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1章

3話 きっと雲の向こう側には崖が待ってる

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 はーい迷った!

 いや、分かってたけどね?あれ?寮の方の灯りが見えなくなってきたぞ、ってなった時から、あ、これ俺迷ったわ、ってなってたけどね?

 あたりはすっかり真っ暗になり、この森の中では右も左も見えやしない。携帯は寮に忘れ、今から戻るにしても余計道に迷うというのがオチだ。
 仕方がない。下手に動いてもあれだし、朝までここで待つか―

「ん?」

 どこか適当な寝床を探そうとした時、数メートル先に何か白いものが通りがかるのが見え、俺は目を凝らす。
 よく見ると、全身の白い毛が印象的な小さな子犬(恐らくチワワ)であった。首輪が付いていないのを見ると野良犬なのだろうか。
 時間は九時頃。まだ寝るのには早い時間だ。

「………」

 どうせ暇だし、面白そうなので俺はあの子犬の行き先まで付いて行ってみることにした。



「お、止まった…?」

 草木を掻き分けながらしばらく付いて行くと、森が開いた。
 これはもしや、出口まで連れて行ってくれたみたいな感じか?と思いきや、どうやら違うらしく目の前には悲しいくらいに崖が広がっていた。
 肝心の子犬といえば崖っぷちに座り、夜空に浮かぶ満月を眺めるという行為がかれこれ数十分続いている。
 犬ってそんなロマンチストなのか、そろそろ帰ろうかな、なんて思い始めていたその刹那。

「……!?」

 俺の目と鼻の先に降り立った黒い物体。そいつは、いくつもの複眼でこちらを見つめ、八本の脚をワキワキ―

「うおわああああああ!」

 俺の最も嫌いとする生命体である『蜘蛛』を振り切り、思い切り前方へダッシュ…いや、走っちゃ駄目じゃね?

 気づいた時にはもう遅い。急に足を止められない俺は子犬に躓き、そのまま崖の下まで真っ逆さま―


 これ、俺死んだ―

 俺が人生でに死を覚悟した瞬間だった。
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