん、なんか、胸がある……?
 店で私がそれを聞いてみると、本人は少し考えたような仕草をしてから答えた。
「胸筋のせいじゃないかな。一時期、懸垂とか腕立てとかめっちゃしたし」
「そっか…」
 ――それで丸みがあるように見えるのか。
 サイズの合う服を着た彼は、正直やっぱりズボンタイプの制服を着た女の子にしか見えない。
 ――うーん、やっぱりほんのり胸があるように見える……。
 私が思っていると、店の人の話し声が。
「このネクタイは輪の左側を引っ張って首に通して整えて裏を下へ引っ張るだけでいいですので」
 女子のもだいたい同じ仕様だ。
 ――私と同じところの制服……こうして見ると、男ものも可愛く見える……。
 そんなこんなで買えて帰ってきたら、お父さんがテレビを見てくつろいでいた。
「父上、月彦くんが到着しておりますぞ」
 私がそう言うと、お父さんがこちらを向いて目を上下させた。
「お前その格好で行ったのか。店の人、驚いたろ」
「面白き経験を提供したでござる」
「所構わず提供……まぁいっか、その格好なら」
 いいんだ……という声が月彦くんの方から聞こえてきそうで、こなかった。顔はそんな感じだったけど。

 食卓を囲んだ時、母が説明した。
「明日、朝早くから呼夢こゆめが一緒に登校してルートを教えて、職員室まで連れていってね」
「承知!」

 明日は早く起きねばと、「フォンボード」の目覚まし機能をオンにし、設定した。
 それから寝て、起きてからすぐ目覚ましを確認。
「くっくっく、どうやら早く起き過ぎてしまったようだな…」
 朝食は一緒に……という時、月彦くんの寝巻姿を見たが、それもラフな女の子にしか見えなかった。
 ――うぅむ………萌え!

 制服に着替え、腕時計化したフォンボードもしっかり腕に着け、鞄も持ち、いざ参る。
 歩き、電車、歩き……その順番の経路の途中……月彦くんが歩みを止めてバッグからカメラを取り出し、山を撮影した。
「山が好きなの?」
「……ううん。自然とか、綺麗な人工物とかは好き。人はあまり撮らない」
 過去に何かあったのか。
 ――解き放ってやりたさを感じる……それも萌え。
 そんなこんなで少しだけ丘になった所にある明先めいせん高校の入口前の坂に到着。
「写真部に入るの?」
 少し疲れる程度の坂を上がって行きながら、私は聞いた。
 月彦くんは私の後ろをついて来ながら。
「入らないと思う。学校のことで人を撮るのを任されそう。それが嫌だから」
「……そっ」
 いつか進んで人を撮る日が来ればいいのかもなぁ…と、ただ勝手に思いながら、私は校舎までを歩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の後輩が諦めてくれません

碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。 彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。 亀じゃなくて良かったな・・ と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。 結は吾郎が何度振っても諦めない。 むしろ、変に条件を出してくる。 誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

アタエバネ ~恵力学園一年五組の異能者達~

弧川ふき
ファンタジー
優秀な者が多い「恵力学園」に入学するため猛勉強した「形快晴己(かたがいはるき)」の手首の外側に、突如として、数字のように見える字が刻まれた羽根のマークが現れた。 それを隠して過ごす中、学内掲示板に『一年五組の全員は、4月27日の放課後、化学室へ』という張り紙を発見。 そこに行くと、五組の全員と、その担任の姿が。 「あなた達は天の使いによってたまたま選ばれた。強引だとは思うが協力してほしい」 そして差し出されたのは、一枚の紙。その名も、『を』の紙。 彼らの生活は一変する。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは、一切関係ありません。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...