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天獣編
守護結界の赤天石と、不動和行の力。それと交苺官三郎の力。
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佐田山柔と更上磨土が天獣を倒したその日の下校時には、取材陣が押し寄せた。
「一年五組ですか! 恵力学園に天使の力を与えられた異能者達がいると聞いたのですが! ぜひ取材を!」
そんな門前の記者らを、形快晴己は、肉体改造によって跳躍力、緩衝力を上げた状態で跳び越え、
「ごめんなさぁい!」
とだけ言って走り去った。馬のように。
話す必要はない――と晴己は感じていた。天獣は恵力学園にやって来る。再びの封印を恐れ、間違って封印の羽根を宿すことになった者を、恐らく殺しに。封印の羽根の抽出を天使らが成功するのを、彼らは嫌っている。守るべきは自分達や学園。そこが襲われるから。
翌日、記者は登校時にも現れたが、晴己は、それを、
「ごめんなさい!」
と跳び越え、やはりそそくさと教室へと向かった。そして最中振り返っても、こう言うだけだった。
「学園は危ないんで帰ってください!」
「天獣が意思を持っているかって?」
帰りのホームルームで担任のベージエラに対し、晴己がそのことを聞いた。だから晴己は、もう少し説明をと付け足した。
「このあいだ、こちらが優勢になったらむしろ怖がったみたいで。動物の本能と一緒ならそれまでですけど」
「大した意思は持ってないはずよ、天の世界でも危ないから獣と言っているの。ほとんど本能よ、気にしないで。それよりも」
そこで一息吐き、ベージエラは、真剣な眼差しを五組の全員に向けた。
「守護結界の赤天石というものが昨日届いたから、それで学校をぐるーっと囲って守れるようにしておいたの。これで校内に入れない天獣を察知して被害を抑えて戦うことができるわ。まあ、でも、これは、力が強くなった天獣に対してはあまり効果がないけど、当面は大丈夫」
「ほぉぉ、なるほど」
「ほかのクラスの子はさっさと帰りなさ~い」
横で、興味津々に話を聴こうとしている者がいた。至極当然。天使だとか異能力……非日常過ぎる。こんな一言三言で帰るならそれに越したことはない、ベージエラは心配したが、そこまでではなかった。
その夕方、晴己が帰ったあとに、ベージエラは天獣の気配を感じた。
そちらに我が生徒はいるのかどうか。自分でも対応できるのかどうか。ベージエラは急いで向かった。
現場に着いたベージエラが見たのは、北の塀の向こうへ行こうとよじ登る自身の生徒――二人だった。
一人は、柔道部の不動和行。
『衝撃力を操作する』
彼は、相手や自分が投げ技などによって受ける衝撃を緩和できればと思い、そんな力を選んだ。
もう一人は、交苺官三郎。
『物体を交換する』
ボウリング部の官三郎は、ボールで足や手などを下敷きにしてしまう事故などを防ぐために、そして天獣などとの戦闘時のサポートのために、その力を選んだ。
和行は、塀を登った時に言葉を発した。
「いちいち塀の外に出るのは手間だな。まぁアイツは入ってこないけど」
ベージエラが一定距離に一石ずつ置いている、守護結界の、小さな赤天石。ぱっと見は塀の装飾。
天獣はその外から入りたそうにはしたが、どうやっても入れなかった。電気が走ったように弾かれ、
「うぎぎぃ……」
と鳴くだけだった。
そこへ、和行と官三郎が飛び降りた。
和行は、柔道着姿のまま、綺麗に受け身をとってレンガ敷きの歩道に着地。
官三郎はというと、ユニフォーム姿で格好つけて金髪を掻き上げたが、その実、着地の衝撃のすべてを足で受け止めた彼の足は、ジンジンとしびれていた。
途端に、天獣は二人に飛び掛かった。
だが、天獣は、すぐに遠くへと位置を変えられた。変えたのは官三郎だった。
官三郎は、奥の草と天獣の位置を入れ替えたのだった。二人の目の前に、静かに草が舞った。
「うぎ?」
天獣はキョロキョロとしたあとで、二人を再度見付け、飛び掛かった。
だが、その時にはもう、和行には余裕がたっぷりとあった。
和行は石を拾い上げ、それを、かなり勢いよく投げた。
ただの人に当たっても、それはただ「痛っ」という程度のもののはずだった。
だが和行がその力を使った時――
「ぎっ!」
天獣の腹は、分厚い弾で貫かれたように、石の当たった部分が大きく丸くえぐれた。天獣はその姿で身動きをしなくなり、そして前方へと静かに倒れた。
当たった石は、その瞬間、和行の側へと少々跳ね返り、天獣の足元へと転がっていた。そこへ天獣は倒れたのだった。
そして、ウズヴォヴォヴォと奇妙な音を立てて消えた。
不動和行は拳を突き出し、相方にそうするよう笑い掛けた。それに釣られて交苺官三郎も拳を突き出した。そして二人は拳で軽くハイタッチした。
「楽勝だったな」
と、和行が言うと、官三郎は、油断するなよと顔で言いながら笑った。
「これからもそうだといいな」
「おい、そんなこと言うなよ、ホントっぽくなるだろ」
「……はは、なるのか?」
「ならないようにする」
和行のその顔には、できる、としか書かれていない。
「あ……ありがとう!」
通行人は悲鳴でも上げていたのか……その一部始終をベージエラは知らなかったが、実はそうだった。そのための感謝を耳にして、部活用の服のまま、
「いえいえ」
と、和行達は、塀に足を掛け、登り、学園側へと戻った。
その展開だけを見たベージエラは、思った。
(やっぱり私より凄くない?……私も頑張ろ)
「一年五組ですか! 恵力学園に天使の力を与えられた異能者達がいると聞いたのですが! ぜひ取材を!」
そんな門前の記者らを、形快晴己は、肉体改造によって跳躍力、緩衝力を上げた状態で跳び越え、
「ごめんなさぁい!」
とだけ言って走り去った。馬のように。
話す必要はない――と晴己は感じていた。天獣は恵力学園にやって来る。再びの封印を恐れ、間違って封印の羽根を宿すことになった者を、恐らく殺しに。封印の羽根の抽出を天使らが成功するのを、彼らは嫌っている。守るべきは自分達や学園。そこが襲われるから。
翌日、記者は登校時にも現れたが、晴己は、それを、
「ごめんなさい!」
と跳び越え、やはりそそくさと教室へと向かった。そして最中振り返っても、こう言うだけだった。
「学園は危ないんで帰ってください!」
「天獣が意思を持っているかって?」
帰りのホームルームで担任のベージエラに対し、晴己がそのことを聞いた。だから晴己は、もう少し説明をと付け足した。
「このあいだ、こちらが優勢になったらむしろ怖がったみたいで。動物の本能と一緒ならそれまでですけど」
「大した意思は持ってないはずよ、天の世界でも危ないから獣と言っているの。ほとんど本能よ、気にしないで。それよりも」
そこで一息吐き、ベージエラは、真剣な眼差しを五組の全員に向けた。
「守護結界の赤天石というものが昨日届いたから、それで学校をぐるーっと囲って守れるようにしておいたの。これで校内に入れない天獣を察知して被害を抑えて戦うことができるわ。まあ、でも、これは、力が強くなった天獣に対してはあまり効果がないけど、当面は大丈夫」
「ほぉぉ、なるほど」
「ほかのクラスの子はさっさと帰りなさ~い」
横で、興味津々に話を聴こうとしている者がいた。至極当然。天使だとか異能力……非日常過ぎる。こんな一言三言で帰るならそれに越したことはない、ベージエラは心配したが、そこまでではなかった。
その夕方、晴己が帰ったあとに、ベージエラは天獣の気配を感じた。
そちらに我が生徒はいるのかどうか。自分でも対応できるのかどうか。ベージエラは急いで向かった。
現場に着いたベージエラが見たのは、北の塀の向こうへ行こうとよじ登る自身の生徒――二人だった。
一人は、柔道部の不動和行。
『衝撃力を操作する』
彼は、相手や自分が投げ技などによって受ける衝撃を緩和できればと思い、そんな力を選んだ。
もう一人は、交苺官三郎。
『物体を交換する』
ボウリング部の官三郎は、ボールで足や手などを下敷きにしてしまう事故などを防ぐために、そして天獣などとの戦闘時のサポートのために、その力を選んだ。
和行は、塀を登った時に言葉を発した。
「いちいち塀の外に出るのは手間だな。まぁアイツは入ってこないけど」
ベージエラが一定距離に一石ずつ置いている、守護結界の、小さな赤天石。ぱっと見は塀の装飾。
天獣はその外から入りたそうにはしたが、どうやっても入れなかった。電気が走ったように弾かれ、
「うぎぎぃ……」
と鳴くだけだった。
そこへ、和行と官三郎が飛び降りた。
和行は、柔道着姿のまま、綺麗に受け身をとってレンガ敷きの歩道に着地。
官三郎はというと、ユニフォーム姿で格好つけて金髪を掻き上げたが、その実、着地の衝撃のすべてを足で受け止めた彼の足は、ジンジンとしびれていた。
途端に、天獣は二人に飛び掛かった。
だが、天獣は、すぐに遠くへと位置を変えられた。変えたのは官三郎だった。
官三郎は、奥の草と天獣の位置を入れ替えたのだった。二人の目の前に、静かに草が舞った。
「うぎ?」
天獣はキョロキョロとしたあとで、二人を再度見付け、飛び掛かった。
だが、その時にはもう、和行には余裕がたっぷりとあった。
和行は石を拾い上げ、それを、かなり勢いよく投げた。
ただの人に当たっても、それはただ「痛っ」という程度のもののはずだった。
だが和行がその力を使った時――
「ぎっ!」
天獣の腹は、分厚い弾で貫かれたように、石の当たった部分が大きく丸くえぐれた。天獣はその姿で身動きをしなくなり、そして前方へと静かに倒れた。
当たった石は、その瞬間、和行の側へと少々跳ね返り、天獣の足元へと転がっていた。そこへ天獣は倒れたのだった。
そして、ウズヴォヴォヴォと奇妙な音を立てて消えた。
不動和行は拳を突き出し、相方にそうするよう笑い掛けた。それに釣られて交苺官三郎も拳を突き出した。そして二人は拳で軽くハイタッチした。
「楽勝だったな」
と、和行が言うと、官三郎は、油断するなよと顔で言いながら笑った。
「これからもそうだといいな」
「おい、そんなこと言うなよ、ホントっぽくなるだろ」
「……はは、なるのか?」
「ならないようにする」
和行のその顔には、できる、としか書かれていない。
「あ……ありがとう!」
通行人は悲鳴でも上げていたのか……その一部始終をベージエラは知らなかったが、実はそうだった。そのための感謝を耳にして、部活用の服のまま、
「いえいえ」
と、和行達は、塀に足を掛け、登り、学園側へと戻った。
その展開だけを見たベージエラは、思った。
(やっぱり私より凄くない?……私も頑張ろ)
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