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2章

8話 きっとまともという言葉はまともな奴に限る

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「あははは!あの受付の人、めっちゃ驚いてたわね!」

「そうですわね!確かこんな感じでしたかしら?「う、え、あ、あなた達で本当にクリアしたんですか…?」」

「ぷっ、あははは!そうそう、そんな感じ!」

「俺とカトレア何もしてねえけどな」

 浮かれるカトレアに一応釘を打っておく。
 あの熊型モンスターは長年の間討伐されておらず、サマラクトの人達も隣街からの輸入などで困っていたのだそうだ。
 そんなやつをよくもまあ倒せたもんだ。

「それより、この報酬金は皆で別けるってことでいいな?コエルとミーナ、シュバリエさんには無論多めで」

 俺は台に置かれている大量の金貨を横目に問う。
 この世界のお金は札は無く、全てが硬貨で出来ている。硬貨は金貨、銀貨、銅貨で価値が分類されており、金が一番上で銅が一番下となる。それぞれの表面には数字が刻まれ、これまた数値が高いほど価値が上がる。
 報酬金からして、ここにあるだけでざっと百万はあるらしい。
 …と、俺は油断しないぞ?お前の手の内は読めているんだからな、カトレア!
 俺の提案にまたなんかの言い争いが起こるのではないかと身構えた、その時だ。カトレアから発せられた言葉はあまりにも意外なものだった。

「良いわよ」

「「「え」」」
「あら~」

「ちょっと何よ「え」って!私をなんだと思ってるのよ!」

「「「ビームする人」」」
「あら~」

「声揃えてなにそれ!っていうか何で私がつっこまなきゃなんないのよ!つっこみはタケダが担当でしょうが!あーあ!そんなこと言うなら全部私が貰っちゃおうかなあ!」

「分かったから!ごめんカトレア!皆で別けよう!」

 拍子抜けした俺と皆の前に、次々と金貨が積まれて行く。

「じゃ、私焼きそば買って来る!」

 金貨片手にそのまま風の如く走り去って行くカトレアにシュバリエさんが微笑む。

「あらあら~そんなに嬉しかったのね~」

「そうなんですかね……?」

 意外なこともあるもんだ。
 コエルもカトレアの言動に煮えきれない感じだったが突然ハッとし、金貨をむんずと掴むと全てミーナに持たせ始めた。

「お、お嬢様…!溢れちゃいますぅ…!」

「もたもたしていられませんわ!さあ、わたくし達も行きますわよ!」

「ど、どこへですか?」

「決まってますわ……カード売場です!」

 そう言ってカトレアとは反対方向に進んで行くコエルとミーナを見送ると、この場には俺とシュバリエさんが残ったわけだが-

「………」

 今聞くべきだろうか?先の瞬殺劇のことを。
 シュバリエさんはクエスト前、ここで「ステータスを初めて見たから強くなった理由が分からない」と言っていたが、あれは恐らく嘘だ。
 どう考えたって初心者の人が本来の武器を使わずに、袋でましてや目にも止まらない速さで仕留めるなんて常人に出来る事ではない。
 もし、そんな実力を持つ人なら俺らに同行する意味は?ギルドの二階で見てた意味は?
 シュバリエさんって……一体何者だ?

「…どうしたの~ユリヤくん~?具合でも悪い~?」

「え、ああ…いえ、平気ですよ。ちょっと考え事をしてたので」

 シュバリエさんに話し掛けられ、思考を中断する。シュバリエさんの天然ぶりを見る限りいつも通りな感じだし、俺の考え過ぎか?

「それなら良かった~。わたしてっきり何か聞きたいことがあるんじゃないかと思っちゃった~」

「……え?」

「じゃ~わたしは、家に一旦戻るから~。また後でね~」

 -ガランガシャガシャン
 そういえばシュバリエさんはここの出身とか言ってたっけ。
 鎧を引き摺る彼女の後を付けてみようかと一瞬思ったが、さっきのシュバリエさんの言動で不安を煽られ、自分でも驚くほどあっさりと諦めてしまった。



「うん…臭わない…!」

 俺が異世界で稼いだお金で最初に買ったのが服になった。
 この国の今の季節は夏ということなので上はブイネックと胸ポケットが付いた黒の半袖に、下は薄い生地で作られた青の長ズボンを身に付けた。小物にはポーチらしきバッグがセールで売り出されていたためそちらを頂戴し、腰に装着。
 今まで着ていた学校指定の夏用の制服は、至るところが破けてボロボロ、しかも臭かったのでこの際にと思い捨ててやった。
 服が新しくなったお陰で周りから変な目で見られなくなった俺の次なる目的地は、今日何度目かのギルド。
 目的は勿論、

「スキルが欲しいんですけど!」

「では、少々お待ちください」

 最初、武器や防具を買おうかとも思ったのだが非戦闘タイプの俺としては、折角スキルを多く取得出来るのにスキル枠がスカスカなのはどうなのかと思ったのと、スキル次第で武器が無くとも攻撃手段が増えるんじゃないかと思ったからだ。
 それにお金はまだまだあるし、それからでも遅くはない筈。

「お待たせ致しました、こちらの魔法倶に手をかざしてスキルを宿すことが出来ます。その際は一万ゴールドをいただきますが」

「構いません!お願いします!」

 一万円分の金貨を渡し、石板の様な装置に右手をかざす。すると、装置が光り出し……

「宿りましたよ」

「早えっ!…ごほんっ、えーっと……そのスキルって…」

「これは《自動回復》ですね。一定時間毎に体力を回復するスキルですが、職種が旅人ですので一時間に掠り傷の1%ほどしか回復しませんね」

「うっ…」

 やはり、どこまでも旅人の謎過ぎる特殊能力が邪魔をする。
 けれど俺は諦めない。諦めなければ、今よりましなスキルが現れると信じているから。

「もう一度お願いします!」

 再び一万ゴールドを払い、俺は自分の可能性に掛けてみた。



 その結果-
 何回やっただろうか。

《空中飛び》
 空気中を地面のようにジャンプする事が出来るが、旅人の効果で下へしかジャンプ出来ず、一回のみとなる。

《息止め》
 一定時間呼吸を止める事が出来るが、旅人の効果で一秒しか呼吸を止められない。

《見切り》
 対象のあらゆる動きを読み取れるが、旅人の効果で対象が一人、一秒しか読み取る事が出来ない。

《奪取》
 自分の視認出来る範囲で対象の持ち物を奪う事が出来るが、旅人の効果で半径1メートル以内の対象の持ち物を一秒だけ奪う事が出来る。

《瞬間移動》
 自身の魔力の数値が多いほど瞬間移動出来る範囲が広がるが、旅人の効果で半径五メートルの範囲を一秒だけ瞬間移動出来る。

 まともなのがねえよ。
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