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(月彦の視点) はじまり2
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実験の日々が数日過ぎると、家族が面会に来た。母と兄と姉と弟。父は抜けられない仕事があるという話だった。
「STEOPが分かったら――」
と、母が話し出した。
「――そうだ、あたしの従妹の一家がここに住んでるから、そこにお世話になりなさいよ、ひとりはまだ無理だろうし、ねっ。何かあった時はここの方がいいんだし。ね」
友人と言えるほどのクラスメイトなんかもいなかった。元同級生も。
新ヶ木島ではSTEOP発現者へのサポートが金銭面でも充実している、だからその方がいいというのは分かるけど……別の言い方で聞きたかった。
「……うん、分かった」
着替え、その他の要る物だけをひとまず受け取った。
兄と弟が純粋にSTEOP能力を気にしたのが嬉しかった。いつも通りみたいで。
少しだけ喋った。どんな発現は感じだったかとか、ここでのこととか、ほんの数日のあいだに何があったのかとか。
「これ、持ってきてあげたよ、あんたには必要でしょ?」
そう言った姉の手にあるのは僕が愛用しているカメラ。
一時間もしたら四人は帰っていった。
いや、もしかしたら観光してから帰りそうだ。母の従妹もいるというし、そこへのあいさつにも行くんだろう。
見送ってからも特定試験は続く。
裏返しのカードの表の絵を当てようとしたり、転がしたボールに止まれと念じてみたり、紙の折り目を消そうとして念じてみたり、重いダンベルを軽々と持てたらと思って念じてみたり……様々なことを試した。
何日も何日も。
研究所には食堂や運動する場所などの施設が豊富にあった。
研究所の裏の坂になった草地を歩いている時に気付いた――歩くのがきついなと地味に思っていたら、急に楽になって、視野の角度まで変わった。どうやら自分に掛かる重力の向きを変えることができたらしい。
それからは簡単な確認作業の連続。
崖、壁、天井、岩……を歩く。
あくまで自分に掛かる重力の向きを変える力らしい。それを使っている間は天井だって歩ける。触れた相手にもその現象は起こる。
判明したことを、次の実験時に男性所員に話した。
すると。
「よかったな、割と早かった。月彦くんのお母様から、もう手続きを済ませたと聞いてる。明日用紙が届くよ」
――ふうん……。
「そうだ、転入試験はないんですか?」
「あるよ、それも明日だ」
翌日、テストを受けた。
そこまで難しくはなかった。
数日後、ある所員が言った。
「合格だそうだ。ここのサポートを受けて転入できる。さて、キミのはとこの住所はここだ」
メモを渡された。
「そこへ行けば――ってコトだが、まぁ迎えが来るんだろう?」
「え、そうなんですかね」
「…確認してみるよ」
彼が腕時計をケータイ化させて、それでどこかへと電話した。それから。
「明日迎えにくるってさ」
そして翌日。
出入り口前から外を眺めながら胸に芽生えたものを感じた。
――この島にも、魅力的な場所がいっぱいあるんだろうな……。
かなりギッシリと物が入ったスポーツバッグを片手に、左手首には腕時計。首からはデジタルズームカメラ(耐水性で単体で即印刷可能なもの)を提げ、歩き出し、十数歩の所で、前方にいる女性に呼ばれた。
「月彦くん、こっち。乗って」
――あの人か。……小さい頃にも会ったことがないんじゃないかなぁ……。
と、思いながら歩き寄ると。
「私、月彦くんのお母さんの従妹のハナカっていうの。花が香ると書いて花香。よろしくね」
「よろしくお願いします、こちらこそ」
「電話番号、交換しとこ」
「あ、はい」
腕時計をしたままの手首を互いに近付け、腕時計の横のスイッチをふたりともが押すと、ピポパポピポパン、ピポパポピポパン、と完了の音が鳴った。
「お母さんから教わっててもよかったのに」と僕が言うと。
「え、番号? 本人から知りたいじゃない?」
まあもっともだった。
「さあ出発~!」
山から町へ。可愛らしい車で向かう。
道中、首から提げたケースからカメラを取り出すと、近付く町並みを、一枚だけ撮った。
「ただいま~」
花香さんのあとに、とあるマンションの506号室へと入った。靴を脱ぎ、大荷物を手に、リビングまで歩いた。右にふたつ、部屋が隣り合っているようで、スライド式半自動ドアがこちら向きに二面、見えている。
そのひとつが今開いた。
出てきたのは女性。同年代くらいに見える。彼女が口を動かした。
「…え? 女の子?」
「男です」
「え! あなたが月彦くんっ?」
疑問はこちらにもある。この女性が、黒い軍服のようなものを身にまとい、猫耳っぽいものを着けているからだ。しかもちょっと服がセクシー。
「はじめまして。洲中呼夢でござる」
彼女は手を差し出してきたが、握手を求められていると気付いたのは五秒後くらいだった。
「STEOPが分かったら――」
と、母が話し出した。
「――そうだ、あたしの従妹の一家がここに住んでるから、そこにお世話になりなさいよ、ひとりはまだ無理だろうし、ねっ。何かあった時はここの方がいいんだし。ね」
友人と言えるほどのクラスメイトなんかもいなかった。元同級生も。
新ヶ木島ではSTEOP発現者へのサポートが金銭面でも充実している、だからその方がいいというのは分かるけど……別の言い方で聞きたかった。
「……うん、分かった」
着替え、その他の要る物だけをひとまず受け取った。
兄と弟が純粋にSTEOP能力を気にしたのが嬉しかった。いつも通りみたいで。
少しだけ喋った。どんな発現は感じだったかとか、ここでのこととか、ほんの数日のあいだに何があったのかとか。
「これ、持ってきてあげたよ、あんたには必要でしょ?」
そう言った姉の手にあるのは僕が愛用しているカメラ。
一時間もしたら四人は帰っていった。
いや、もしかしたら観光してから帰りそうだ。母の従妹もいるというし、そこへのあいさつにも行くんだろう。
見送ってからも特定試験は続く。
裏返しのカードの表の絵を当てようとしたり、転がしたボールに止まれと念じてみたり、紙の折り目を消そうとして念じてみたり、重いダンベルを軽々と持てたらと思って念じてみたり……様々なことを試した。
何日も何日も。
研究所には食堂や運動する場所などの施設が豊富にあった。
研究所の裏の坂になった草地を歩いている時に気付いた――歩くのがきついなと地味に思っていたら、急に楽になって、視野の角度まで変わった。どうやら自分に掛かる重力の向きを変えることができたらしい。
それからは簡単な確認作業の連続。
崖、壁、天井、岩……を歩く。
あくまで自分に掛かる重力の向きを変える力らしい。それを使っている間は天井だって歩ける。触れた相手にもその現象は起こる。
判明したことを、次の実験時に男性所員に話した。
すると。
「よかったな、割と早かった。月彦くんのお母様から、もう手続きを済ませたと聞いてる。明日用紙が届くよ」
――ふうん……。
「そうだ、転入試験はないんですか?」
「あるよ、それも明日だ」
翌日、テストを受けた。
そこまで難しくはなかった。
数日後、ある所員が言った。
「合格だそうだ。ここのサポートを受けて転入できる。さて、キミのはとこの住所はここだ」
メモを渡された。
「そこへ行けば――ってコトだが、まぁ迎えが来るんだろう?」
「え、そうなんですかね」
「…確認してみるよ」
彼が腕時計をケータイ化させて、それでどこかへと電話した。それから。
「明日迎えにくるってさ」
そして翌日。
出入り口前から外を眺めながら胸に芽生えたものを感じた。
――この島にも、魅力的な場所がいっぱいあるんだろうな……。
かなりギッシリと物が入ったスポーツバッグを片手に、左手首には腕時計。首からはデジタルズームカメラ(耐水性で単体で即印刷可能なもの)を提げ、歩き出し、十数歩の所で、前方にいる女性に呼ばれた。
「月彦くん、こっち。乗って」
――あの人か。……小さい頃にも会ったことがないんじゃないかなぁ……。
と、思いながら歩き寄ると。
「私、月彦くんのお母さんの従妹のハナカっていうの。花が香ると書いて花香。よろしくね」
「よろしくお願いします、こちらこそ」
「電話番号、交換しとこ」
「あ、はい」
腕時計をしたままの手首を互いに近付け、腕時計の横のスイッチをふたりともが押すと、ピポパポピポパン、ピポパポピポパン、と完了の音が鳴った。
「お母さんから教わっててもよかったのに」と僕が言うと。
「え、番号? 本人から知りたいじゃない?」
まあもっともだった。
「さあ出発~!」
山から町へ。可愛らしい車で向かう。
道中、首から提げたケースからカメラを取り出すと、近付く町並みを、一枚だけ撮った。
「ただいま~」
花香さんのあとに、とあるマンションの506号室へと入った。靴を脱ぎ、大荷物を手に、リビングまで歩いた。右にふたつ、部屋が隣り合っているようで、スライド式半自動ドアがこちら向きに二面、見えている。
そのひとつが今開いた。
出てきたのは女性。同年代くらいに見える。彼女が口を動かした。
「…え? 女の子?」
「男です」
「え! あなたが月彦くんっ?」
疑問はこちらにもある。この女性が、黒い軍服のようなものを身にまとい、猫耳っぽいものを着けているからだ。しかもちょっと服がセクシー。
「はじめまして。洲中呼夢でござる」
彼女は手を差し出してきたが、握手を求められていると気付いたのは五秒後くらいだった。
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